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すでに別の男の妻なのでお構いなく の小説カバー

すでに別の男の妻なのでお構いなく

結城紗良は、相沢蓮司という男を盲目的に愛し続けてきた。蓮司の心には常に別の女性の影があり、一年の大半を海外にいる彼女に捧げ、挙句の果てにはその女性との間に子供まで授かっていた。それでも紗良は彼への想いを捨てきれず、卑屈なまでに愛を乞い、ついに結婚の約束を取り付ける。しかし、入籍当日。海外から戻った想い人のもとへ向かった蓮司は、役所に姿を現さなかった。この裏切りによって、紗良が七年間抱き続けた未練は完全に潰える。彼女は彼との連絡を断ち切り、思い出の街を去る決意をした。蓮司は「どうせすぐに泣きついて戻ってくる」と高を括っていたが、再会した紗良は、見知らぬ男性と共に婚姻届を手にしていた。形勢は逆転し、今度は傲慢だった御曹司の蓮司が、なりふり構わず彼女を追い回すようになる。「俺が愚かだった、やり直してくれ」と必死に縋り付く蓮司。だが、冷徹な視線を向ける紗良の口から出たのは、拒絶の言葉だった。「いい加減にして。私はもう、別の人の妻なの」
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2

別荘にあった骨董品は、トラック10台以上を使ってようやく運び出された。

結城紗良は半分以上空になった別荘を見つめながら、自分自身も空っぽになってしまったような感覚に陥った。

スマホを取り出してカレンダーをチラッと見て、彼女は気がついた。家を出る前日が、自分の誕生日だったことに。

イベントがあるたびに、白石凛子が必ず相沢蓮司に電話をかけてくるせいで、紗良は記念日というものにトラウマを抱えていた。

だから、自分の誕生日すら忘れていたのだ。

でも、蓮司から離れさえすれば、普通の生活を送れるようになる。

紗良は希望を胸に眠りにつき、翌日目を覚ますと、彼女と蓮司の新居へと向かった。

この家は、本来なら蓮司が一括払いで買ったものだった。

しかし、彼女は意地でも割り勘にこだわった。

だって、ここは2人の家だ。2人で一緒に費用を出してこそ、初めて「家」と呼べると思っていたから。

だから、当時手元に現金がなかったにもかかわらず、彼女は泣く泣く手放したのだ。一番お気に入りだった奈良三彩のペアを売って。

あれは1点ものだったのに。

紗良が暗証番号を入力すると、電子錠はエラーを表示した。

彼女は眉をひそめた。

暗証番号を設定したのは彼女だ。

彼女と蓮司の誕生日。

間違えるはずがない。

家の中から突然、中年の女性の声が聞こえた。「誰ですか?」

続いて不審そうな顔がドアの隙間から覗き込む。

紗良は警戒しながら口を開いた。「あなたは誰?」

中年女性は聞き返した。「そっちこそ誰?」

紗良がその女性を押し退けて中に入ると、ネグリジェ姿で寝室から出てくる凛子の姿が目に入った。

凛子が、なんと自分の新居に住んでいたのだ。

彼女は怒りのあまり失笑した。「誰の許可を得て引っ越してきたの?」

凛子は紗良を見ても、全く驚いた様子はなかった。

彼女はここが紗良と蓮司の新居だと知っていて、わざと引っ越してきたのだから。

「蓮司お兄ちゃんが住んでいいって言ったの。結城紗良、まだ分からないの? 蓮司お兄ちゃんの心には、私しかいないんだから!」

凛子はそう言って、紗良が激怒するのを待ち構えていた。

しかし予想に反して、紗良はそのままスマホを取り出し、管理会社に電話をかけた。『管理会社ですか? 私の家が見知らぬ人に不法占拠されてるんですけど。あなたたち、どういう管理をしてるんですか?』

1時間後。

ようやく誰かがやってきた。

しかし、管理会社ではなかった。

蓮司だった。

男は冷気をまといながら入ってきた。整った顔立ちは氷のように冷たく、紗良を見ると、その瞳にはあからさまな苛立ちしか浮かんでいなかった。「また何を騒いでるんだ?」

紗良の心臓がギュッと締め付けられ、息が詰まるような感覚に襲われた。

ーーもう気にしないつもりだったのに。

「ここは私たちの新居よ。どうして勝手に、彼女を住まわせたりしたの!?」

2人の間には一触即発の空気が漂う。

凛子は目の前の状況に大満足だった。

彼女はわざとらしくすすり泣き、火に油を注いだ。「蓮司お兄ちゃん、ごめんなさい。私が悪いの。ここが2人の新居だなんて知らなくて。今すぐ出ていくから……ゲホッ、ゲホッ……」

