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命の淵で愛は終わる の小説カバー

命の淵で愛は終わる

アルファであるカールの手によって私の腹部が切り裂かれ、まさに手術が始まろうとしていたその時、彼の携帯電話が激しく震えだした。通話の相手は彼の義妹。彼女は自殺を図り、死に際にもう一度だけ彼に会いたいと告げたのだ。その知らせを耳にした瞬間、カールは迷うことなくメスを放り投げ、私の執刀をアルファ・アーサーへと託して、背を向けて走り去ってしまう。手術台の上で無惨に切り開かれたまま、遠ざかっていくカールの後ろ姿を見つめる私の心臓は、まるで見えない手に握り潰されたかのような激痛に襲われた。絶望に打ちひしがれ、目から溢れ出す涙を止めることができない。そんな私の肌を、再び冷徹なメスの感触が貫いた。代わって執刀を始めたアーサーは、感情を押し殺した冷ややかな声で私に言い放つ。「何を泣いている。俺がここにいる。お前を死なせはしない」。最愛の男に見捨てられた極限の状況下で、命を繋ぐための過酷な時間が刻一刻と過ぎていく。愛が潰えた命の淵で、運命の歯車が静かに、そして残酷に回り始めた。
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3

もちろん、カールが浮気をしたわけではないことは分かっている。

だが、彼の心の中では、私がビアンカの髪一本にも及ばない存在であることも知っている。

これは、精神的な裏切りだ。

痛みに、思わず体が震える。

カールの私への愛は、彼の口先だけのものであったと、私ははっきりと悟った。

彼は、本気で私を愛してなどいなかったのだ。

拳を固く握りしめ、爪が手のひらに食い込むに任せる。

痛みが、私を正気にさせてくれる。

どれほどの時間が経ったか、深く息を吸い込み、体の力を抜いた。

私は一つの決意をした。

カールに他に大切な人がいるのなら、私もまた「ルナ」の座を明け渡すべきだ。

カールによって切られた通話画面を見つめ、携帯電話を傍らに放り投げ、目を閉じた。

間もなく、背後から清冽な香りが漂ってきた。

慣れ親しんだその香りに、私の心は一瞬で安らいだ。

振り返ると、アーサーが月光の差し込む窓辺に立っていた。

彼の白衣の裾からは消毒液の匂いがかすかに香り、指先には薬瓶が一つ握られていた。

「鎮痛剤を持ってきた。錠剤が効き始めるまで二十分はかかる」

普段より少し低い彼の声。その視線は、私がシーツを握りしめる手の甲に注がれている。

「君は痛みに敏感だから、念のため持ってきたんだ」

その言葉が終わる頃、彼の香りがさらに濃くなり、まるで実体を持つかのように私の手首に絡みついた。

未だに鈍く痛んでいた腰のあたりが、不思議と和らいでいく。

私は複雑な思いでアーサーを見つめた。

何年も経つのに、彼は少しも変わっていなかった。

思わず身を引いたが、彼にそっと手首を掴まれた。

指先はひんやりと冷たいのに、その力は抗うことを許さなかった。

「知っているだろう、俺のフェロモンは痛みを和らげる。薬より早い」

彼は私の目をじっと見つめる。その瞳には、窓から差し込む月光が映り込んでいた。

「試してみるか?」

私はすぐに首を横に振り、指先でシーツを固く握りしめた。

「いいえ、薬が効くのを待つから」

彼の指の関節が、不意に固く締まる。モミの香りの中に、微かに苦いものが混じった気がした。

「何を恐れている? 俺のフェロモンを受け入れて、カールに知られるのが怖いのか?」

手を引こうとしたが、彼はさらに強く引き寄せ、私を半歩ほど自分の方へと近づけた。

月光が彼の整った顎のラインに落ち、どこか執着めいた影を映し出す。

「まだ彼のことを考えているのか?」

アーサーの息が、モミの香りのフェロモンと共に私の耳元を掠める。

「君は今、痛みで冷や汗をかくほどなのに、彼はそれを知っているのか?」

「彼を少し苦しませただけだ」

「君が今感じている痛みに比べれば、彼の心の痛みなど一万分の一にも満たない」

「アーサー!」

私は必死にもがいたが、手首は彼にきつく掴まれたままだ。

「やめて」

彼はふっと笑ったが、その笑みは目の奥にまで届いていなかった。

「そんなに確信しているのか?カールが君の運命の相手だと」

彼の親指が、私の手首の内側の皮膚をそっと撫でる。

そこには淡いピンク色の印があった。月の女神が見守る中、カールが私に刻んだ、ルナとしての刻印だ。

「もしかしたら……俺こそが君の『メイト』かもしれない」

その言葉に、私は一瞬で凍りつき、呼吸さえも止まった。

顔を上げると、彼の視線とぶつかる。その瞳には、無念と、探るような色、

そして私を不安にさせる真剣さが宿っていた。

アーサーは私の恩師の息子で、私たちは昔からの知り合いだった。

彼が私に寄せる想いは、決して隠されることはなかった。

それが、私が彼を避けるようになった理由でもあった。

私は深く息を吸い、力任せに彼の手を振りほどいた。

枕元まで後ずさり、震えながらも毅然とした声で言った。

「アーサー、もうそんなことは言わないで」

「月の女神が間違うはずがない。これはカールがくれた刻印で、紛れもない事実よ」

彼はその場に立ったまま動かなかった。モミの香りが次第に薄れ、月光だけが彼の影を長く長く伸ばしていた。

数秒後、彼は低く笑った。その声には、どこか苦々しさが隠されている。

「月の女神は間違うはずがない、か……」

私は彼に答えず、ただ鎮痛剤を素早く飲み下した。

彼に背を向けてベッドに倒れ込み、頭まですっぽりと布団を被った。

アーサーがなぜあんなことを言ったのか、私には分からなかった。

アーサーは去らず、私のそばに立ち、静かに私を見守っていた。

不思議なことに、彼がそばにいるだけで、私の体は久しぶりにずっと楽になった。

私の中の「狼」も、異常なほど静かになっていた。

眠りに落ちる直前、アーサーのため息が聞こえた。

「なぜ、俺を見てくれないんだ?」

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