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鳥籠を抜け出した余命宣告妻:冷酷夫の愛はいりません の小説カバー

鳥籠を抜け出した余命宣告妻:冷酷夫の愛はいりません

子宮癌ステージⅣという残酷な現実を突きつけられた日、夫の鷹司暁は初恋の女性である一条絢子の誕生日を祝っていた。電話越しに冷たく突き放された後、主人公が見上げた大型ビジョンには、絢子に高価なダイヤを贈る夫の晴れやかな姿が映る。深夜、別の女の香りを纏って帰宅した暁は、妻の異変に気づくこともなく、跡継ぎを作るための「義務」として冷酷に身体を求めてくるのだった。唯一の心の拠り所だった義兄からも他人扱いされ、絶望の淵に立たされた彼女は、かつて天才と謳われた航空宇宙工学の夢を捨て、三年間も献身的に夫を支えてきた日々を悔いる。自分という存在が彼らにとって単なる邪魔者でしかないと悟った彼女は、署名済みの離婚協議書と辞表を置き、静かにその家を去る決意をした。残されたわずかな時間は、もう誰かに捧げるためのものではない。自分自身の尊厳を取り戻し、一人の人間として自由に生きるために、彼女は鳥籠を抜け出し、新たな一歩を踏み出す。
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3

東京拘置所の灰色の壁を見上げながら、静は過去の記憶を辿っていた。幼い頃、いつも自分を守ってくれた悠真の姿。「大きくなったら、静を俺の嫁さんにして、一生守ってやるからな」。その言葉は、この三年間の氷のように冷たい結婚生活の中で、彼女が時折すがる唯一の温かい思い出だった。悠真だけは、暁のように自分を扱ったりしない。そう信じたかった。

彼女は乱れた髪を指で整え、無理に微笑みを作った。今の惨めな姿を、病にやつれた顔を、彼に見せたくなかった。スーツケースを少しだけ背後に隠し、帰る場所がない人間には見えないように努めた。

その時、重々しい金属音と共に、鉄の門がゆっくりと開き始めた。数人の男たちが、解放された鳥のように外の世界へ歩み出てくる。

静の心臓が、早鐘を打ち始める。人々の間から、あの懐かしい姿を探した。

いた。

中村悠真。三年前より少し痩せたが、その目鼻立ちは記憶の中の彼と少しも変わっていなかった。

静の目が熱くなり、思わず彼の名前を呼ぼうとした、その瞬間だった。

一人の若く、華やかな服装の少女が、彼の背後から駆け寄り、力いっぱい抱きついた。

「悠真!」

静の作り笑いは顔に張り付いたまま凍りつき、踏み出そうとした足は地面に縫い付けられた。

知らない女。

悠真は振り返り、その少女の髪を、まるで宝物に触れるかのように優しく撫でた。二人の間には、他人が入り込む隙間のない親密な空気が流れていた。

「愛梨、待たせたな」

その声は、水が滴るほどに甘く、優しい。かつて、自分にも向けられたことのある声色だった。心臓を直接掴まれたような痛みが走る。

悠真はようやく、少し離れた場所に立つ静に気づいた。彼の目に驚きがよぎったが、それはすぐに冷たい無関心と疎外感に変わった。

静が想像していたような、感動的な再会はなかった。彼は愛梨を連れて、ゆっくりとこちらに歩いてくるだけだった。

その時、一台の派手なスポーツカーが猛スピードで走り抜け、道路脇の水たまりの水を高く跳ね上げた。汚れた水の壁が、三人に襲いかかる。

水しぶきが上がる瞬間、悠真は反射的に愛梨を強く抱きしめ、自分の背中で汚れた水をすべて受け止めた。

彼のすぐそばに立っていた静は、完全に無視された。冷たい泥水が、彼女のコートとワンピースを無慈悲に汚していく。

咄嗟に腕で顔を庇ったが、もう手遅れだった。

悠真は怯える愛梨をなだめた後、ようやく振り返って、ずぶ濡れで立ち尽くす静を見た。彼の目にあったのは、心配ではなく、面倒なものを見るような、わずかな苛立ちだけだった。

「静?どうしてここにいるんだ?」

まるで、招かれざる客に問いかけるような口調だった。

全身が、内側から凍りついていくようだった。静は何も言えず、ただこの場から逃げ出したかった。

「……通り、かかっただけだから」

彼女はみっともなく背を向け、スーツケースを引きずりながら、逃げるようにその場を去った。

背後から、愛梨の無邪気な声が聞こえてくる。

「悠真、あの人、誰?」

そして、悠真の、ため息混じりの声。

「ああ……遠い親戚だよ」

「遠い親戚」。その四文字が、最後の審判のように静の心を地獄に突き落とした。彼女が抱いていた淡い光は、雨上がりの水たまりに映る月のように、無残に砕け散った。

巨大な失望と屈辱が、腹部の激痛となって彼女を襲う。冷や汗が噴き出し、視界が揺らぐ。静は道端の壁に手をつき、痛みでその場にうずくまりそうになった。

その時、ポケットの中でスマートフォンが震えた。ディスプレイには「加藤健」の名前が表示されている。

同じ頃、鷹司グループ総裁室では、加藤健がバイク便で届いたばかりの封筒を開封していた。中から出てきた書類を見て、彼は眉をひそめた。

離婚協議書。しかも、西園寺静の署名入りだ。

加藤の第一印象は、「また奥様が、総裁の気を引くために面倒な芝居を打っている」というものだった。昨夜の一条絢子様の誕生日パーティーの件で、拗ねているのだろう。幼稚で、滑稽な手段だ。

しかし、総裁からは奥様の動向は些細なことでも報告するよう命じられている。彼はすぐに静の番号をダイヤルした。

激痛に耐えながら、静は電話に出た。

「奥様、どちらにいらっしゃいますか?総裁がお呼びです」

加藤の、感情のこもらない事務的な声が耳に届く。

「一条様の昨夜のニュースの件で、奥様に対応していただきたい案件がございます。至急、本社までお戻りください」

自分で処理しなければならないのか……まさか離婚の話をするつもりなの?痛みと絶望で麻痺した頭で、静はそう考えるほかなく、答えなかった。

「……わかりました」

その従順な返事を聞いて、加藤は自分の推測が正しかったと、さらに確信を深めた。やはり、奥様は総裁の元に戻りたいのだ、と。

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