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元彼は、今や復讐の共犯者 の小説カバー

元彼は、今や復讐の共犯者

実家が没落した運命の日、私は愛した初恋の相手である鳳城宴真ではなく、あえて彼の兄である椋との結婚を選んだ。必死に涙を流して引き止める宴真の姿を背に、私は一度も後ろを振り返ることなく彼との決別を決めた。しかし、それから四年の月日が流れ、夫となった椋が病でこの世を去ってしまう。未亡人となった私と幼い息子を待っていたのは、義母による無情な追放だった。住む場所も頼る当てもなく路頭に迷った私が、最後に救いを求めて訪ねたのは、かつて捨てたはずの男、宴真だった。「一体何の用だ、義姉さん?」と皮肉めいた態度で問いかける彼に対し、私は言葉を返す代わりに、静かにその懐へと歩み寄る。かつて鳳城家によってすべてを奪われた絶望を晴らすため、私は今、復讐の共犯者として彼を利用することを決意した。義母の愛する息子である宴真を自らの手札に加え、奪われた権利と誇りを取り戻すための、静かなる反撃が幕を開ける。かつての恋心さえも復讐の道具へと変え、私は再び鳳城家という渦中へと身を投じていく。
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2

「私よ」

鳳城宴真の部屋の扉をノックした。

中から足音が近づいてくる。私の声を聞いた彼は、一瞬動きを止めたようだったが、やがて静かに扉を開けた。

彼は相変わらずの矜持をまとい、薄く笑みを浮かべながら、どこか嘲るような目で私を見下ろした。

私は目を逸らさず、彼を見上げる。

「弟……」かつてそう呼んでいたように、あの日々の名残をそのままに、口をついて出た呼び名だった。

鳳城宴真は髪をタオルで拭きながら、笑うともつかぬ顔でこちらを見た。

「どうしたの、義姉さん?」

最後の一言は、まるで酒に溶けたように軽やかで、皮肉めいていた。どうやら少し酒を飲んでいたらしい。シャワーを浴びたあとの清潔な香りの中に、かすかにアルコールの匂いが混じっている。

私はそっと目をそらし、声を抑えて言った。「入ってもいい?」

鳳城宴真は眉をひそめる。「……本気?」

探るような声音で問いかけてくる。

「ええ」 私はうなずいた。

昼間、榊原雪乃に言われた言葉を思い出せば、退くなんてできなかった。

寝室のドアが閉まったその瞬間、背を向けたまま私の言葉を待っている鳳城宴真にそっと近づいた。

「……鳳城宴真、お願いがあるの」

「お義母さんが、私と息子を鳳城家から出て行かせようとしてるの。あなたも知ってるでしょう、息子の体のこと。ここを出たら、すぐに病院からも追い出される。そしたら……息子はきっと、助からない。お願い……お願い、助けて」

