
凍える山に消えた私の愛
章 3
倉田恵美 POV:
「お前は, 俺の邪魔をするな! 」
真弘は, そう叫びながら, 私の腕を強く掴んだ. 彼の目には, 怒りの炎が燃え上がっていた. 私は, 彼の腕を振り払おうとしたが, 彼の力には敵わなかった.
真弘は, 私を突き飛ばした. 私の体は, コントロールを失い, 近くにあった鋭利な角に激しく打ち付けられた. 激痛が全身を貫き, 視界が真っ白になった. 今でも, その時の傷跡は私の腕に残っている. 彼が私を傷つけた証拠だ.
「二度と, 俺の邪魔をするな. さもなければ, 次はどうなるか分からないぞ」
真弘は, 冷たい声で私に警告した. 彼の目には, 何の反省の色もなかった. 彼は, 私を傷つけたことに何の罪悪感も抱いていないようだった.
あの時, 私は愚かにも, 自分が悪いのだと思ってしまった. 私が真弘を怒らせたから, 彼が私を傷つけたのだと. 私は, 彼に嫌われたくなくて, 彼に愛されたくて, 自分を責め続けていた.
だが, 今なら分かる. 愛は, そんなものではない. 愛は, 相手を傷つけるものではない. ただ, 愛があるか, ないか. それだけなのだ. 真弘には, 私への愛がなかった. ただそれだけだった.
私の愛は, 一方的なものだった. 私が彼に与えるばかりで, 彼は私から何も受け取ろうとはしなかった. 私は, 彼にとって, ただの都合の良い存在だったのだろう. そして, 私はその中で, 完全に敗北したのだ.
突然, ゴォォォォォォォォォォォォ! という耳をつんざくような激しい爆発音が, 私の耳に響いた. 私は, あまりの音の大きさに, 思わず耳を塞いだ. 何が起こったのか, 理解できなかった.
私は, 恐怖で叫び声を上げた. 何が起こったのか分からず, ただ空を見上げた. そこには, 信じられない光景が広がっていた.
私たちの乗っていた熱気球が, 炎に包まれていた. 火の手は, あっという間に全体を覆い尽くし, 真っ赤な炎が空に舞い上がっていく. 熱気球は, 燃え盛る炎の中で, みるみるうちに高度を下げていった.
「真弘! 熱気球が燃えてる! 助けて! 」
私は, 必死に真弘に電話をかけた. もう, 彼しか頼る者がいなかった.
「恵美, また何か言ってるのか? 俺は今, 忙しいんだ. お前が燃やしたとでも言いたいのか? 」
真弘は, 私の言葉を遮るように言った. 彼は, 私の言葉を信じようとしなかった. いや, 彼は聞こうともしなかった.
「違うの! 本当に燃えてるの! 早く来て! 」
私は, 必死で真実を伝えようとした. だが, 真弘は私の言葉を信じようとしなかった. 彼は, 私を信じるよりも, 綾を信じる方を選んだ.
「綾が今, 体調を崩して病院にいるんだ. お前なんかに構ってる暇はない」
真弘は, そう言い放つと, 一方的に電話を切った. 私の心は, 絶望の淵に突き落とされた.
私と真弘の関係は, 常に彼が主導権を握っていた. 私は, 彼の言葉に逆らうことはできなかった. 彼の言葉は, 私にとって絶対だった. だが, もう, そんな時代は終わったのだ.
その時, 私の携帯電話に再び通知が来た. 綾からのSNS投稿だ.
綾は, 真弘と一緒に, 高空飛行を楽しんでいる写真を投稿していた. 彼らは, 病院にいるはずの綾が, どうしてこんなことを? 私の心は, 激しく動揺した.
綾の投稿には, 真弘と二人で楽しそうに笑っている動画も添えられていた. 彼らは, 病院にいるはずなのに, まるで何も起こっていないかのように, 楽しそうに笑っていた. 私の心は, 絶望に打ちひしがれた.
動画を最後まで見る前に, 炎が私のすぐ傍まで迫っていた. 熱気が, 私の肌を焼く. 私は, 焼死するか, それともこのまま落下して死ぬか, どちらかを選ばなければならなかった.
私は, お腹をそっと撫でた. 涙が, 視界を覆い尽くす. この子だけは, 私と同じ運命を辿らせたくなかった.
