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冷徹旦那様は、結婚後に制御不能 の小説カバー

冷徹旦那様は、結婚後に制御不能

誰もが見惚れるほどの美貌を持つ石川凪。しかし、彼女が周囲に振りまく甘い言葉は、その場限りの偽善に満ちていた。そんな彼女の振る舞いを、冷徹な青木浩司は心底から軽蔑し、嫌悪していた。二人の間には埋められない溝があるはずだったが、ある時を境に凪は彼への誘惑をぴたりと止めてしまう。執着などないはずの浩司だったが、手の内から擦り抜けていく彼女を前に、これまで保っていた強固な自制心は音を立てて崩れ去っていく。逃がさないと言わんばかりに凪を腕の中へ追い詰め、彼は「俺を誘ってみろ」と低く迫る。対する凪が告げたのは、「命だってあげる」というあまりに重く、狂おしい言葉だった。石川凪という存在に出会ったことで、常に理性的で冷徹だったはずの男は、かつてないほど激しく理性を失い、制御不能な情愛の渦へと飲み込まれていく。偽善から始まった関係が、いつしか互いの魂を削り合うような、逃れられない愛憎劇へと変貌していく。
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ドアを開けたとたん、ソファで重なり合う二人の体が目に飛び込んできて、石川凪の頭が真っ白になった。

突然林伸一の家を訪ね、「二年間の遠距離恋愛、ついに終わったよ。これで一緒に暮らせる」と告げたら、きっと驚いて喜んでくれるんだ、と。

まさか、目に飛び込んできたのが、これほど目を背けたくなるような光景だとは思いもしなかった。

凪は拳を握りしめた。ソファの二人はあまりに夢中で、彼女の存在にさえ気づいていない。

込み上げる吐き気を必死に堪え、凪はスマートフォンを取り出し、録画モードにした。

二人が体勢を変えたとき、女がようやく凪に気づき、甲高い悲鳴を上げた。

伸一も驚き、慌てて毛布を引き寄せて体に巻き付け、女を背後にかばった。

「どうして帰ってきたんだ?何してるだ?」

凪は目を赤くして言った。「こんな素晴らしい場面、もちろん記録してSNSにアップしなきゃ」

伸一はそれを聞くと、背後の女が糸一本まとっていないのも構わず、毛布を体に巻き付けてソファから降り、凪のスマホを奪おうとした。

「それ以上一歩でも近づいたら、一斉送信する」凪は脅した。

伸一はまったく信じず、そのまま前へ進んだ。

凪はためらわず一斉送信ボタンを押した。

伸一は呆然とした。

いつもは優しく物分かりのいい女が、まさかこんな非情なことをするとは!

「石川凪、死にたいのか!」 伸一は怒りで額に青筋を立て、凪を殺さんばかりの形相だった。

凪はスマホを掲げた。画面にはすでに110が表示されている。「警察に通報したわ」

伸一は目を見開き、言葉を失った。「お前……」

凪の情け容赦ない、冷酷な様子を見て、伸一は凪を指さした。「いいだろう、お前の勝ちだ!」

凪の瞳は冷ややかだった。

「この二年間、まるでゴミにでもしてたってことにするわ。…いいえ、ゴミ以下ね、あんたは」

伸一の家を出た後、凪は親友の平野奏の家へ向かった。

奏の家で五日間過ごし、その間、奏は伸一を罵り続けた。

その日の朝、奏は凪がスマホを見ながら落ち込んでいるのに気づき、寄り添って凪を抱きしめた。「クズ男一人のために、悲しむ価値なんてないわ」

凪は首を振った。「とっくに悲しくなんかない。 ただ、石川雄一が持ってきた縁談をどうしようか迷ってるだけ」

「何ですって?」

凪の父親が彼女に縁談を持ちかけ、帰ってきて話し合うようしきりに催促していたのだ。

相手は家柄が良く、背が高くてハンサム、しかも一人息子だという。

凪が結婚に同意しさえすれば、相手の家は2000万円の結納金を払い、2ヶ月以内に妊娠すれば20億円のボーナス、子供を一人でも産めば、若奥様として無尽蔵の財産を手にできるという。

奏はそれを聞くと手を叩き、鼻で笑った。「それ、あんたの継母の入れ知恵でしょ。 本当にそんな美味しい話なら、自分の娘を嫁がせないわけないじゃない。 どう見たって罠よ」

「何か内情を知ってるの?」

「言ってること自体は本当よ。 でも、肝心なことを一つ隠してる」

「うん?」

奏は言った。「その人の名前は青木浩司。確かにルックスも財力も実力もあるわ。 昔は九条市の女たちがこぞって彼と結婚したがったものよ。結婚できないまでも、一夜を共にしたいってね」

「青木浩司……」 凪はその名を呟いた。「どこかで聞いたことがあるような」

奏は鼻を鳴らした。「九条市の人なら誰でも知ってる名前よ」

そして続けた。「去年、彼が不治の病って報道されて、余命わずかなんだって。 もともと恋人がいたらしいんだけど、それを知って外国に行っちゃったとか」

「はっきり言うわ、死にゆく男よ。彼と結婚するなんて、死人と結婚するようなものだわ」

なるほど、なかなか悲惨だ。

奏は唇を尖らせた。「継母ができれば実の父親も他人同然、って言うけど、 まさにその通りね。あんたの継母、あんたを嫁がせて未亡人にさせる気よ」

「彼が死んだら、再婚すればいい」

奏は目を見開いた。「ちょっと、本気で考えてるの? あの男、もう病気で弱りきってるんでしょ。今頃どんな不細工になってるか。 それに、こんな土壇場で結婚相手を探すなんて、死ぬ前に自分の子孫を残したいだけでしょ?」