かつてのように、

そっと彼の袖に手を伸ばした。

今、私が頼れるのは、彼の中に残っているかもしれない、かつての情だけだった。

もしかしたら、その情すら、もう微塵も残っていないのかもしれないけれど。

鳳城宴真は、私の手を振り払った。その反動で、私はよろけて一歩後退した。

けれど、顔には怯えたふりを浮かべたまま――

私がよろけるのを見て、鳳城宴真は冷笑を浮かべながら腕をつかんできた。「どんな立場で俺に話してるつもりだ? 義姉さん?それとも――昔の女?」

言葉と同時にぐっと引き寄せられ、互いの胸が触れ合うほど距離が縮まった。鼓動が、呼吸が、交わる。

唇を噛みしめると、彼の怒りがむしろ落ち着きをくれた。

言葉を続けさせまいと、私は肩に手をかけ、つま先を伸ばしてその唇に口づけた。

それは一瞬のことだった。唇を離した私は、懇願するように言った。「どうか……私たち親子を助けて。どんなことでもするから。お願い、鳳城宴真……!」

声が震え、涙が一筋、頬を伝った。

まるで狙い澄ましたような、絶妙なタイミングだった。

息子に何かあったら――そう思うだけで恐ろしくて、何だってする覚悟はあった。

彼には、それが伝わっているはずだった。

鳳城宴真は、じっとこちらを見つめていた。その眼差しには、複雑な思いが渦巻いていた。底の見えない深さと、かすかな怒りさえも滲んでいる。

「君は……兄貴の子どものために、そこまでやるんだな」

わたしは何も返さなかった。

彼は視線を宙に泳がせるようにして、ぽつりと続けた。「君はいつだって、誰かのためなら自分を犠牲にできるんだな――」

その言葉が落ちると同時に、彼はわたしの腰に腕を回し、抱き上げてベッドに横たえた。

「……本当に、後悔しないのか?」耳元に囁く声は、氷のように冷たかった。

思わず身がすくみ、わたしは小さく首を振った。「後悔なんて……しない」

その瞬間、彼はさらに近づき、吐息が触れるほどの距離で問うた。「君は……鳳城椋にも同じように頼んだのか?あいつがこれを知ったら、どんな顔をすると思う?」

最後の一言には、あからさまな悪意がこもっていた。

鳳城宴真は昔から鳳城椋を嫌っていた。兄弟でありながら、ふたりの間に情の通いはなかった。

わたしの身体は、言葉を失ったまま硬直した。

どれほどの時間が経ったのか分からない。意識は朦朧とし、何度も逃げ出したくなる衝動に駆られたが、そのたびに引き戻され、ついには意識を失った。

うっすらと耳に届いたのは、鳳城宴真の声だった。「九条瑠璃……お前、本気で俺を狂わせたいのか?」

「どうして、俺が助けると思った?」

「あいつは俺の子じゃない」

現実とも幻ともつかないその言葉が、心の奥にざわめきを残していく。

次に目を覚ましたとき、私は自室のベッドの上に横たわっていた。身体中が重く、痛む。慌ててスマートフォンを手に取ると、鳳城宴真からのメッセージが届いていた。

【明日の夜、絶対に来いよ。義姉さん】

その一文を見て、不思議と胸の奥が軽くなった。

これで、しばらくは鳳城家に留まれる。息子の治療も、続けられる――。

鳳城宴真と私はかつて恋人同士だった。九条家もかつてはA市で一目置かれる名家。私たちは年も近く、家柄も釣り合いが取れていた。まわりからは理想のカップルとまで言われていた。

けれど、その幸せは長くは続かなかった。信頼していた取引先の裏切り、そして九条家の傍系による画策。父の会社は破産に追い込まれ、誇り高く生きてきた父は、その現実に耐えきれず命を絶った。母は深い悲しみに沈み、病を患い、妹は留学を諦めて帰国寸前だった。

すべてが一度に押し寄せ、私は奈落の底に突き落とされた。

この一連の出来事を知った榊原雪乃は、留学中だった鳳城宴真が帰国するのを頑なに阻んだ。

彼が私と再び関わらないようにと。

でも私はわかっていた。当時まだ学生だった鳳城宴真が帰国しても、状況を変える力はなかった。だから彼を責めるつもりはない。

けれど、私には今すぐの助けが必要だった。そのとき、鳳城椋が私の前に現れ、手を差し伸べてくれた。条件は、彼との結婚。

彼が私を想っていたことは知っていた。でも私は、鳳城宴真が好きだった。彼もそれをわかっていた。

それでも私は、母の治療費と妹の学業のために、鳳城椋の求婚を受け入れた。

やがて、鳳城宴真はあらゆる手を尽くして帰国した。だがそのとき、彼が目にしたのは、他の男の妻になった私の姿だった。

それ以来、私は彼を「義弟」と呼び、彼は私を「義姉さん」と呼ぶようになった。

私は鳳城椋に感謝していた。彼が現れてくれたおかげで、九条家はどん底に堕ちずにすんだのだ。

母は治療の道を閉ざされることなく、妹も学業を諦めずにすんだ。

過去の記憶をそっと手放す。

その密やかな関係は、半月ものあいだ続いた。

鳳城宴真は約束どおり、息子のために最高の専門医を招き、最も効果のある薬を手配してくれた。

けれど――久しぶりに本家へ荷物を取りに戻ったその日、玄関を出たところで彼女を待っていたのは、榊原雪乃の秘書・梅子さんだった。

彼女は傲慢で軽蔑の色を隠そうともせず、こう言い放った。「奥様が、リビングでお待ちです」

その目が語っていた。――お前、なんて卑しい女なの。

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