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潔癖症の嘘、裏切りのキス の小説カバー

潔癖症の嘘、裏切りのキス

婚約者の和也と歩んだ十年間、瑞実は彼が口にする「潔癖症だから」という言葉を信じ、キスさえ拒まれる日々を耐えてきた。しかし、その献身は残酷な裏切りによって打ち砕かれる。ある夜、瑞実が目撃したのは、兄の元婚約者である幸世と激しく唇を重ねる和也の姿だった。彼は瑞実が高熱で苦しんでいる時も仕事と偽って幸世と旅行を楽しみ、あろうことか瑞実を解雇して、その秘書の座を幸世に明け渡したのだ。瑞実を大切にしたいという甘い囁きは、幸世の「代役」として繋ぎ止めるための卑劣な嘘に過ぎなかった。愛が深い絶望へと変わった時、瑞実の心には冷徹な復讐の炎が宿る。迎えた結婚式当日、主役であるはずの彼女は会場から姿を消した。代わりに披露宴のスクリーンに映し出されたのは、和也と幸世の不貞を暴く決定的な証拠動画だった。すべてを捧げた十年間を蹂躙した男に、瑞実は最大級の屈辱という報いを与える。逃げ場のない公開処刑によって、裏切り者の人生は音を立てて崩壊していく。
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瑞実 POV:

翌朝, 私は和也の前に立った.

心臓はどくどくと音を立て, 胃のあたりが締め付けられるように痛む.

しかし, 私の顔には, 昨夜の絶望を微塵も感じさせない, 平静な微笑みを貼り付けた.

「和也, 昨日のことなんだけど... 」

声が震えないよう, 細心の注意を払って言葉を選んだ.

私の期待は二つ.

一つは, 彼が昨日のことを心から悔い, 私に許しを請うこと.

もう一つは, 彼がはっきりと, 私との関係を終わらせようと告げること.

どちらにしても, この宙ぶらりんの状態を終わらせたかった.

和也はコーヒーカップを傾け, 私を一瞥した.

その目は冷たく, 何の感情も宿していないように見える.

「昨日のこと? 何かあったか? 」

彼はしらじらしく問い返した.

その言葉が, 私の心に冷たい水を浴びせる.

「幸世さんのことよ. 彼女がうちに泊まったこと」

私は努めて冷静に言った.

「ああ, それか. 幸世は兄さんの元婚約者だ. 家族みたいなもんだろ. お前も知ってるだろう? 」

和也は呆れたように肩をすくめた.

「何を今更, そんなことでヤキモチを焼いてるんだ? 」

彼の言葉は, 私の感情を幼稚なものだと切り捨てた.

ヤキモチ? 私が感じているのは, そんな生易しいものではない.

裏切り, 屈辱, 絶望, そして, 怒り.

「でも, キスしてたわ. 公園で」

私は, 喉の奥から絞り出すように言った.

和也の顔から, 一瞬にして血の気が引いた.

しかし, それも束の間.

彼はすぐに表情を取り繕い, 私を睨みつけた.

「まさか, そんなものを見てたのか? 盗撮でもしてたのか? 」

彼の声は怒りに震えている.

まるで私が悪者であるかのように.

私は反論しようと口を開いたが, 和也の言葉がそれを許さなかった.

「いい加減にしろ. お前は昔から, すぐに勝手な妄想をする癖がある. 俺が誰と会って, 何をしようが, お前には関係ないだろう」

彼の言葉は, まるで鋭いナイフのように私の心を突き刺した.

関係ない? 私は彼の婚約者だ.

関係ないはずがない.

私はただ, 呆然としていた.

自分だけが, 責められている.

すべて私が悪いかのように.

私の頭の中を, 過去の記憶が走馬灯のように駆け巡った.

和也はいつだって, 幸世を優先した.

私が風邪で寝込んだ日も, 彼は幸世の見舞いに行った.

私の誕生日も, 幸世の家族の用事を理由に, 彼はいつも遅れてやってきた.

そして, 彼は, 幸世をいつも「可哀想な人」と呼んだ.

亡くなった兄の影を背負い, 一生独身でいるつもりだ, と.

そんな幸世に, 彼はいつも同情し, 手を差し伸べた.

私は, 彼のその優しさを, 心の広い人間性だと信じていた.

