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潔癖症の嘘、裏切りのキス の小説カバー

潔癖症の嘘、裏切りのキス

婚約者の和也と歩んだ十年間、瑞実は彼が口にする「潔癖症だから」という言葉を信じ、キスさえ拒まれる日々を耐えてきた。しかし、その献身は残酷な裏切りによって打ち砕かれる。ある夜、瑞実が目撃したのは、兄の元婚約者である幸世と激しく唇を重ねる和也の姿だった。彼は瑞実が高熱で苦しんでいる時も仕事と偽って幸世と旅行を楽しみ、あろうことか瑞実を解雇して、その秘書の座を幸世に明け渡したのだ。瑞実を大切にしたいという甘い囁きは、幸世の「代役」として繋ぎ止めるための卑劣な嘘に過ぎなかった。愛が深い絶望へと変わった時、瑞実の心には冷徹な復讐の炎が宿る。迎えた結婚式当日、主役であるはずの彼女は会場から姿を消した。代わりに披露宴のスクリーンに映し出されたのは、和也と幸世の不貞を暴く決定的な証拠動画だった。すべてを捧げた十年間を蹂躙した男に、瑞実は最大級の屈辱という報いを与える。逃げ場のない公開処刑によって、裏切り者の人生は音を立てて崩壊していく。
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10年間付き合った婚約者の和也は, 「潔癖症だから」と言って, 私とのキスをいつも避けていた.

しかしある夜, 私は見てしまった. 彼が兄の元婚約者である幸世と, 公園の隅で情熱的なキスを交わしている姿を.

私が高熱で倒れた日, 彼は「会議中だ」と電話を切り, 幸世と旅行先で食事を楽しんでいた. それだけではない. 彼は私を無情にも解雇し, 私の秘書の席を幸世に与えたのだ.

「瑞実のことは大切にしたいから, ゆっくりと関係を深めていきたい」彼の優しい言葉はすべて嘘だった. 私はただ, 幸世の「代役」に過ぎなかったのだ.

10年間の献身と愛情が踏みにじられた絶望の底で, 私の心に冷たい復讐の炎が灯った.

結婚式当日, 私は姿を消した. そして, 披露宴のスクリーンに, あの夜のキス動画を流すよう手配した. 「和也, あなたの人生は, 今日で終わりよ」

第1章

瑞実 (みずみ) POV:

目の前で繰り広げられる光景に, 私の心臓が凍りついた.

10年間, 私のすべてだったはずの婚約者, 細井和也 (ほそいかずや) .

彼が, 兄の元婚約者である堀部幸世 (ほりべさちよ) と, 情熱的に唇を重ねていた.

公園の片隅, 街灯の下.

二人の姿は, まるで映画のワンシーンのように鮮明だった.

和也の腕が幸世の腰に巻きつき, 幸世は彼の首に腕を絡ませていた.

そのキスは, 私が和也と交わしたどんなキスよりも深く, 激しかった.

彼の口癖だった「潔癖症だから」という言葉が, 私の頭の中で木霊する.

私たちのキスはいつも, どこか遠慮がちで, 不器用だった.

まるでガラス細工に触れるかのように慎重で, 私がもっと求めても, 彼はいつも「これで十分」と微笑んだ.

それは, 純粋な愛の表現だと信じていた.

しかし, 今, 目の前の彼は, そんな繊細さとは無縁だった.

突然, 胃の奥から込み上げる不快感に, 私は口元を押さえた.

吐き気がする.

全身の血の気が引いていくのが分かった.

頭が真っ白になり, 足元がぐらつく.

持っていたスマートフォンが, 手のひらで滑りそうになった.

画面には, 知らないうちに起動していたカメラアプリが映っていた.

二人のキスシーンが, そのまま動画として記録され始めていた.

私の指は, まるで意志を持ったかのように, 停止ボタンを押さなかった.

ただ, その光景を, 無意識に, 貪欲に記録し続けていた.

「潔癖症だから, 深いキスは苦手なんだ」

数年前, 私が初めて和也に不満を漏らした時の彼の言葉が甦る.

「瑞実のことは大切にしたいから, ゆっくりと関係を深めていきたいんだ」

そう言って, 彼は私の頭を優しく撫でた.

その言葉を, 私は純粋に受け止めた.

彼が私を特別に扱ってくれているのだと, 彼の真面目さゆえの行動なのだと, 何の疑いもなく信じてきた.

私は馬鹿だった.

まるで絵に描いたような模範的な恋人.

それが, 私にとっての細井和也だった.

だが, そのすべてが嘘だった.

私はただの, 彼の亡き兄の元婚約者の「代役」だったのだ.

幸世が和也の肩越しに, こちらを一瞥した.

ほんの一瞬, 視線が合った気がした.

その目は, 私を認識したのか, それともただの偶然か.

しかし, その刹那の視線が, 私の背筋を凍らせた.

私は反射的に, 近くの木の陰に身を隠した.

心臓が警鐘のように鳴り響き, 息をするのも苦しい.

体中が震え, 全身から冷や汗が噴き出した.

幸世の視線が, 私を貫いたような気がした.

彼女はすべてを知っていたのかもしれない.

