
婚約破棄、偽りの愛と真実
章 2
勇輝の電話の向こうから聞こえる声. はっきりと心穂の声だと分かった. 私の心は, また一つ深く沈んだ. エントリー完了通知に記された日付が, 私の頭の中でフラッシュバックする. あの夜, 勇輝は心穂と一緒にいたのだ. 私がどれだけ彼に連絡しても繋がらなかった, あの夜.
私は最初から, この関係において「局外者」だった. 二人の間に, 私が入り込む余地などなかったのだ.
かつて, 私はこの結婚式をどれほど楽しみにしていたことだろう. 純白のウェディングドレス, 幸せな未来, 勇輝との新しい生活. それら全ての期待が, まるでシャボン玉のように儚く, 目の前で弾け飛んだ. 残ったのは, 冷たい空虚感だけだった.
突然, 携帯電話が振動した. 私の思考は中断される. 画面には, 尊敬する先輩の名前が表示されていた.
「静世, 今, 少し話せるか? 」
先輩の声は, いつもと同じく穏やかだった. 彼は, 私がかつて断った病院からのオファーについて話し始めた. 国際的な医療研究プロジェクトへの参加. 私の指導教授も, 私を高く評価していると, 先輩は付け加えた.
病院側は, 私に特別な条件を提示していた. 長期休暇や, 研究に集中できる環境. 私は, 過去に勇輝との結婚を優先し, この大きなチャンスを断っていた.
しかし, もう勇輝とは関係ない. 彼には, すでに心穂という「恩人」との間に新たな生命が宿っている. 私の結婚は, もう意味を持たない.
私は, 先輩の申し出を受け入れることに決めた. 特別な休暇は断り, 通常のプロジェクトとして参加することを要求した. 私の決意に, 先輩は驚きと喜びの声を上げた.
「静世, 君がそこまで覚悟を決めてくれるとは, 嬉しいよ! 」
私は, さらに言葉を続けた.
「私の仕事開始は, 結婚式の日からでお願いします」
先輩は一瞬, 沈黙した. 日めくりカレンダーに記された, 赤い丸で囲まれた「結婚式」の日付を見る. その日は, 私にとって, 勇輝との関係を完全に断ち切る「出発の日」となるのだ.
あと十五日. 十五日後には, 全てが終わる. 勇輝とも, 彼が私に与えた痛みとも, 完全に決別する. もう二度と, 彼と会うことはないだろう.
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