そう言いながら、彼女は胸を押さえて激しく咳き込んだ。

まるで今にも死んでしまいそうに。

蓮司は足早に駆け寄り、凛子を支えた。「結城紗良、少しは物分かりよくできないのか?」

凛子の体に添えられた男の手を見て、紗良の心は再びチクリと痛んだ。次に口を開いた時、彼女のトーンは冷めきっていた。「彼女が出ていく必要はないわ。この家を買う時、私も半分お金を出した。

その半分を現金で返してくれれば、それでいいから」

以前はこの新居をどう処理しようか悩んでいた。

でも今は……もう悩む必要はない。

紗良が急に聞き分けが良くなったのは、まさに蓮司が望んでいたことだった。

だがなぜか、彼の心の中にはひどくモヤモヤしたものが残った。彼は答えた。「分かった。戻ったらすぐに悠真に振り込ませる」

「ええ」

紗良は振り返ることなく立ち去った。

紗良の背中を見つめながら、蓮司の心にふと焦りがよぎった。

しかし、すぐにその感情を押し殺した。

紗良はあんなにも自分を愛しているのだから、少し感情的になったところで、大したことではない。

ーー彼女自身で気持ちの整理をつけるだろう。

その日の午後。

紗良の口座に、蓮司からの入金があった。

きっちり2億円。

家を買う時に彼女が出した金額の、倍の額だった。

蓮司は本当にダメな男だ。

ただ1つ、金払いがいいことだけを除いて。

すぐ後に、蓮司からメッセージが届いた。

「明日、迎えに行く」

相談ではなく、ただの通達だった。

いつも、こうだ。

この一言だけで、何をするのかも、誰と行くのかも言わない。

一言多く話すだけで、命でも削られるとでも思っているかのようだ。

紗良はそのメッセージを気にも留めず、スマホを放り投げ、引っ越しの準備を続けた。

翌日の10時。蓮司の車が時間通りにマンションの下に現れた。

紗良がなんと自分の別荘に住んでいたことに、彼はかなり驚いている様子だった。彼は尋ねた。「千葉町に住んでたんじゃないのか?」

千葉町は蓮司の別荘がある場所だ。

彼女は蓮司と付き合い始めて3年目に、ようやくそこに住む資格を得た。

噂によると、蓮司は凛子と知り合った最初の夜に、彼女をそこへ持ち帰ったらしい。

愛されているかどうかの差は、これほどまでに大きいのだ。

紗良は適当に答えた。「長く住んで、飽きたの」

蓮司はそれ以上何も言わず、車内は静寂に包まれた。

30分後、車はポルシェの正規ディーラーの前に停まった。

紗良の瞳の奥が少し揺れた。

1ヶ月前、ポルシェから新しいスポーツカー「ミッションX」が発表された。

彼女はそれがとても気に入っていた。

毎日毎日、蓮司の耳元でその話をしていたのだ。

しかし、その車はまだ量産されておらず、現在世界に3台しかない。

1週間前、このディーラーが1台仕入れたことがニュースになっていた。

紗良の胸が高鳴った。

彼女は車を降り、蓮司の後に続いて店内に入った。

しかし店に入った瞬間、スタッフたちにちやほやと囲まれている凛子の姿を見て、紗良のいい気分は一瞬で吹き飛んだ。

女はきびすを返して帰ろうとした。

しかし、凛子が弱々しい声で呼び止めた。「蓮司お兄ちゃん、紗良お姉ちゃん。来てくれたんだね!」

凛子は指をさしながら言った。「蓮司お兄ちゃん、車決めたよ。これにしてもいい?」彼女が指さしたのは、まさに「ミッションX」だった。

蓮司はとても優しい声で答えた。「凛子が気に入ったならそれでいい」

そして振り向き、紗良を見る時の目は冷ややかだった。彼が言った。「お前も1台選べ」

紗良は、得意げで挑発的な表情を浮かべる凛子を見つめ、スッと手を挙げた。「私もこれがいいわ」

蓮司は眉をひそめた。「他のにしろ」

紗良は一切の妥協を許さない強い口調で言った。「絶対にこれがいい」

彼女がまた以前のようなワガママな紗良に戻ったのを見て、凛子はわずかに口角を上げた。

彼女は蓮司の方を見た。

案の定、蓮司はすでに眉間にしわを寄せていた。彼は叱りつけた。「結城紗良、ワガママを言うな!」 「他にも車はたくさんあるだろう。どうして適当に1台選べないんだ?」

紗良は低くつぶやいた。「そうね。どうして選び直せないのかしら?」

そう言うと、彼女は顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。「冗談よ。あなたの大事な宝物と張り合うわけないじゃない! 私が欲しいのはこっち――」

紗良が指さした方向を見て、凛子の表情が凍りついた。

ポルシェ919ハイブリッド!

軽く20億円はくだらない代物だ!!!

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