
命の淵で愛は終わる
章 2
手術は十時間に及んだ。
手術室から出た時には、すでに翌日の夕方になっていた。
窓の外では雨が降り始めている。
アーサーはずっとそばにいて、私の容態が安定するのを確認するまで離れなかった。
ゆっくりと目を開けると、そこは真っ白な病室だった。
体を起こそうとしたが、めまいに襲われた。
アーサーが慌てて私を支え、冷淡な声で言った。
「手術を終えたばかりだ、おとなしく寝ていろ」
私は頷いて体を横たえ、虚ろな目で天井を見つめた。
脳裏には、手術台でのあの光景が繰り返し再生されていた。
焦った様子で去っていくカールと、冷静に後を引き継いだアーサー。
私の心は、まるで二つに引き裂かれたかのようだった。
半分はカールへの絶望と怒り。
もう半分はアーサーへの感謝。
私はアーサーに感情を読み取られたくなくて、顔を背けた。
窓の外の雨音は次第に強くなり、まるで私の境遇を嘆き悲しんでいるかのようである。
カールはようやく私のことを思い出して連絡を寄越した。
それでも私の心は、わずかながらの安らぎを得た。
アーサーは私のスマートフォンの画面表示を見て、気を利かせて病室から出ていった。
カールからビデオ通話がかかってきたのは、麻酔が切れ始め、傷口の痛みが襲ってきた時だった。
ビデオ通話に出ると、活発で甘えたような女の声が聞こえてきた。
「ああ……気持ちいい……当たってる……」
これは何の音だ?
私が手術の苦しみを味わっている間に、カールは他の女を抱いていたというのか?
窓の外では雨筋がガラスを叩いていたが、私の指先の温度は、その雨よりも冷たかった。
体中が茨で覆われたかのように、ちくちくとした痛みが心まで広がっていく。
しかし、私の狼であるタリアは冷静だった。
「愛しい人、心配しないで。これは何かの間違いかもしれない」
タリアの言葉に、私の心は少しだけ落ち着きを取り戻した。
私は眉をひそめ、スマートフォンの画面を見つめる。
映像の背景は騒がしいバーの個室で、薄暗い光の中に、からかうような笑い声が満ちていた。
カメラはソファの中央に向けられており、私は息を呑んだ。
カールの膝の上に座っていたのは、彼が助けに駆けつけたはずの義妹、ビアンカだった。
ビアンカは体にフィットしたキャミソールドレスを身につけ、その髪はカールの肩に散らばっている。
彼女は両腕を彼の首に回し、体をわずかに揺らしながら、太ももの付け根でカールの股間を擦りつけていた。
服の上からとはいえ、その光景は吐き気を催させた。
カールの手は彼女の腰に置かれており、突き放そうとしているようにも見えたが、本当に力を込めてはいない。
周囲の人間がまだ叫んでいる。
「大冒険を選んだなら、あと十回擦りつけろ!」
ビアンカは蠱惑的に笑い、さらにカールに体を寄せた。
彼女の声がビデオ越しに聞こえてくる。
「お兄ちゃん、そんなに恥ずかしがらないでよ」
私の指は白くなるほど握りしめられ、先ほどまでのちくちくとした痺れが、突然鋭い痛みに変わった。
痛みが血管を伝って心臓へと突き刺さる。
私は勢いよく立ち上がった。
通話の向こう側でガサガサという音がし、カールがスマートフォンを取り上げたようだった。
彼の目はとろんとしており、体からはバーの酒の匂いがした。
ビアンカの匂いも混じっているかのようだ。
彼は頭を振って少し意識をはっきりさせた。
「エリザベス、具合はどうだ?」
彼は私の様子の異変に気づいた。
「君が考えているようなことじゃない。俺たちは『真実か挑戦か』ゲームをしていたんだ。彼女が挑戦を選んで……」
「彼女を助けに行ったんじゃなかったの? なぜバーにいるの」
ビアンカが彼の隣に割り込んできて、またしてもあのわざとらしい口調で大声で叫んだ。
「ごめんなさい、エリザベス。私、酔っぱらって変なことを言っちゃっただけなの」
「そしたらカールが血相を変えて私を探しに来てくれたのよ」
「彼のことはもう叱っておいたから」
「あなたの手術は終わったの? カール、たった今そのことを思い出したみたい」
「でも彼があなたのことを忘れちゃったのは、ただ私のことを心配してくれてたからなの。彼を責めたりしないわよね?」
これ以上は聞いていられなかった。
すぐにカールが彼女を引き離した。
「彼女の言うことは聞くな、エリザベス。俺も君を心配している」
「今の気分はどうだ?」
私は彼の顔についた口紅の跡を見つめ、静かに口を開いた。
「彼女、さっきあなたの股間を擦っていたの?」
カールの表情がこわばり、やがて苛立ちの色が浮かんだ。
「エリザベス、知っているだろう。ビアンカはただの妹だ」
「俺たちは子供の頃から一緒に育ったんだ。家族同士が少し親しくしたって、何が悪い?」
「ただのゲームじゃないか」
「何度もビアンカを敵視するのはやめてくれ。俺が愛しているのは君だけだ」
私だけを愛している?
愛している?
手術中の私を置き去りにするくせに?
手術が終わってからようやく私の心配を思い出すくせに?
それどころか、自殺のふりをした妹と酒を飲み、親密に触れ合っているくせに。
「どんな家族があなたの股間を擦り回すっていうの?」
「カール、あなたの言う『親しさ』が、私には理解できないのか、それともあなたが自分を騙しているだけなのか、どっちなの?」
私の眼差しは、私の心と同じくらい冷え切っていた。
私は問い質さずにはいられなかった。
カールが口を開く前に、彼の友人たちが先に口を挟んだ。
「おい、お前のルナはまだお前を縛り付けるのか?」
「ビアンカがお前の義妹だってことはみんな知ってる。彼女がビアンカにこんな仕打ちをするなんてひどいじゃないか」
「でも確かにビアンカはいい子だ。まるでお前のもう一人のルナみたいだな」
カールは自信を得たようで、傲慢な態度で私を見つめた。
「エリザベス、君は俺を問い詰めるべきじゃない」
「ゆっくり休め。良くなったら、また会いに行く」
彼の言葉は、ただでさえ痛む傷口を再び引き裂くかのようだった。
しかし、それ以上に私を苦しめたのは、カールが私に向けるその態度である。
「でも彼は浮気をしたわけじゃない、エリザベス」
私の狼も悲しみを感じていたが、それでも私をなだめようとした。
「カールと彼の義妹は何年も一緒に暮らしてきたのだから、彼女を気にかけるのも当然のことよ」
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