「こんな時にそんなこと考えるなんて、変態よ!」

「でも、見返りが大きい」

「……」

「それに、彼が死ねば財産を相続できる」 凪は淡々とした表情だった。「そうなれば、お金も自由も手に入る。どれだけ多くの人が羨むことか」

奏は呆気にとられた。「あんた、ショックでおかしくなった?」

「本気よ」 凪は真顔になった。「考えたの。愛情なんてもの、幽霊と同じ。噂には聞くけど、見たことはない。 追い求めるだけ無駄よ」

「それに、私たちがこんなに必死で働くのだって、お金を稼いで経済的自由を手に入れるためじゃない? 今、近道があるのに、どうして利用しない手があるの?」

「……なんだか妙に説得力があるんだけど」

凪は笑った。

「それが現実だからよ」

夜、伸一が他人の携帯電話を使って凪に電話をかけてきて、凪を「見かけ倒しの役立たず」と罵った。

電話を切ると、彼はまた別の番号でかけてきた。凪がいくつかの番号を着信拒否にし、ついには電源を切るまで続いた。

翌日、凪が電源を入れると、大量のメッセージがなだれ込んできた。

ほとんどが伸一からで、ありとあらゆる罵詈雑言が並んでいた。

グループチャットは炎上していた。一度も寝たことさえないのに、伸一はそこで凪の胸は豊胸だの、尻軽のくせに清純ぶってるだのといったデマを流していた。

とにかく、一つとして耳に堪えないものはなかった。

凪は深呼吸をした。起こることすべてに理由があると信じようとした。

神様があのクズ男の本性を早く見抜けるよう、あの場面を見せてくれたのだと。

凪は石川雄一に電話をかけ、彼の提案を受け入れた。

父と娘が青木家の大邸宅に着くと、青木浩司の姿はなく、彼の両親が二人を迎えた。

凪が浩司と結婚する意思があると知り、彼らは興奮を隠せない様子だった。

凪の要求はただ一つ、先に入籍することだった。

理由は、法的に有効にするためだ。

結婚式については、不要だと言った。

相手はもちろん異論はなく、むしろ凪が結婚を拒むのではないかと恐れていたほどだった。

双方の合意はとんとん拍子に進み、青木俊一はすぐに役所の職員を自宅に呼び、婚姻届を提出した。

その時になって、凪はようやく浩司の……写真を目にした。

写真の男は奏が言った通り、整った顔立ちで、特にその瞳は深く力強く、人を惹きつけるようだった。

これほどの極上の男、命が残りわずかでなければ、凪に回ってくるはずもなかった。

結婚証明書が凪の手に渡された。凪は合成されたものとはいえ、二人の並んだ写真をじっくりと眺め、まあ良しとした。

青木栞菜が銀行のカードを取り出し、凪に手渡した。式は挙げないが、結納金は変わらず支払われる。 さらに、生活費としてまとまった額が渡された。

とにかく気前が良く、その額の大きさに、凪はカード自体が重く感じられるほどだった。

凪は遠慮せず、堂々と受け取った。

再び結婚証明書に目を落とし、「青木浩司」の四文字を見つめる。 あの男は、両親にこうして「売られた」と知ったら、

いったいどんな気分だろうか。

父親と共に青木家の大邸宅を後にすると、父は満面の笑みを浮かべ、実に上機嫌だった。

「青木家から、ずいぶん見返りをもらったんでしょ」

雄一は一瞬固まり、不自然な表情を浮かべた。「何を言っているんだ」

「とぼけないで」凪は立ち止まって雄一を見据えた。「あなたたちに利益がなかったら、私のことなんて思い出しもしなかったくせに」

雄一は気まずそうな顔をした。「凪……」

凪は手を挙げて、雄一の耳触りのいい言葉を遮った。

凪は先に歩き出し、淡々と言った。 「これで最後よ。

今後、もう連絡しないで」

凪が本当に浩司と結婚したと知り、奏はその場でぐるぐると歩き回った。

だが、もはや手遅れで、後戻りはできなかった。

「あんたのお父さん、本当に酷い。火の穴だってわかってるのに、あんたを突き落とすなんて。 あんたもあんたよ、なんでそんな気前よく入籍しちゃうの? もし彼があんたを虐待しても、籍を入れてなきゃ逃げられた。でも入籍しちゃったら、もし彼があんたを殺そうとしたって、逃げ場なんてないのよ」

奏は焦りと怒りと心配で、目を赤くしていた。

親友が怒ってくれることに、凪は心が温かくなった。彼女は笑って奏をなだめた。「入籍はしたけど、彼の前に顔を出すつもりはないもの」

奏は凪をじっと見つめた。

凪はいたずらっぽく目を輝かせた。我ながら悪辣な考えだと思うが、事実でもある。

「彼、来年の二月まで生きられないって言ってたじゃない? 残り三ヶ月もないわ。まずは隠れてて、彼がもう動けなくなったら、その時に顔を出すの」

凪の計画は完璧だったが、現実はそう簡単ではなかった。

この言葉を口にしてから数日も経たないうちに、凪のところに使いが来た。。

「青木さんが奥様にお会いしたいと仰っています」

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