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私は、億万長者の後継者を一晩で手に入れました の小説カバー

私は、億万長者の後継者を一晩で手に入れました

婚約者の拓海に弁当を届けに向かった先で、私が目にしたのは親友の千夕と密通する彼の姿だった。裏切りに絶望した私は、自棄になってバーで出会った見知らぬ男を一夜の相手として買い、鬱憤を晴らす。しかし、その正体は勤務先である航空会社の親会社を統べるCEOだった。彼との情事は終わらず、フライト中の機内という密室で屈辱的な行為を強いられた上、その様子を隠し撮りされてしまう。「清純派CAの機内売春」という事実無根のスキャンダルが社内に拡散され、私は弁明も叶わず無期限の乗務停止処分を下された。愛も友情も失い、三年間心血を注いだ夢の仕事さえも理不尽に奪われた私は、荷物を抱え絶望の中で会社を去ろうとする。そんな私の前に、突如として四人の黒服の男たちが立ちはだかった。彼らは、あの「悪魔」のようなCEOが地下駐車場で待っていると告げる。私の窮地を救う方法があるという彼の真意とは。全てを失ったどん底の地で、新たな運命の歯車が回り始める。
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3

ブリーフィングルームのドアを開けようとした瞬間、背後から聞き覚えのある吐き気を催すような声がした。

「静」

振り向くと、藤井拓海が立っていた。

きっちりと着こなした商社のスーツ。手にはスターバックスのカップを持っている。

彼は静の前に立ちはだかり、行く手を塞いだ。

静の脳裏に、昨夜の駐車場での醜態が蘇る。

胃が痙攣し、無意識に半歩後ずさった。

「昨日のことは誤解なんだ。千夕が無理やり……俺は酔っていて……」

拓海は悲劇の主人公のような顔で、静の手首を掴もうとする。

静は汚いものでも払いのけるように、その手を避けた。

拓海の顔に気まずそうな色が浮かぶ。

彼は声を潜め、懇願するような口調から責めるような口調へと変えた。

「だいたい、静がいつも仕事仕事で俺を放っておくからだろ。俺だって男なんだ」

その身勝手な言い訳に、静の中で何かがぷつりと切れた。

怒りで目の前が真っ赤になる。

手の中のスーツケースを、この男の顔面に叩きつけてやりたい衝動を必死で抑え込んだ。

「あなたって、本当に最低な人間なのね」

静は氷のように冷たい声で言った。

「婚約は破棄します。その女と、私の前から消えて」

「なっ……」

拓海は信じられないという顔で目を見開いた。

いつも従順で、何を言っても許してくれると思っていた女からの、あまりに決然とした拒絶。

二階のVIPラウンジ。

暁はモニターに映る二人のやり取りを、不機嫌極まりない顔で見ていた。

手に持っていたコーヒーカップを、ガチャンと音を立ててソーサーに置く。

「林。空港の警備に連絡しろ。クルー専用通路で、不審者が従業員に嫌がらせをしていると」

階下の廊下では、拓海が逆上していた。

彼は静の肩を掴み、無理やり抱きしめようと腕を伸ばす。

静が悲鳴を上げかけたその時。

「お客様、ここは立ち入り禁止です」

屈強な体格の警備員二人がどこからともなく現れ、拓海の両腕をがっちりと掴んだ。

「離せ!俺は彼女の婚約者だ!」

拓海の惨めな叫びも虚しく、彼は為す術もなく引きずられていく。

静はその無様な後ろ姿を、何の感情も浮かばない瞳で見送った。

心にあったのは憎しみではなく、ただ解放されたという安堵感だけだった。

静は乱れた制服の襟を直し、ブリーフィングルームのドアを開けた。

部屋に入った途端、それまでのざわめきが嘘のように静まり返る。

全員の視線が、突き刺さるように静に集中した。

「小林。三分遅刻だ」

乗務長の吉田健一が、腕の時計を睨みつけながら言った。

その顔は、まるで鬼の形相だ。

「申し訳ありません」

静は深く九十度に頭を下げた。

言い訳は一切しない。

それが、この縦社会で生き抜くためのルールだった。

最前列に座っていた沢村千夕が、わざとらしく大きなため息をつくのが聞こえた。

彼女は隣の同僚に、ひそひそと何かを囁いている。

静の視界の端に、千夕の首筋に付けられたいやらしい赤い痕が映った。

昨夜の拓海との情事の痕跡だ。

静は再び拳を強く握りしめた。

爪が手のひらに食い込む。

「遅刻により、今月の評価からマイナス二点とする」

吉田の冷徹な声が響く。

静は歯を食いしばり、もう一度頭を下げた。

そして吉田は、追い打ちをかけるようにフォルダを開いた。

「それから、本日付でパリ便のファーストクラス責任者は沢村に乗務変更とする」

その言葉は、静にとって死刑宣告にも等しかった。

千夕が勝ち誇ったように立ち上がる。

彼女は猫なで声で吉田に礼を言うと、挑発するように静を一瞥した。

全身の血液が足元から引いていく感覚。

恋人も、親友も、そして仕事の誇りも、すべてを一度に奪われた。

静はその場で崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えた。

深く深く息を吸う。

そして背筋を伸ばし、自分の席へと歩き出した。

その瞳には、今まで誰も見たことのない冷たい光が宿っていた。

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