しかし, 私のデスクの引き出しに隠されていた, 彼の古いアルバム.

そこに収められていた, 幸世との満面の笑みの写真の数々.

それは, 私が和也と出会う前の, 彼の学生時代のアルバムだった.

写真の中の和也は, 私が知っている彼よりもずっと, 生き生きとしていた.

そして, その横にはいつも幸世がいた.

私はその写真を見つけ, 和也に問い詰めたことがあった.

彼は言った. 「兄さんが幸世を愛していたから, 俺も幸世を家族として大切に思ってるだけだ. それ以上でも, それ以下でもない」

その言葉を, 私はあの時も信じていた.

だが, あの激しいキス.

あれは, 単なる家族愛ではなかった.

私は, 幸世の代役だったのだ.

兄の影に隠れ, 和也が本当は愛していた女性.

その影を追うために, 私が利用されていた.

10年間, 私は笑いものだった.

「ごめんなさい, 和也. 私が間違ってた. もう二度と, こんなことは言わないから」

気がつけば, 私は謝罪していた.

喉の奥から血の味がする.

私の心は, もう完全に打ち砕かれていた.

この関係を失うのが, ただ恐ろしかった.

私の人生は, 和也なしでは考えられなかった.

「分かればいいんだ」

和也は満足げに頷いた.

「幸世は, 兄さんの忘れ形見みたいなもんだからな. お前も, もう少し幸世に優しくしてやれ」

彼の言葉は, 私への赦しのように聞こえた.

そして, その夜, 和也は私をベッドに誘った.

私は彼の腕の中で, 自分を殺した.

体は繋がっているのに, 心は遠く離れていく.

私が彼にとって, ただの身体の相手でしかないことを, 私は痛いほど感じていた.

翌朝, 和也はまた出張だと言って, 幸世と連れ立って出かけた.

「幸世は, 俺の新しいプロジェクトの広報を手伝ってくれることになったんだ」

彼はそう言って, 私に微笑んだ.

その笑顔は, 偽りだらけだった.

私は, 彼が以前, 「お前の協力なしでは, このプロジェクトは成功しない」と言っていたことを思い出した.

彼の言葉は, 常に私を励まし, 私を支えにしていると語っていた.

しかし, 今, 私の代わりは幸世になった.

私の心は, 再び冷え切っていく.

幸世が, 和也の兄の元婚約者という立場を利用して, 和也の同情心を買っていることは明らかだった.

彼女は, 悲劇のヒロインを演じているだけだ.

そして, 和也はそれに乗せられている.

夜, 私はベッドの中で, 和也の背中に触れた.

彼はすぐに身を硬くした.

「疲れてるんだ」

そう言って, 彼は私から離れていった.

あの夜の情熱的なキスは, 私に向けられたものではなかった.

私はもう, 彼に必要とされていない.

その事実が, 鉛のように私の心にのしかかる.

私は一睡もできないまま, 夜が明けるのを待った.

そして, 夜が明けた時, 私の心は決まっていた.

この10年間の関係を, 終わらせる.

しかし, その決意は, 突然の高熱によって中断された.

体中が熱く, 頭がガンガンと痛む.

私はベッドの中で, 声を出すこともできずに震えていた.

和也に電話をかけた.

「もしもし, 和也... 私, 熱が... 」

「今, 大事な会議中だ. 後でかけ直す」

彼の声は冷たく, 電話はすぐに切られた.

彼は, 私の体調を心配するどころか, 不快感を露わにした.

私は, もう一度電話をかけた.

しかし, 今度は着信拒否された.

幸世のSNSを覗くと, 彼女は和也と出張先で楽しそうに食事をしている写真を投稿していた.

「和也くん, いつも気遣ってくれてありがとう. こんなに優しい人, 他にいないよね」

そのキャプションが, 私の心臓に止めを刺した.

私は, ベッドの中で, ただひたすら涙を流した.

もう, 和也には何も期待できない.

私の心は, 完全に死んだ.

終わりだ.

すべて, 終わりだ.

この関係を, 私自身の手で終わらせる.

だが, ただ終わらせるだけでは, 私の心が許さない.

私は, 彼がこれまで私にしたことの, 何倍もの報いを彼に与えるだろう.

復讐だ.

これが, 私の新しい人生の始まりだ.

和也, 覚悟しておきなさい.

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