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鳥籠を抜け出した余命宣告妻:冷酷夫の愛はいりません の小説カバー

鳥籠を抜け出した余命宣告妻:冷酷夫の愛はいりません

子宮癌ステージⅣという残酷な現実を突きつけられた日、夫の鷹司暁は初恋の女性である一条絢子の誕生日を祝っていた。電話越しに冷たく突き放された後、主人公が見上げた大型ビジョンには、絢子に高価なダイヤを贈る夫の晴れやかな姿が映る。深夜、別の女の香りを纏って帰宅した暁は、妻の異変に気づくこともなく、跡継ぎを作るための「義務」として冷酷に身体を求めてくるのだった。唯一の心の拠り所だった義兄からも他人扱いされ、絶望の淵に立たされた彼女は、かつて天才と謳われた航空宇宙工学の夢を捨て、三年間も献身的に夫を支えてきた日々を悔いる。自分という存在が彼らにとって単なる邪魔者でしかないと悟った彼女は、署名済みの離婚協議書と辞表を置き、静かにその家を去る決意をした。残されたわずかな時間は、もう誰かに捧げるためのものではない。自分自身の尊厳を取り戻し、一人の人間として自由に生きるために、彼女は鳥籠を抜け出し、新たな一歩を踏み出す。
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鷹司暁は、ベッドの上で涙を流しながら笑う静を、冷ややかに見下ろした。彼女の感情的な反応を、いつもの気まぐれか、あるいは絢子への嫉妬心からくるヒステリーだと断定した。

「絢子は友人だ。今日は彼女にとって大切な日だった。鷹司家の主婦たるもの、もっと寛大であるべきだ」

彼は静の反抗を「嫉妬」という陳腐な言葉で片付け、さらに続けた。

「自分の本分を守れ。持つべきでない感情は捨てるんだ」

その言葉が、静の中に残っていた結婚という幻想の最後の欠片を、粉々に砕いた。妻ではない。ただ「本分を守る」ことを要求される、一つの役職に過ぎないのだ。

静はふっと笑みを消し、驚くほど穏やかな声で言った。

「ええ、そうね。私が、間違っていたわ」

彼女は静かにベッドから降りると、バスルームに入り、内側から鍵をかけた。カチャリという音が、二人を隔てる壁となった。

暁は、彼女がようやく「理解」したのだと思い、苛立ちを隠さずに踵を返した。寝室を出て、書斎へ向かったのだろう。やがて階下から車のエンジン音が聞こえ、静は彼がこの家を去ったことを知った。会社に戻ったのか、それとも、絢子の元へ帰ったのか。もう、どうでもよかった。

バスルームの鏡に映る自分の顔は、血の気を失い、ひどくやつれていた。静は鏡の中の自分に語りかけた。

「西園寺静。三年間、もう十分よ」

涙を拭い、バスルームを出る。彼女はスマートフォンを手に取り、ある番号を探し出した。個人弁護士、田中誠。

「田中先生、おはようございます。離婚協議書を作成してください。できるだけ早く、お願いします」

メッセージを送ると、すぐに返信があった。

「西園寺様、承知いたしました。財産分与に関しては……」

静は迷わず打ち込んだ。

「私は何も要りません。鷹司家から与えられたものは、すべてお返しします。净身出户で結構です」

弁護士は少しの間沈黙した後、『承知いたしました。一時間以内にメールでお送りします』と返してきた。

決別の手続きは、驚くほど簡単だった。

静はノートパソコンを開き、もう一つの作業に取り掛かった。辞表の作成だ。彼女は鷹司グループの市場開発部で副部長という肩書きを与えられていた。もちろん、それは暁が世間の口を塞ぐために用意した、名ばかりの役職だった。

辞表を書き上げ、人事部と暁の秘書である加藤健のメールアドレスに送信する。同時に、有給休暇の申請も済ませた。

一時間後、離婚協議書の電子ファイルが届いた。静は書斎のプリンターで二部印刷する。協議書に書かれた「鷹司暁」の名前に、心臓が一瞬、鋭く痛んだ。だが、彼女はためらうことなく、乙の欄に「西園寺静」とサインした。

インクが乾く頃には、三年間彼女を縛り付けていた重い枷が、少しだけ軽くなった気がした。

荷造りを始める。彼女が持っていくものは、数着の普段着と、母親が遺した数少ない品々だけだった。クローゼットに並んだブランド物のバッグや、ジュエリーボックスの中の宝石には、指一本触れなかった。

階下に降りると、家政婦の佐藤が、いつものように安神作用のあるスープを差し出してきた。これは姑である鷹司容子が、妊娠に良いからと毎日飲むように命じていたものだ。今となっては、すべてが滑稽な茶番に思えた。静は礼儀正しくそれを断った。

サイン済みの離婚協議書を一部、茶封筒に入れる。

家を出る前、彼女はこの華麗な牢獄を一度だけ振り返った。未練は、ひとかけらもなかった。

小さなスーツケースを引き、佐藤に「少し出かけてきます」とだけ告げて、静はヴィラの重い扉を背後で閉めた。

スマートフォンでバイク便を呼ぶ。すぐにやってきたライダーに、茶封筒を手渡した。

「鷹司グループ本社ビル、総裁秘書室の加藤健様宛です。必ず、ご本人に手渡してください。重要書類です」

念を押してそう告げた。

すべてを終えた後、彼女は流しのタクシーを拾い、一つの住所を告げた。

「東京拘置所まで、お願いします」

今日、三年の刑期を終えて、一人の男が出所する。

中村悠真。

かつて、彼女の希望だった男。義理の兄。暁の裏切りを目の当たりにした今、彼だけが、もしかしたら自分に温もりを与えてくれるかもしれない、唯一の存在だった。

タクシーの窓の外を、見慣れた街並みが猛スピードで後ろへ流れていく。過去との決別と、微かな再会への期待。相反する感情が、静の胸の中で渦巻いていた。

やがて、タクシーは拘置所の外周にある駐車場に停まった。

静は料金を払い、スーツケースを引いて車を降りる。そして、あの重々しい鉄の門に向かって、静かに歩き始めた。

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