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元彼は、今や復讐の共犯者 の小説カバー

元彼は、今や復讐の共犯者

実家が没落した運命の日、私は愛した初恋の相手である鳳城宴真ではなく、あえて彼の兄である椋との結婚を選んだ。必死に涙を流して引き止める宴真の姿を背に、私は一度も後ろを振り返ることなく彼との決別を決めた。しかし、それから四年の月日が流れ、夫となった椋が病でこの世を去ってしまう。未亡人となった私と幼い息子を待っていたのは、義母による無情な追放だった。住む場所も頼る当てもなく路頭に迷った私が、最後に救いを求めて訪ねたのは、かつて捨てたはずの男、宴真だった。「一体何の用だ、義姉さん?」と皮肉めいた態度で問いかける彼に対し、私は言葉を返す代わりに、静かにその懐へと歩み寄る。かつて鳳城家によってすべてを奪われた絶望を晴らすため、私は今、復讐の共犯者として彼を利用することを決意した。義母の愛する息子である宴真を自らの手札に加え、奪われた権利と誇りを取り戻すための、静かなる反撃が幕を開ける。かつての恋心さえも復讐の道具へと変え、私は再び鳳城家という渦中へと身を投じていく。
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3

榊原雪乃は紅茶のカップを手に、ちらりとこちらを一瞥した。赤縁の眼鏡越しでもその威圧感は隠せず、真紅の口紅が彼女の傲慢さを際立たせている。

一口紅茶を含んでカップを置くと、彼女は皮肉げに言った。「まさか、あなたがそんな女だったなんてね。私が鳳城家から出ていけと言ったのに、私の留守中に宴真のベッドに潜り込むなんて。椋があの世で見ていたら、もう一度死にかねないわ」

その口調は嘲りに満ち、目には軽蔑が浮かんでいた。

私は彼女を見返し、淡々と答える。「あなたが私たち母子を追い出さなければ、鳳城宴真を頼ることもなかった」

もしも鳳城椋がこの状況を見ていたとしても、私を責めたりはしない。彼はきっと、私が何を守ろうとしているのか分かってくれるはずだ。

「ふん。子どもがどうなろうと、私には関係ないわ。どうやら、あなたたち母子に少し優しすぎたみたいね」

「宴真は、私たちを苦しめないと約束してくれた」私は彼女をまっすぐに見据える。

息子の体は、もうこれ以上の波風には耐えられない。榊原雪乃が何をしでかすか分からず、私は鳳城宴真の名前を出すことで、少しでも牽制しようとした。

「そう?彼が何をどう約束したっていうの? あなたなんて、ただタダで抱かれた落ちぶれ女でしょう?そんな身で私に駆け引きしようなんて、おこがましいわね」

その言葉に、指先がじんと痺れた。

彼女の性格は分かっている。鳳城宴真がどんなに釘を刺していても、榊原雪乃は自分の不満と嫌悪を思うままにぶつけてくるだろう。

鳳城椋が生きていた頃は、彼女も多少は牙を隠していたが、

今や権勢を手にし、遠慮なく本性を剥き出しにしている。

「半月だけ待ってやるなんて、私ってば本当に甘かったわ。まさか息子と寝たくらいで、この家に居座れると思ってるんじゃないでしょうね? 彼が今日、どこに行ったか分かってる?」

私は平静を装っていた。

榊原雪乃はにこやかに言葉を継いだ。「鳳城家は間もなく朝比奈家と縁組する予定よ。今日、鳳城宴真が外出したのも、朝比奈さんとの夕食のため。あなたみたいな女が、卑劣な手を使って鳳城家に残ろうだなんて――身の程知らずもいいところね」

そう言って、榊原雪乃は梅子さんに目配せをした。

梅子さんがすっと近づき、無言のまま平手を振り抜いた。

ここ最近の出来事で心身ともに消耗していた私の頬に、その一撃は容赦なく響いた。視界がぐらりと揺れ、焼けるような痛みが走る。

榊原雪乃は、わざとゆっくりとした口調で言った。「止めていいなんて、私言ったかしら?」

その言葉を合図に、梅子さんのもう一発が頬を打った。もし誰かに腕をつかまれていなければ、きっとそのまま倒れ込んでいただろう。

とても自力では抗えない力だった。

だが、逃げようとは思わなかった。――打たれてさえいれば、同情を引けるかもしれない。それくらいの策は、もうとっくに覚悟の上だった。

意識が遠のきそうになったそのとき、耳元で激しい物音がした。

続いて、大股で部屋に入ってきたのは――鳳城宴真だった。梅子さんは容赦なく蹴り飛ばされ、私の腕を押さえていた相手も彼の一撃で吹き飛んだ。何が起きたのか理解できず、榊原雪乃と同じく、私はその光景を呆然と見つめていた。

……だって、鳳城宴真は今、朝比奈さんと夕食のはずじゃなかったの!?

