
長谷川社長を救ったのは、追放したあの女でした~実は彼女、隠れ天才医でした~
章 3
宴会場で、夏川結衣は午前中に会った仮面の男のことを考えていた。 どうにも胸騒ぎがして、落ち着かない。
その時、入り口の方でざわめきが起こり、誰かが低い声で叫んだ。 「見て、長谷川社長が本当に来たわ!」
それまで騒がしかった宴会場は一瞬で静まり返り、人々は自然と道を開けた。
結衣も顔を上げてそちらを見た。
長谷川京介がゆっくりと歩いてくる。 黒いシャツは体にぴったりと沿い、袖はたくし上げられて、しなやかな筋肉のラインが浮かぶ腕が露わになっていた。
その姿は、どこか気だるげで、それでいて圧倒的な存在感を放っていた。 噂では醜い男だと聞いていたが、その顔立ちは硬質で整っていた。 深く彫られた目元の下には、高く通った鼻筋が伸び、顎のラインも鋭く美しい。
「信じられない、長谷川社長ってこんなに若くてハンサムだったの?」
「メディアの取材は一切受けないし、公の場にもほとんど姿を見せないから、まさかこんなスターみたいな顔だったなんて!」
「すごくかっこいいけど、性格が悪いって噂よね……」
「シーッ、静かにして、この長谷川社長が、どれだけ冷酷非情な手口で人を痛めつけるか、忘れたの?」
誰もが思わず身震いした。
結衣もまた、呆然と立ち尽くしていた。 彼のその瞳は、どうしてこんなに見覚えがあるのだろう?
ほんの一瞬、彼女と京介の視線が交錯した。
奇妙だ。
目が合った瞬間、結衣は男の体が微かにこわばり、驚きと戸惑いの表情を浮かべたことに気づいた。
まさか、自分のこの顔に衝撃を受けたのだろうか?
やはり、この醜いメイクの効果は絶大だ!
しかし、京介の心の中では、すでに嵐が吹き荒れていた。
「葵生、彼女だ」
彼は結衣をじっと見つめ、改めて確認した。 午前中に自分を助けてくれた女性は、幻ではなかったのだ!
交通事故以来、京介の世界は白黒に染まっていた。
医者は心的外傷だと言ったが、彼はどうしても回復できず、この死んだような灰色の世界に慣れきっていた。
だが、結衣は、不可能だった奇跡を何度も起こしてくれたのだ!
立花葵生は呆然とした。 「本当か?」
「本当だ、彼女の体の色が見える」 京介の心に、まるでひびが入ったように、言葉が漏れた。 「たくさんだ」
結衣を中心として、鮮やかで明るい色彩が噴水のように湧き上がっているのが見えた。
彼女が手にしているワイングラスは美しい金色で、結衣が身につけている黒いドレスでさえ、彼の目には繊細な光沢を放っているように映った……
世界全体は依然として灰色だが、彼女だけが、その全身からまばゆいばかりの色彩を放っていた!
「本当か?」 葵生はすぐに真剣な表情になった。 「待ってろ、すぐに調べさせる」
これは数えきれないほどの名医が治療できなかった難題だ。 まさか奇跡が起こるとは!
葵生はそこまで考えて、眉をひそめた。
「それで、婚約はするつもりか?」
京介の視線は、依然として結衣に釘付けだった。 その声は落ち着いていて、力強かった。
「当然だ」
「それに、この結婚は、必ずする!」
葵生は幻聴かと思った。 たとえこの醜い女が彼に色を見せることができたとしても、結婚までする必要はないだろう?
京介はどうかしてしまったのか?その時、陸田恵子が前に出てきて、愛想よく言った。
「長谷川さん、うちの息子と主人が、あなたがこんなに早くお見えになるとは思っていなくて、すぐに参りますから!」
恵子はそう言うと、すぐに結衣を前に押し出した。
「まずは知夏を見てやってください、 あなたたちが小さい頃に会ったことがあるでしょう、 本来、 縁談の相手はこの子だったのですが、 この子が迷子になってしまって、 今、 無事に見つかったのですから、 この縁談は当然、 この子が引き継ぐべきで……」
恵子は、たった数言で身代わり結婚をごまかそうとした。
しかし、そばにいた陸田奈緒は顔を赤らめていた。
(なんてこと!)
(京介が、こんなにハンサムだったなんて!)
(今となっては、結衣というあの醜い女に彼を譲ったことを、少し後悔している!)
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