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五年、運命を狂わせた一つの嘘 の小説カバー

五年、運命を狂わせた一つの嘘

結婚五周年を迎え、完璧な幸福の中にいると信じていた。しかし、夫がシャワーを浴びている最中、彼のパソコンに届いた一通の通知が平穏を打ち砕く。「桐谷怜央くんの洗礼式」という文面、そして送り主は著名なインフルエンサー、佐藤美月。私たちの苗字を冠した見知らぬ子供の存在に、私は凍りつくような絶望を覚えた。真実を確かめるべく向かった教会で目にしたのは、夫が自分と瓜二つの赤ん坊を抱き、美月と睦まじく寄り添う姿だった。そこには、私が入り込む隙のない「幸せな家族」の光景が広がっていた。かつて仕事の多忙を理由に子作りを拒んだ彼の言葉も、度重なる出張や深夜残業も、すべては裏で別の家庭を育むための嘘だったのだ。あまりに無慈悲な裏切りを悟った私は、夫のために一度は諦めたチューリッヒでの研究員制度を受けることを決意する。事務局へ電話をかける私の声は、驚くほど冷静だった。五年間の愛が虚構だったと知った今、私は彼との生活を捨て、自らの足で新たな道へと踏み出す準備を始めた。
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3

私は呆然としながら診察室を出た。彼女の明るい言葉が、殺風景な廊下に響き渡る。妊娠。六週目。私はまだ平らな自分のお腹に手を当てた。一筋の涙が目尻からこぼれ落ちた。

この小さく、罪のない命。なぜ今?なぜ、この瓦礫の山の中から、この瞬間に生まれてくることを選んだの?

長い廊下の突き当たりに差し掛かった時、見慣れたシルエットに私は凍りついた。

蓮だった。彼はエレベーターの近くに立ち、胸で泣きじゃくる佐藤美月を腕に抱いていた。彼は慰めの言葉を囁き、その表情は、私が長い間向けられていなかった優しい気遣いに満ちていた。

私は大きな観葉植物の陰に隠れた。心臓が激しく鼓動する。彼らの言葉ははっきりと聞こえなかったが、彼の行動がすべてを物語っていた。

その時、美月の詰まったような囁き声が廊下に響いた。「彼女、何か疑ってると思う?」

「あいつは俺を信じきってる」蓮は答えた。彼の声は素っ気なく、見下すようだった。それは、彼が私を、私の知性を、どれほど軽んじているかをすべて明らかにする、無頓着な一言だった。

「でも、いつ私を奥さんにしてくれるの?」美月は、必死の野心をにじませた声で迫った。「いつ、私と怜央に、ふさわしい生活を与えてくれるの?」

「美月、やめろ」彼は彼女を遮った。その声には鋼のような響きがあった。「詩織は俺の妻だ。それは変わらない」

私は息を呑んだ。

「それが、俺にできる最低限のことなんだ」彼は続けた。その声は今や柔らかく、罪悪感のようなものが混じっていた。「彼女にしてしまったことへの、俺なりの償いだ」

美月は黙り込み、不承不承ながらも彼の決定を受け入れた。彼は彼女を再び抱きしめ、髪にキスをした。

「美しい息子を産んでくれた、美月」彼は感情のこもった声で言った。「君たち二人のことは、俺が必ず守る」

彼らは腕を組み、エレベーターに向かって歩いていった。ドアが閉まる直前、美月の目が私のいる方向をちらりと見た。一瞬、彼女の視線が私と交錯した。彼女の目に驚きはなく、ただ冷たく、勝ち誇ったような勝利の光が閃いただけだった。

彼女は知っていた。私がずっとそこにいたことを。

私は植物の陰から一歩踏み出した。体は震えていた。こらえていた涙が、熱く、止めどなく顔を伝って流れ落ちた。胸の痛みは物理的な重さとなって、私を押しつぶしていた。

彼は罪悪感から私と離婚したくない。しかし、もう一つの家族を諦めるつもりもない。それなら、私は何?彼の感じなくなった責任の象徴?臆病すぎて断ち切れない、ただの placeholder?

彼の約束を、誓いを思い出した。「病める時も、健やかなる時も、死が二人を分かつまで」。彼はあんなにも確信に満ちて言った。私は信じていた。

しかし、彼は私を裏切った。そしてこの愛、この毒にまみれた、壊れたものを、私は自分の人生から切り捨てなければならない。

病院を出る前に、私は受付に戻り、予約を入れた。中絶手術の。

そして、弁護士に電話した。

「離婚届を作成してください」私の声は冷たく、安定していた。「財産はすべて折半。私が受け取る権利のあるもの、すべてを」

病院の駐車場で車の中に座っていると、スマホが鳴った。蓮からだった。彼の声はかすれて、疲れていた。

「誕生日おめでとう、詩織」

すっかり忘れていた。混乱と痛みの中で、自分の誕生日が頭から抜け落ちていた。

「昨日は本当にすまなかった」彼の声には、練習された後悔の念がにじんでいた。「会社でトラブルがあって。一睡もできなかったんだ」

苦い笑いがこぼれそうになった。「そう」私は言った。その二文字が、口の中で埃のように感じられた。

彼は電話の向こうで安堵したようだった。私の質問のなさに安心したのだろう。「今夜、君のためにパーティーを開くんだ。君の誕生日と、君が設計した美術館の新館の完成を祝って。埋め合わせをさせてくれ」

「そう」私は繰り返した。声は単調だった。

一年前なら、その言葉に嬉し泣きしていただろう。今では、それは彼の巧妙な嘘の、また一つ新たな層に過ぎなかった。

もう彼の声を聞きたくなかった。私は電話を切り、ハンドルを握りしめた。

窓の外を見ても、何も見えなかった。ただ、深く、冷たい予感だけがした。彼はこれから何が起こるか、全くわかっていない。何か大切なものが指の間から滑り落ちていくような不安を感じてはいるが、それが何なのかはわからない。

それが、もう失われてしまったことにも気づかずに。

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