私が和也にとっての「代役」であることも, そして今, この場にいることも.

木の裏で膝を抱え, 身を縮める.

春先の夜風が, 薄着の私を容赦なく打ち付ける.

体の芯まで冷え切っていくようだった.

どれくらいの時間が経ったのか, 感覚が麻痺していた.

ただ, 二人が立ち去るのを, 震えながら待っていた.

公園の街灯が消え, 辺りは闇に包まれた.

ようやく, 足音が遠ざかるのが聞こえた.

私はゆっくりと立ち上がり, 重い足取りで二人の住むマンションへ向かった.

私たちの, 新しい生活が始まるはずだった新居.

もう, そこは私たちの家ではない.

マンションのエントランスに入ると, キッチンから漂う香辛料の匂いが鼻をついた.

和也が料理をしている.

珍しいことだった.

彼はほとんど料理をしない.

いつも私が彼の帰りを待ち, 食事を用意していた.

しかし, 今日の匂いは, 私が普段使うものとは違う.

それは, 幸世が好んで使うハーブとスパイスの香りだった.

和也は, 私が以前, 彼に「パクチーが苦手」だと伝えたことを忘れていたのだろうか.

彼は今, パクチーをふんだんに使った何かを作っている.

私が食べられないものを.

私が嫌いなものを.

「遅かったな. 何してたんだ? 」

和也の声が, キッチンから響いた.

普段なら優しいはずの声が, 今日の私には冷たく, 突き放すように聞こえる.

彼の顔には, 微かな焦りの色が見えた.

「ごめんなさい, ちょっと道が混んでて... 」

私は反射的に謝罪の言葉を口にした.

長年の習慣が, 私の口を動かす.

しかし, その言葉は, 口の中で砂を噛むようにざらついていた.

その時, 寝室のドアがゆっくりと開き, 幸世が姿を現した.

彼女は和也のTシャツをだらしなく着ていた.

肩から滑り落ちたTシャツの下から, ブラジャーの紐が覗く.

髪は乱れ, 顔は上気している.

まるで, 和也の家で一夜を過ごしたばかりのようだった.

いや, 文字通り, 一夜を過ごしたのだ.

私の知る, いつもの幸世ではない.

「あ, 瑞実さん... 」

幸世は気まずそうに, しかしどこか満足げに私を見た.

その目は, 朝帰りした友人に偶然出会ったかのような, 何の悪びれもない感情を宿していた.

「昨日は和也くんと, ちょっと話し込んでしまって. ごめんなさい」

彼女は弁明しようとしたが, 和也がそれを遮った.

「幸世は疲れているんだ. 今日はもう遅いから, うちで泊まってもらう」

和也の声には, 一切の反論を許さない響きがあった.

彼は私に背を向け, 幸世の肩に手を置いた.

まるで, 彼女を守るかのように.

私の喉の奥から, 言葉にならない声が込み上げてくる.

今夜, 私はどこで寝るの?

私たちの, 新婚の寝室は, もう幸世のものになってしまったのか.

和也は私の視線を避けるように, 再びキッチンに向き直る.

「瑞実はリビングのソファで寝てくれ. 幸世は疲れているんだ」

ソファ.

このマンションは, 和也と私, 二人の新生活のために選んだはずだった.

二人で家具を選び, 壁の色を決め, 未来を語り合った場所.

その未来は, 今, 幸世によって奪われようとしている.

私は呆然と立ち尽くした.

脳裏には, 和也と幸世のキスシーンが焼き付いている.

自分は今まで, 一体何を信じてきたのだろう.

10年間, 彼を愛し, 支えてきた日々は, 何だったのだろう.

ただの, 幸世の代役.

その言葉が, 耳の奥で, 何度も何度も反芻される.

その夜, 私はリビングの冷たいソファの上で, 一睡もできなかった.

寝室からは, 時折, 和也と幸世の笑い声が聞こえてくる.

その声が, 私の心臓をナイフでえぐるように痛めつけた.

涙は枯れ果て, ただ茫然と天井を見つめる.

この関係は, もう終わりだ.

そう何度心の中で呟いただろう.

しかし, 明日, 和也に何を言えばいい?

何と説明すれば, この10年間のすべてを終わらせることができるのだろう?

私たちがお互いにとって, 本当に終わりでいいのだろうか.

彼は, こんなにも簡単に, 私を捨て去ることができるのだろうか.

このまま別れて, 世間から「花嫁に逃げられた男」と嘲笑されるのは, 私の方ではないか.

私のプライドが, それを許さない.

私は, ただの代役として, 彼の人生から静かに消え去るわけにはいかない.

ソファの冷たい革が, 私の肌を凍えさせた.

この寒さも, この痛みも, すべて和也の裏切りの証拠だ.

彼への愛は, すでに憎しみに変わっていた.

私の心は, 冷たい氷の塊になっていた.

憎しみが, 私の内側で燃え盛る炎となり, 身体を内側から焼き尽くす.

私は, この炎を, 和也と幸世に返してやる.

彼らが, 私にしたように.

私は, 彼らを, 焼き尽くしてやる.

その決意は, 夜明け前の闇の中で, 静かに固まっていった.

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