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旦那様、奥様はまた手が付けられません の小説カバー

旦那様、奥様はまた手が付けられません

国家が最高傑作として育て上げた天才少女・藤原涼音。並外れた武力と自由奔放な魂を持つ彼女だが、幼くして両親を亡くし、双子の妹と過酷な境遇を生き抜いてきた過去があった。七年間の任務を終え、ようやく妹の待つ家へ帰還した涼音。しかし、そこで目にしたのは、両親の遺産を食い潰し、妹を犬小屋に閉じ込め虐待する非道な叔母の姿だった。怒りに燃える涼音は、電光石火の手腕で叔母の会社を崩壊させ、妹の代わりに潜入した学園ではいじめっ子を完膚なきまでに叩きのめす。正体を隠し「ただの一般人」を自称する彼女だが、名家や国家機関が次々と彼女を唯一無二の存在として認め、世間を震撼させていく。そんな彼女の傍らには、冷酷無情と恐れられる権力者・北村凌也の姿があった。戦場ですら動じない彼が、涼音の前では独占欲を露わにし、甘く囁きかける。「俺にも少しは構ってくれ」。当初は利害の一致による同盟関係だったはずの二人の絆は、動乱の中で次第に熱を帯びていく。最強の少女が愛と復讐のために突き進む、痛快でドラマチックな現代アクションロマンス。
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「愛莉!」高橋恵美(旧姓藤原)は胸が張り裂けそうな思いで娘を支えながら、突然現れた男を怒りに満ちた目で睨みつけた。 「あんた誰?藤原涼音の愛人か?」

男は何も言わない。 深く彫りの刻まれた眉目には微動だにせず、万里の底に沈む深海のように、死寂と危険が漂っていた。

彼は恵美へと一歩、また一歩と近づく。 革靴が床を踏む鈍い音が、廊下に響き渡る。

恵美の心臓は鷲掴みにされたかのようで、息が詰まる。

この男、絶対に関わっちゃいけない……

「藤原涼音、まだ家に帰りたいなら、さっさと戻ってきて謝りなさい!でなきゃ、あんたたち孤児の面倒なんて、もう二度と見ないからね!」 恵美はそう言い放つと、愛莉の手を強引に引っ張って、その場を離れていった。

面倒を見る?

あの屋敷は、まぎれもなく私の家だというのに!

涼音は、男の手の中に現れ、そして腰元に消えていく拳銃を目にして、瞳を鋭く細めた。

この男は……一体?

男が振り返り、涼音と視線が合った。 はっきりと見たその顔は、これまで出会ったことのない絶世の美貌だった。 五官は立体的に鋭く、氷のように冷たい双眸には何の感情も覗かない。 いかなることも、彼の心を波立たせることはないかのようだ。

しかし、彼の周囲に漂う気配は、これまで感じたことのないほどの恐怖と危険に満ちていた。

道理で、叔母があんなに慌てて逃げ出したわけだ。

「藤原涼音」男はゆっくりと唇を開き、彼女の名前を紡ぎ出した。 その声は低く磁性を帯びているが、骨の髄まで凍りつくような冷たさを秘めていた。

涼音は彼を見据えて問うた。 「あなたが……妹の治療費を払ってくれた人?」

「賢いな」 男の声には相変わらず感情の起伏がない。 「荷物をまとめろ、俺の家へ来い」

涼音は眉をひそめた。

何という、訳の分からない男だ

すると、傍らにいた別の男が歩み寄り、説明を始めた。「藤原さん、こんにちは。 こちらは北村様でいらっしゃいます。 北村様のお父様と、あなたのお父様は戦友の間柄でして、ご存命中に、北村様にあなた方のお世話を頼まれたんです。 北村様は軍隊を出られたばかりで、ようやくあなた方を見つけ出されました」

なるほど……だから、あんなに恐ろしい気配をまとっているのか。

涼音にはわかった。 この男は冷酷ではあるが、自分に悪意はない。

涼音は淡々と訊ねた。 「彼のお父様が、私の父の戦友だという証拠は?」

北村凌也は一枚の写真を取り出した。

戦場で撮られたと思われるその写真には、荒涼とした背景の前で、彼女の父と見知らぬ男が並んで立っていた。 見知らぬ男の眉目は、確かに眼前の男と幾分似通っている。

涼音は一瞬考え込んだ。 「少し、考えさせてください」

「わかった」 連絡先を交換しよう。 凌也は言葉少なに言った。

涼音は彼の連絡先を追加した。 プロフィール画像は真っ黒だった。

涼音のも、そうだ。

なんだか、奇妙な気分になった。

助手も涼音の連絡先を追加した。 「藤原さん、私は北村様のアシスタント、今井大翔と申します。 何かございましたら、いつでも私までご連絡ください」

「はい」

二人はその場を去っていった。

涼音は妹の病室に戻った。

しばらくすると、病室の扉の前に二人のボディガードが立っているのが目に入った。

(あの男の仕業に違いない)

涼音は自ら妹の服を着替えさせ、髪を洗ってやった。 枯れ草のようだった髪が、少しだけ滑らかになった。

だが、妹の体に刻まれた大小無数の傷、そして無数のタバコの火傷痕を目の当たりにすると、涼音の目頭が再び熱くなった。

涙をぐっとこらえ、涼音は自分が開発した軟膏を妹の傷に丁寧に塗り、それから携帯していたノートパソコンを開いた。

私がいない間に、妹は一体何を経験したんだろう……

彼女は屋敷街の監視カメラシステムに侵入した。

モニターに映し出される映像に、涼音の身体は次第に硬直していく。

自分が家を出て間もなく、妹は寝室から追い出され、庭の犬小屋で寝るようになっていた。

かつて太陽のように明るかった妹の顔から、笑顔は完全に消え失せていた。

アルバイトを始めたが、店でセクハラを受けた。

懸命に勉強して最高の大学に合格したのに、入学して一学期も経たないうちに骨折してしまった。 ダンサーを目指していた彼女にとって、その骨折は、踊りを諦めざるを得ないほどの重傷だった。

高橋愛莉の姉、高橋柚希は妹と同じクラスだった。 涼音は、妹の骨折が柚希と無関係だとは、どうしても思えなかった。

それ以来、妹は家に縛り付けられ、毎日のように家政婦同然の仕事をさせられながら、犬小屋で寝起きする──そんな人間以下の生活を強いられていた。

それなのに、妹が自分に送ってくるメールは、いつも決まってこうだった。 『お姉ちゃん、心配しないで、私は家で元気にしてるから、お姉ちゃんもそっちで、元気でいてね』

涼音の視界が、一瞬で涙に滲んだ。

妹がこれほどまでに惨めな日々を送っているというのに、叔母の一家は万邦興業との提携で会社を拡大させていた。

中学中退の従妹はインフルエンサーとなり、柚希はダンス学院で幅を利かせ、叔母はセレブ妻の仲間入りを果たし、叔父は経済界の注目人物にのし上がっていた。

「ドン!」

涼音はテーブルを拳で強く殴りつけた。 手に走る痛みなど、まったく感じない。 ただ、尽きることのない後悔だけが、胸をえぐるように広がっていた。

(もっと妹に気を配っていれば……あの子がこんな目に遭うはずがなかった。

私のすべての努力は、結局、叔母一家のための“嫁入り道具”に過ぎなかったのか!)

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