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愛を殺した、彼の後悔 の小説カバー

愛を殺した、彼の後悔

体に時限爆弾を仕掛けられた私は、絶望の中で恋人の法医学者・久我修二に助けを求めた。しかし彼は、幼馴染の落とし物を探すことを優先し、私の必死の訴えを狂言だと切り捨てて電話を断つ。その数分後、私はお腹の子供と共に爆死した。皮肉にも、変わり果てた私の遺体を解剖したのは修二だった。彼は目の前の焼死体がかつての恋人であることに気づかず、私が大切にしていた彼からの贈り物を「身元不明者の安物」と蔑み、証拠品袋へ投げ入れる。両親の捜索願すら家出だと嘲笑う彼が真実を知ったのは、数日後のことだった。誘拐犯から「お前が解剖したのは自分の女と子供だ」と告げられ、修二は奈落の底へ突き落とされる。さらに一年後、事件の黒幕が、あの日優先した幼馴染だったことを突き止めた彼は、ある凄惨な復讐を決意する。二人の結婚式の打ち合わせの場で、修二は微笑みを浮かべながら彼女を椅子に拘束した。その胸元には、かつて私を奪ったものと同じ爆弾がセットされていた。
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3

奈緒 POV:

解剖台に横たわる自分の姿は, あまりにも見るに堪えないものだった.

皮膚は焼け焦げ, 肉は裂け, 骨は砕けている.

私は, 自分の魂がここまで穢れてしまったのかと, 自嘲の笑みを浮かべた.

久我は白い手袋をはめ, 無機質な目でメスを握りしめた.

彼の隣には, 先ほどの同僚刑事が記録のために立っている.

解剖が始まった.

久我のメスは正確で, 迷いがない.

まるで, ただの肉塊を相手にしているかのように.

彼は, 私の体から証拠を探し出す.

まるで, 私がただの事件の被害者であるかのように.

「被害者は頭部, 胸部, 腹部に広範囲の爆発による損傷. 四肢も骨折, 肉片の飛散が確認されます. 年齢は20代後半から30代前半. 虐待の痕跡も認められる」

彼は淡々と報告していく.

虐待. 沼田に監禁されていた数日間, 彼は私に暴力を振るった.

その傷跡を, 久我は見ている.

しかし, 彼の目には, 私の面影は一切宿っていない.

久我は私の腹部にメスを入れた.

「…胎児を確認. およそ妊娠2ヶ月から3ヶ月. 性別は不明」

その言葉が, 解剖室に響き渡った瞬間, 全ての動きが止まった.

同僚刑事の顔から血の気が引く.

久我のメスを握る手が, 一瞬だけ止まったように見えた.

妊娠?

私の?

私は, 自分の腹部を見下ろした.

そこに, 確かに, 小さな小さな命の影が宿っていた.

私は, 知らなかった.

修二に, まだ言えていなかった.

あの, 公園での電話の時, もし私がこのことを伝えていたら, 彼は…?

涙が, 止まらない.

私の魂は, 慟哭した.

私のお腹の中にいた, 小さな命.

修二との, 愛の結晶.

それすらも, この世に生まれることなく, 私と共に炎に消えてしまった.

私は, その事実に, 打ちのめされた.

久我は, 深いため息をついた.

「気の毒に. こんな若い女性が, 妊娠中にこんな形で命を散らすとは」

彼はそう呟き, 再びメスを動かした.

「この件に関しては, 現在の案件が落ち着き次第, 改めて調査を進めましょう」

他人事のように, 彼は言った.

私は冷笑した.

もし彼が, この遺体が私だと知っていたら, 同じ言葉を口にするのだろうか.

私は, もうどうでもよかった.

彼が後悔しようと, 悲しもうと, 私の命は戻らない.

私と, 私たちの子の命は.

解剖が終わり, 久我は疲れた顔で解剖室を出ていった.

私は彼の後を追う.

彼は署の庭で, 同僚刑事と煙草を吸っていた.

「久我, あの女性の件だが…本当に気の毒だったな. お前, 奈緒ちゃんとの間に子供とか, 考えてないのか? 」

同僚刑事が尋ねた.

久我は煙草を深く吸い込み, 吐き出した.

「奈緒か. あいつはいつもそうだ. 俺に構ってほしいだけだ. 最近は恵梨子にばかり構っているから, 余計に拗ねているんだ」

彼はそう言い放ち, 再び私の携帯からのメッセージについて言及した.

「『この世界で, あなたと二度と会いたくない』だと? どうせ, 俺を試しているだけだ. 本当に死ぬわけがない. あいつはそんな根性ない」

彼は冷笑した.

私の魂は, 彼の言葉に震えた.

彼は, 私が本当に死んだとは, 夢にも思っていない.

私からの最後の言葉を, ただの脅しだと決めつけている.

どれだけ, 私は彼に愛されていなかったのだろうか.

「それにしても, この事件, 妙だな. 沼田信和が絡んでくるとは」

久我は, 急に真剣な顔になった.

「彼が関わっているとなると, 私の過去の事件の報復の可能性が高い. 被害者の身元が特定できれば, 動機もはっきりするだろう」

彼は, 私の死よりも, 沼田信和の動機にばかり興味を示している.

私の怒りは, 沸点に達していた.

その時, 久我の携帯が鳴った.

画面には「恵梨子」の文字.

久我の疲れていた顔に, 一瞬で笑顔が浮かんだ.

「もしもし, 恵梨子. どうした? 」

彼の声は, 私に向けられていた時とは全く違う, 甘く優しいものだった.

「修二, いつ帰ってくるの? 私, 一人だと寂しいよ」

恵梨子の甘えた声が, 携帯から漏れ聞こえてくる.

久我は笑った.

「ああ, もう少しだ. すぐに帰るからな. 恵梨子が待ってると思ったら, 仕事も早く終わらせたくなるよ」

彼は, 私を解剖したばかりの手で, 携帯を優しげに握っていた.

その手は, かつて私の髪を撫で, 私の頬を包んだ手だ.

しかし, その優しさは, 今, 別の女に向けられている.

私は, 修二が恵梨子に, 私に向けたような優しさを向けているのを見て, 心が引き裂かれるようだった.

悲しみと, 嫉妬と, そして, どうしようもないほどの怒り.

私は, 彼に叫びたかった.

「私がここにいるのに! 目の前にいるのに, なぜ気づかないの! ? 」

しかし, 私の声は, 彼には届かない.

「修二, 恵梨子ちゃんも心配してるから早く帰ってあげなよ」

同僚刑事が言った.

久我は頷いた.

「ああ, そうだな. 彼女は俺がいないと, すぐに不安になるから」

彼の言葉は, 私にとっては, ただの拷問だった.

その時, 同僚刑事がパソコンの画面を指差した.

「久我! これを見てくれ! 行方不明者リストだ. この女性の特徴, さっきの被害者と一致するかもしれない! 」

画面に表示されたのは, 私の両親が提出した行方不明者届だった.

私の写真が, そこに写し出されている.

私の心臓が, 再び激しく脈打った.

彼は, 気づくのか?

彼は, 私が死んだことを, 知るのか?

私の両親が, 私を探していることに, 彼は気づくのか?

私は, 息を詰めて, 彼の反応を待った.

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