「ごめんね, 赤ちゃん. ママは, もうどうすることもできないの」
私は, 震える声でそう告げた. 私の心は, 悲しみでいっぱいだった.
私は, 真弘に最後のメッセージを送った.
「もう, あなたとは終わりにします. どうか, 幸せに」
私は, そうメッセージを送った後, 熱気球から身を投げた.
身体が, 宙を舞う. 落下する感覚が, 私を支配する. 私は, 目を閉じ, 全てを受け入れた.
次の瞬間, 私の魂は, 私の身体から離れた. そして, まるで幽霊のように, 私は病院に立っていた.
真弘と綾が, 親密そうに寄り添っていた. 彼らは, まるで恋人のように, お互いのことを心配し合っていた. 私の心は, さらに深く傷ついた.
「真弘さん, 私, 胸が苦しいわ... 」
綾は, 弱々しい声で真弘に訴えた. 真弘は, 綾を優しく抱きしめ, 額にキスをした.
「恵美さん, どうしてるかしら? さっき電話があったんだけど, 何があったのかしら」
綾は, 心配しているような顔で言った. だが, 彼女の目には, 冷たい光が宿っていた.
「恵美なら, 大丈夫だろ. いつもそうだ. 俺を困らせるのが好きなんだ」
真弘は, 私のことなどどうでもいいと言いたげな顔で言った. 彼は, 私のことなど, 何も気にしていなかったのだ.
「あの熱気球が燃えたって話だけど, 恵美が何かしたのか? あいつはいつもそうだ. 俺を困らせる」
真弘は, 私のことを見下すように言った. 彼は, 私が熱気球を燃やしたとでも思っているのだろうか.
「まさか, そんな. でも, 恵美さんなら, やりかねないわ」
綾は, 真弘の言葉に同調するように言った. 彼女の顔には, 冷たい笑みが浮かんでいた.
「恵美は, 昔からああだ. すぐに拗ねるんだ. 放っておけば, 勝手に家に帰ってくるだろ」
真弘は, そう言って, 綾の頭を優しく撫でた. 彼は, 私のことを信じようとしなかった.
「真弘さん, まさか, 恵美さんが... 」
綾は, 心配そうな顔で言った. だが, 彼女の目には, 冷たい光が宿っていた. 彼女は, 私が死んだことを, 心底喜んでいるようだった.
「救助隊からの連絡だと, 熱気球が燃えたのは, 山頂付近だそうだ. 恵美は, あそこにいたからな」
真弘は, そう言って, 綾の目を見た. 彼の目には, 何の感情もなかった. 彼は, 私が死んだことなど, どうでもよかったのだ.
「綾, 君だけは, 俺が守る. 君の命が, 一番大事なんだ」
真弘は, そう言って, 綾を抱きしめた. 彼の目には, 綾への深い愛情が宿っていた. 私の心は, 絶望で粉々に砕け散った.
私の命は, 彼にとって, 何の価値もなかったのだ. 私が二年もの間, 彼に尽くしてきた愛は, 彼の心には届かなかったのだ. 彼の心は, ずっと綾のものだったのだ.
真弘は, 綾のために仕事を休もうとしたが, 上司に厳しく叱責された.
「中島, 君はまた, 綾さんのために仕事を休むのか! 君の仕事は, 山岳ガイドだぞ! いつまでそんなことをしている! 」
上司は, 真弘を怒鳴りつけた. 真弘は, 上司の言葉に何も言い返すことができなかった.
私は, 真弘の後を追って, 彼の仕事場へと向かった. そこで, 私は信じられない光景を目にした.
「中島! 君はまた, 客を危険な場所に連れて行ったのか! あの場所は, 遭難事故が多発している場所だぞ! 」
上司は, 真弘を怒鳴りつけた.
「あの場所は, 風が強く, 熱気球の着陸には不向きだ. ましてや, 遭難事故が多発するような場所で, 熱気球を飛ばすなど, 狂気の沙汰だ! 」
上司は, 真弘の行動を厳しく非難した.
「彼女は, 俺の婚約者で, 俺の友達です. それに, 彼女は経験豊富な登山家だ」
真弘は, 上司の言葉に言い訳をした.
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