
兄嫁に囚われた人を愛した九年
章 3
温晴はあっという間に庭へ引きずり出された。何者かに膝裏を蹴られ、彼女はなすすべもなくその場に跪く。
叩きつけるような豪雨に、温晴は目も開けられない。薄手のワンピースはずぶ濡れだ。
凍える体は震え、唇から血の気が引いていく。その顔はまるで死人のようだ。
朦朧とする意識の中、二階にある陸靳野との夫婦の寝室に、明かりが灯るのが見えた。
窓の外で雷鳴が轟き、稲光が閃く。それに応えるかのように、室内もまた激しい情熱に満ちていた。
絡み合う二つの影が、やがて窓辺へとにじり寄る。そして、カーテン越しに何かの行為が始まった。
あまつさえ……商琴雅の手が窓ガラスに強く押し付けられている。それは、温晴に対する明確な挑発だった。
その光景を目の当たりにし、温晴の心は奈落の底へと突き落とされた。
二人の喘ぎ声さえ、耳に届くようだった。
足が治っていないと嘘をつき、温晴が必死に専門家を探し回っている間も、陸靳野はこうして夫婦の寝室で義姉と情事に耽っていたに違いない。
笑止千万だ。その頃、温晴は彼の「男」を取り戻させようとネグリジェに着替えて誘いをかけても、その度に冷たい顔で突き放されてきたというのに。
温晴はうなだれる。涙はすでに雨に溶け、静かに流れ落ちていた。
そう、彼にも情欲はあった。その対象が、自分ではなかったというだけのこと。
しばらくすると、二階の気配が止み、やがて明かりが消えた。
「靳野がどれほど私を愛しているか、その目で確かめた?」
ネグリジェ姿の商琴雅が階段を降りてくる。その首筋は、生々しい痕で埋め尽くされていた。
彼女は戸口に寄りかかり、勝ち誇ったように妖艶な笑みを浮かべる。
その瞬間、温晴の瞳孔が鋭く収縮した――
商琴雅がまとっているのは、温晴が嫁入り道具として実家から持ってきた、上質なシルクのネグリジェだったのだ!
冷たい雨が氷の矢となり、容赦なく温晴の胸を貫く。窒息感に襲われた瞬間、商琴雅に掴みかかられた。
「温晴、しらばっくれないで。さっきあなたが玄関まで薬を持ってきていたことくらい、お見通しよ」
轟く雷鳴が、歪んだ彼女の顔を青白く照らし出す。その形相は、まるで悪鬼だ。
「全部見ていたなら、はっきり教えてあげる」
「まだ自分の立場が分かっていないわけ? 靳野にとって、あなたはただの笑い草でしかないのよ!」
「私と靳野は幼い頃から寄り添い、この家で互いだけを頼りに生きてきたの。
彼は私に抱きしめられて初めて安心して眠れる。私のためにカーレースを始めたのも、『こうすれば一番に君を助けに行ける』と言ってくれたから。
高熱にうなされている時でさえ、彼が呼び続けるのは私の名前。あなたごときが、私と張り合えると思ってるの?」
温晴は目を伏せる。自分が、あまりにも滑稽だった。
陸靳野が意識不明で生死の境をさまよっていた時、つきっきりで看病したのは、この自分だというのに。
確かにあの日々、高熱にうなされた陸靳野は「琴琴……」と呟いていた。
温晴は、それを自分の名前と勘違いし、愚かにも何日も浮かれていたのだ。
温晴が打ちのめされた様子を見て、商琴雅は胸の前で腕を組む。
得意満面に彼女を見下ろしながら。
「温晴、本当に恥知らず。昔、靳野が言っていたわ。『金魚のフンみたいにしつこくつきまとってくる女がいて、どうやっても振り切れない』って」
「とにかく、あなたには身の程をわきまえさせる必要がある。今日のことは、そのためのほんの警告よ!」
温晴の額に冷や汗がびっしりと浮かぶ。彼女は元来、病弱な身だ。
今、商琴雅の言葉を聞き、心臓を無数の矢で射抜かれるような痛みが走る。
彼女はワンピースの裾を強く握りしめ、込み上げる吐き気を必死にこらえて立ち上がろうとする。
その様子に逆上した商琴雅が駆け寄り、容赦なくその手を振り上げた。乾いた音が響く。
「このクズ女、まだ逃げようってわけ?」
温晴は眉をひそめて商琴雅を睨み返すが、朦朧とする意識の中、視界が揺れて相手の姿が四、五重にもぶれて見える。
耳の奥でキーンという音が鳴り響き、激しい眩暈が彼女を襲う。
「クズ女、何の芝居よ? これで跪かないなんて言わせないわよ?」
商琴雅は温晴の肩を掴むと、鬼のような形相で無理やり地面に押さえつける。
「跪きなさいよ、このクズ女!」
その、刹那。戸口から鋭い声が響いた――
「何をしている!」
陸靳野。温晴の骨の髄にまで刻み込まれた、その人の声だった。
張り詰めていた糸が切れ、温晴はその場に崩れ落ち、意識を手放した。
意識を失う直前、陸靳野が血相を変えてこちらへ駆け寄ってくるのが、ぼんやりと見えた。
その顔には、見たこともないほどの焦りが浮かんでいる。
足が不自由だという演技も忘れて、彼は走っていた。
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