梅子さんは腹を押さえながら地面に倒れ込み、うめくように呻いていた。榊原雪乃は怒りに満ちた顔で立ち上がり、鳳城宴真を指さして叫ぶ。「正気なの!?小梅にまで手を出すなんて!彼女、私についてきてどれだけ経つと思ってるの!」

鳳城宴真は黙って私の肩を押さえ、顔に残る傷を確認する。

そして冷え切った目で梅子さんを一瞥し、榊原雪乃に向かって淡々と言い放った。「九条瑠璃のことは俺が処理すると言ったはずだ。あなたが口を出す必要はない。……どうやら、誰も俺の言葉を本気にしていないようだな」

地面に横たわる梅子さんの顔が恐怖に引きつる。

鳳城宴真の部下たちは彼の合図を受け、何のためらいもなく梅子さんを地面から引きずり出し、他の者ふたりも同様に連行し始めた。

梅子さんは必死に叫ぶ。「奥様!奥様――!」

助けを求める声だった。

だが鳳城宴真が九条瑠璃を庇う姿を目の当たりにした榊原雪乃は、もう平静ではいられなかった。品位などとうに消え去り、歯を食いしばって怒鳴る。「このクズ……!今は朝比奈さんと食事してるべき時間でしょう!?何が大事かもわからないの!?」

「まさか、この女を庇うために戻ってきたの!? 彼女はあなたの長兄の女よ、あなたの“義姉さん”じゃない!」

それでも鳳城宴真の意思は微塵も揺らがない。「もともと、九条瑠璃は俺の女だ。鳳城椋はもうこの世にいない」

その言葉を口にしたとき、彼は九条瑠璃の腕を強く握りしめていた。まるで、次の瞬間には彼女が消えてしまうのではないかと怯えるように。

その手のひらから伝わる張り詰めた感情に気づき、九条瑠璃はそっと息を吐いた――。

榊原雪乃は怒りで仰け反り、そのままソファに身を沈めた。額を押さえながら、苦々しく言い放つ。「まさか、あんな尻軽女のために、実の母親を殺す気じゃないでしょうね? この家は、あの女がいれば私が去る。私がいれば、あの女は許さない!」

「よく考えなさい。あの女はあなたの役に立つどころか、今や未亡人よ。そんな相手のために、すべてを犠牲にする価値なんてないわ」

損得を並べて、冷静に訴えかける。

「母さんも再婚だったこと、忘れたのか。父さんは気にしなかった。俺だってそうだ。当時、母さんの反対がなければ、俺たちは別れることもなかった」

「朝比奈さんのことなら、俺がきっちり片をつける。何も問題は起こさない。 これから九条瑠璃は、俺の私邸に住むことになる。俺の許可なく、母さんも誰も近づかせない。彼女に何かあったら、そのときは……俺は容赦しない」

「母さんは、ここで安心して女主人を続けてくれればいい。誰にもその地位を脅かさせない」

そう言い残すと、彼は躊躇なく私を連れてその場を去った。

榊原雪乃の怒号や恫喝など、まるで耳に入っていないかのように。

彼の口から「朝比奈さん」と聞いたとき、一瞬、胸の奥に冷たい違和感が走った。でも、自分の身さえも危うい今、よけいな詮索などすべきではない。私は何も言わず、黙って鳳城宴真の後についていった。

車内で、鳳城宴真は冷蔵庫から取り出した氷嚢を私の頬に当てながら、怒りを含んだ声で言った。「どうして俺に連絡しなかった?手がないわけでも、携帯がないわけでもないだろ」

窓の外を流れていく景色を眺めながら、私は小さな声でつぶやいた。

「……息子に会いたいの。しばらく病院にも行ってないし、きっと寂しがってる」

実際には、ほんの数時間しか経っていないのだけれど。

「そんな顔で行ったら、あのこが驚くだろ」

「道中でもう少し冷やせば腫れも引くよ。大丈夫、適当に理由つけてごまかすから。あの子、ちょろいし」

私は彼の手を押しのけ、自分で氷嚢を持ち直した。

私の拗ねた様子を見て、鳳城宴真はむしろ嬉しそうに笑った。

「朝比奈家との婚約の話に怒ってるのか?」

「まさか。私が怒る資格なんてないわ」

私は首を横に振って否定した。

それでも彼は、上機嫌で説明を続けた。「外ではいろいろ噂されてるけど、朝比奈さんとの食事はただの演出だよ。記者が記事を書きやすいようにってだけ。実際は、あくまでビジネスパートナーだ」

私の表情を伺いながら、彼はさらに言葉を継ぐ。「こういう報道が出るのは、両社にとって悪い話じゃない。株価にもプラスだし、まあ、ウィンウィンってやつだ」

私は彼を見つめ、氷嚢を手渡した。

「……私も、ちょろい方かも」

思わず漏れた独り言に、鳳城宴真は低く笑った。「昔のままだな」

その言葉に、二人してふと黙り込む。

――きっと、わかっているのだ。過去には戻れないということを。

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