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傷跡が翼に変わるまで ― 偽装結婚からパリへ、私の再生 ― の小説カバー

傷跡が翼に変わるまで ― 偽装結婚からパリへ、私の再生 ―

兄の親友・礼人へ寄せた8年間の恋心は、あまりに無慈悲な裏切りで幕を閉じた。22歳の誕生日、彼が意中の女性・桃花を射止めるために自分との偽装結婚を画策し、厄介払いしようとしている事実を知る。さらに落下事故の際、彼は迷わず桃花を救い、重傷を負った私を冷たく池へ突き落とした。献身的な愛を利用され、心身共に絶望の淵に立たされた私は、彼への未練を断ち切る決意を固める。九死に一生を得た後、思い出の品を全て捨て去り、再生を懸けてパリへの留学を決意した。これは、かつての執着を脱ぎ捨て、自分のために新たな一歩を踏み出す再生の物語。
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―― 辰巳恵梨 ――

私は静かに招待状を受け取った。そして、深く頭を下げた。「はい、分かりました。お二人の幸せを心から願っています」私の言葉は、礼人にも桃花にも、私の心からの決別を伝えるものだった。私は礼人の方を向いた。「礼人さん、これまでの私の行動が、あなたにとって越権行為だったことは深く反省しています。これからは、兄の親友として、適切な距離を保ちます」

その言葉を聞いた周囲の人々は、一斉にざわめき始めた。彼らは私の過去の行動を嘲笑うように囁き合った。「恵梨ちゃん、礼人さんのこと、ずっと追いかけてたもんね」「あの時も、礼人さんのこと、どれだけ好きかみんなにアピールしてたっけ」「いい加減諦めないと、辰巳家の名誉にも傷がつくわよ」

彼らの言葉は、まるで塩を擦り込まれるかのように、私の傷口に深く染み込んだ。私は礼人の方を見たが、彼の表情は相変わらず淡々としていた。私には、彼がまるで別人に見えた。過去の彼なら、こんな言葉を言われたら、きっと何かを言ってくれたはずだ。しかし、今の彼は、私に対して何の感情も抱いていないように見えた。

私は理解した。彼が私に優しくしてくれたのは、ただ光平の妹だからという理由で、私を傷つけたくなかっただけなのだ。そして今、彼は私を完全に切り捨てようとしている。私はその場にいるのが耐えられなくなり、静かにその場を後にした。

家族たちはそれぞれの来客との挨拶に忙しく、私の退席に気づく者はいなかった。礼人は堂々と桃花を「妻」として紹介し、彼女に惜しみない愛情を注いでいた。桃花の髪を優しく撫で、彼女のグラスが空になる前に新しい飲み物を差し出す。その一つ一つの仕草が、彼が桃花をどれほど大切にしているかを物語っていた。周囲の人々は「北島さん、本当に奥様を愛しているわね」「お似合いの夫婦だわ!」と口々に称賛していた。

私はその光景を直視できず、会場の隅にある小さなテーブルに身を寄せた。しかし、桃花は私を見逃さなかった。彼女はふと私の方を見ると、礼人の隣を離れ、まっすぐに私の元へ歩いてきた。

「恵梨ちゃん、もしかして怒ってる?」桃花はにこやかに、しかしどこか挑発的に尋ねた。

私は首を横に振った。「いいえ、全く。もう礼人さんのことは、なんとも思っていませんから」私の声は、私自身でも驚くほど冷徹だった。

桃花は私の言葉に、さらに挑戦的な笑みを浮かべた。「本当に? 信じられないな。だって、あなたは八年間も礼人さんに執着していたんでしょう?」彼女は私の腕を掴み、引き留めようとした。「ねぇ、教えてくれる? あなたは礼人さんのどこがそんなに好きなの? いつから好きなの?」

その時、頭上からギシギシと嫌な音がした。見上げると、会場の天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアが、わずかに揺れていた。私は嫌な予感がしたが、桃花とのやり取りに意識を集中していた。その瞬間、シャンデリアを吊るしていたワイヤーが、金属音を立てて切れた。

礼人はその音に気づき、顔色を変えた。彼は私の隣にいた桃花の方へ、迷わず駆け寄った。私の目には、彼が桃花を抱きしめ、彼女を庇う姿がはっきりと映った。そして、次の瞬間、私を遮るようにシャンデリアが落下してきた。

ガシャーン! という轟音と共に、私は激しい衝撃に襲われた。激痛が全身を貫き、視界が真っ白になる。私は地面に叩きつけられ、全身から血が噴き出した。手足が震え、全身が痙攣する。意識が遠のく中、私の目に映ったのは、桃花を抱きしめ、優しく囁きかける礼人の姿だった。彼は私の方を一度も振り向かなかった。

私は深い闇の中へと落ちていった。

次に目を覚ますと、私は病院のベッドにいた。サイドテーブルには点滴がぶら下がり、消毒液の匂いが鼻を突く。ベッドの傍らには、心配そうな顔をした光平が座っていた。

「恵梨! 目を覚ましたか!」光平は私の手を取り、安堵の表情を見せた。「本当に、本当にごめん。俺が、お前を守れなかった」彼の声は震えていた。

私はか細い声で答えた。「お兄ちゃんのせいじゃない…」私は彼を慰めた。礼人の行動は、彼が桃花をどれだけ深く愛しているかの証だった。彼が私を見捨てたのは、彼の本能的な選択だったのだ。

光平は怒りに震える声で言った。「礼人の奴、お前がシャンデリアの下敷きになった時、桃花を庇って、お前のことを見捨てたんだぞ! こんなひどい奴、俺は許さない!」

私は彼の言葉に、苦笑いを浮かべた。「いいの。もう、彼のことはなんとも思っていないから」私の心は、もはや何の感情も抱かなかった。あの雨の夜に、私の恋は終わったのだ。今回の事故で、私の心は完全に冷え切った。

光平は私の決意を感じ取ったようだった。「分かった。恵梨が何を望むにしても、俺は全力でサポートする」彼の言葉は、私にとって何よりも心強いものだった。

私はかろうじて笑顔を絞り出した。体はまだ痛むが、心は不思議と穏やかだった。事故から十日後、私はパリ行きの航空券を予約した。これが、私の新しい人生の始まりだ。航空券を手にした時、私は初めて、心の底から自由になった気がした。もう、誰かの影に怯える必要はない。誰かの愛を待ち続ける必要もない。私は、私自身のために生きていく。

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