
四十九冊の本、ただ一つの清算
章 3
私は彼らより先に庭に着いた。
晩秋の空気は澄み渡り、湿った土と朽ち葉の匂いが空気を満たしていた。
私は慣れ親しんだ砂利道を歩いた。ヒールが歩くたびにわずかに沈む。
そこにあった。母のための追悼の木立。
数本のしだれ柳が、簡素な花崗岩のベンチを囲んでいる。
ベンチには小さなブロンズのプレートがあった。
『愛する永田恵子を偲んで。彼女は世界をより美しくした』
そしてその隣、掘り返されたばかりの土の上に、小さな、装飾的な大理石の板があった。
それにはシャベルが立てかけられていた。
吐き気がこみ上げてきた。
私は近づき、大理石に刻まれた文字を読んだ。
『ここにダーシーさん眠る。忠実な友、そして愛された魂。ついに真実の愛と再会す』
真実の愛と再会す?
どういう意味だ?
ただの猫なのに。
その時、彼らが見えた。
彰人と樹里が、手をつないで小道を歩いてくる。
樹里はビロードで覆われた小さな箱を抱えている。
彼女は黒い服を着て、芝居がかった喪の演技をしていた。
彰人は居心地が悪そうで、捕まるのを恐れるかのようにあたりをキョロキョロと見回していた。
彼らは私を見て立ち止まった。
樹里の顔がこわばり、悲しみの仮面が一瞬滑り落ちた。
「杏奈」
彰人の声は張り詰めていた。
「ここで何をしているんだ?」
「ここは私の母の追悼の場所よ」
私は危険なほど静かな声で言った。
「あなたたちこそ、ここで何をしているの?」
樹里が一歩前に出て、彰人の腕に手を置いた。
「彰人さんはただ私を手伝ってくれていただけよ、杏奈さん。今日は私にとって辛い日なの」
彼女は大理石の板を指差した。
「ダーシーを偲ぶための、ささやかな場所が欲しかっただけ」
「ここはペット霊園じゃないわ」
私は彼女をまっすぐに見つめて言った。
「わかってるわ。でも、とても安らかな場所だから」
彼女の声は偽りの同情に満ちていた。
「それに、あなたのお母様は動物が好きだったって知ってる。きっと理解してくれると思ったの」
それだった。
亡き母の名前を軽々しく口にし、このグロテスクな見世物を正当化するために使う。
私は考えなかった。行動した。
私は前に進み出て、大理石の板を蹴り飛ばした。
それは重くなかった。鈍い音を立てて倒れた。
樹里は息をのんだ。
「何するのよ!この鬼!」
「このゴミをここからどけて」
私の声は怒りで震えていた。
私は彰人に向き直った。
「今すぐどけて」
「杏奈、落ち着け」
彰人は私たちの間に割って入った。
彼は有権者が怒った時に使うのと同じ、なだめるような仕草で両手を上げた。
「まずは話し合おう」
「話し合うことなんて何もない!」
私は叫んだ。その声は静かな木立に響き渡った。
「彼女は自分の猫を埋めるために、私の母の墓を冒涜しているのよ!」
「埋めてなんかないわ!」
樹里はビロードの箱を胸に抱きしめながら金切り声を上げた。
「これは記念のプレートよ!そしてこれは彼の遺灰!」
「どうでもいいわ!」
私は彼女に向かって一歩踏み出し、彰人がそれを阻んだ。
「杏奈、頼むから」
彼は懇願した。
「樹里はただ動揺しているだけなんだ。猫が死んでしまったんだ。少しは思いやりを持とう」
「思いやり?」
私は笑った。耳障りで醜い笑い声だった。
「あなたは父の授賞式をすっぽかし、私の顔を見て嘘をつき、私たちのお金で彼女にマンションを買い与え、そして今、私の母の追悼庭園に立って、彼女の死んだ猫への思いやりを私に求めるの?正気なの?」
彰人の顔が青ざめた。
彼は私と樹里の間で、板挟みになっていた。
樹里は泣き始めた。大げさで、芝居がかったすすり泣き。
「あなたが冷血な女だってことは知ってたわ」
彼女は泣きじゃくった。
「あなたはいつも彰人と私の関係に嫉妬してた。彼が幸せなのが我慢できないのよ」
「幸せ?」
私はその言葉を吐き捨てた。
「彼は幸せなんかじゃない。彼は弱いだけ。そしてあなたは寄生虫よ」
私は彰人を押し退け、彼女の元へ行こうとした。
あのプレートを地面から引き剥がし、粉々に叩き割りたかった。
彼は私を抑えつけた。その力は驚くほど強かった。
「杏奈、やめろ!見世物になるぞ!」
彼は囁いた。彼の公的なイメージを守るための反射的な行動だった。
「私が見世物?」
私は彼を見た。私が愛した男を。そして、軽蔑しか感じなかった。
「この結婚が見世物よ。この人生が見世物。そして私は、自分の役を演じるのはもう終わり」
私は彼の目をまっすぐに見つめた。
「彼女と、彼女の猫の記念碑をここからどけて、彰人。さもなければ、明日の朝、離婚届を提出するわ。そして信じて。愛人に妻の亡き母の追悼碑を汚させた市長候補の話は、夕方六時のニュースで美しく報道されるでしょうね」
彼の力が緩んだ。
政治的な脅威だけが、彼に届く唯一のものだった。
私にそれができることを、彼は知っていた。
私には彼を破滅させるスキルがあることを、彼は知っていた。
彼は樹里の方を向いた。その顔は混乱と恐怖で歪んでいた。
「樹里、たぶん、僕たちは行くべきだ。ここは…ここは正しい場所じゃない」
「でも、約束したじゃない!」
彼女はわめいた。彼女の涙は突然止まっていた。
その目は硬く、計算高かった。
「わかってる。でも、別の場所を見つけよう。もっといい場所を」
彼は彼女を引き離そうとしながら言った。
「いや!」
彼女は彼を振り払った。
「私はこの場所がいいの」
彼女は私を見て、唇に笑みを浮かべた。
「この場所は特別なのよ」
彰人は彼女の腕をより強く掴んだ。
「樹里、帰るぞ」
彼は彼女を連れて、小道を戻り始めた。
彼女はついて行ったが、肩越しに私を振り返った。
その目は勝利に満ちていた。まるで自分が勝ったかのように。
彼らは私をそこに残していった。
冒涜された木立の中に、一人で。
ひっくり返った大理石の板は、私の結婚の墓石のように見えた。
私は震える息を吐き出し、スマートフォンを取り出した。
庭園の管理人に電話をかけた。
「フランクさん、永田杏奈です」
私は言った。
「追悼の木立にゴミがあるので、すぐに撤去してください。ええ。大理石の板です。ただ捨ててください」
電話を切り、去ろうとした時、金属のきらめきが私の目を引いた。
それは母のベンチの根元、茂みに半分隠れていた。
私は歩み寄り、ひざまずいた。
それは別の、もっと小さくて新しいプレートだった。
すでにベンチの脚にネジで取り付けられていた。
『ダーシーさんへ。虹の橋で樹里を待つ』
怒りが戻ってきた。以前よりも熱く、激しく。
彼女はただプレートを持ってきただけではなかった。
すでに母のベンチを汚していたのだ。
彼らはまだ遠くへは行っていないはずだ。
私は木立から走り出した。ヒールが柔らかい土に食い込む。
私の心臓は、一つの、破壊的な目的のために激しく鼓動していた。
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