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美味に溺れて、血に染まる の小説カバー

美味に溺れて、血に染まる

静寂に包まれた茶室で、私はある特別な茶葉を商っている。その葉をひとさじ料理に加えるだけで、口にした者は抗いがたい快楽に囚われ、二度とその禁断の味から逃れられなくなるという。この不思議な効能は瞬く間に広まり、さらなる名声を渇望する高級料理店の店主たちが、我先にと私の元へ詰めかけてくる。客たちは一様に、魔法のような力で客を魅了するこの茶葉を絶賛し、対価を惜しむことはない。しかし、彼らは誰も知らない。その芳醇な香りと深い味わいの裏側に隠された、恐ろしい対価の正体を。この茶葉が真に必要としているのは、肥沃な土壌でも清らかな水でもない。それは、かつてその味に溺れ、中毒者となって果てた人間たちの生々しい鮮血なのだ。血を吸うことでより一層の輝きを増す茶葉の真実を、私は独り、静かに見つめ続けている。美食という名の欲望が、新たな犠牲者をこの茶室へと誘い、赤く染まった循環は決して途切れることはない。
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3

【1】

あの瞬間、いっそ店長に殺され、その血を茶葉の肥やしにされるのではないか、そんな考えさえ頭をよぎった。

不意に腰に腕が回され、耳元で秦靖の声がした。「蓉おばさん、俺が小黛を遊びに呼んだんです。構わないでしょう?」

店長の氷のような眼差しが、秦靖を認めた途端に和らいだ。「構わないわ。二人でゆっくりなさい。私は先に帰って休むから」

私の横を通り過ぎる際、店長はちらりと睨みつけ、「用もないのに、うろつくんじゃないよ」 と言い捨てて去っていった。

店長の姿が見えなくなるまで、私は息を殺していた。まさか秦靖が助け舟を出してくれるなんて。

額の冷や汗を拭い、彼に礼を言うと、私はそそくさと茶室へ戻ろうとした。

だが、腰に回された腕は解かれるどころか、かえって強く引き寄せられた。

秦靖は口の端を歪め、私の耳に息を吹きかけるように囁いた。「助けてやったんだ。口先だけの礼で済むとでも?」

言い終わると、私を頭のてっぺんからつま先まで嘗め回すように眺め、満足げに頷いた。「小黛、分かっているだろう?ずっと君が好きだった」

私は黙り込んだ。

私の反応が気に入らなかったのだろう。「俺がお茶を盗んだことを蓉おばさんに話したら……どうなるかな」

(万事休すだ……)

秦靖はさらに身を寄せてきた。「で、どう礼をしてくれるんだ?俺の彼女になるってのはどうだ?」

私は拳を固く握りしめた。断れば……店長はきっと私を許さない。それに、あの垂涎茶に注がれていた液体は、本当に人間の血だとしたら……。

数日後には、あの水差しの中身が、私の血に入れ替わっているかもしれないのだ……。

「……いいわ」 承諾するしかなかった。生きていること以上に大切なものなどないのだから。

秦靖の瞳が欲情にぎらついた。「恋人同士になったからには、それらしいことをしないとな。そうだろ?」

私は固く目を閉じ、小さく頷いた。

……

情事を終え、満足げに私を抱きしめる秦靖。私は込み上げる吐き気を必死にこらえ、その背中に腕を回した。

こうなった以上、秦靖を利用してでも金を手に入れるしかない。

私は考えを巡らせ、口を開いた。「ねえ、お兄さん。私たち、もっとお金を稼がないと」

秦靖は眉をひそめた。「どうして? 蓉おばさんが毎月たくさん小遣いをくれるだろ」

私はぐっと奥歯を噛みしめ、甘い声を作った。「私と結婚したいんでしょ?結婚式にはお金がかかるわ。今のうちから貯めておかないと」

彼が訝しげな顔をしたのを見て、私は翻身して彼の腰にまたがった。「あなたが今日みたいに、また少しお茶を摘んでくるだけでいいの。そうすれば、お金が手に入るわ」

「分かった。君の言う通りにするよ」秦靖は承諾すると、再び私を組み敷き、体を動かし始めた。

【2】

秦靖に助けを求める前から、こうなるだろうとは分かっていた。

彼が欲していたのは、いつだって私の体。私がそれに気づいていないとでも思っていたのだろうか。

けれど、あの日の出来事を、私は鮮明に記憶している。

高校に入学したばかりの頃。ある晩、店長に別荘での夕食に呼ばれ、そのまま泊まることになった。

真夜中、夢うつつの状態でいると、誰かがベッドに這い上がってくる気配がした。

恐怖で声も出せず、眠ったふりをしながら、なすがままに体をまさぐられるしかなかった。

翌朝、目を覚ますと、部屋に秦靖の上着が脱ぎ捨ててあった。

昨夜、私を襲ったのが秦靖だったのだと、すぐに分かった。

私は泣きながら店長に訴えた。信じてもらえないかもしれないと思い、証拠としてあの上着も見せた。

しかし店長は、私の言葉に耳を貸そうともせず、秦靖を問い詰めることすらしなかった。

そして、問答無用で私を打ちのめした。

彼女に鞭で打たれたのは、それが初めてだった。

だが、同時に悟ったのだ。店長はどこまでいっても店長であり、秦靖の母親であって、私の母親ではないのだと。

翌日、私が店で通常通りに仕事をしていると、不意に店長が姿を現した。

胸がざわついた。秦靖は私を騙したのだろうか。やはり、裏切ったのだろうか。

店長はまっすぐソファへ向かうと腰を下ろし、私にドアを閉めるよう命じた。

私は何食わぬ顔で指示に従い、ドアを閉めると、お茶を淹れて店長の前に差し出した。

店長は湯呑みを手に取り、一口含むと、静かに言った。「昨日、茶畑で私の茶を盗んだね」

その言葉は、まさに青天の霹靂だった。(……やはり、バレていたんだ……)

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