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婚約破棄、偽りの愛と真実 の小説カバー

婚約破棄、偽りの愛と真実

結婚式を目前に控えた静世は、20年間連れ添った婚約者・勇輝から残酷な要求を突きつけられる。彼は重い心臓病を患う幼馴染・心穂の「最後の夢」を叶えるため、店の看板レシピを譲ると宣言したのだ。さらに勇輝は、5年前の火災で自分を救った恩人である心穂に対し、静世に無断で人工授精まで行っていた。反対する静世を「恩義を理解しない」と責め立てる勇輝。そんな中、心穂は自ら転倒して静世に突き落とされたと偽装し、勇輝はその嘘を信じて静世に謝罪を強要する。長年彼を支え続けてきた自負は打ち砕かれ、自分は彼の人生において脇役にすらなれていなかった事実に絶望した静世の心は、完全に冷め切ってしまう。彼女は迷うことなく結婚式の全予定を白紙に戻した。そして、本来であれば二人で店をオープンさせるはずだった当日。静世は裏切りに満ちた過去をすべて捨て去るため、たった一人でパリへと旅立つ飛行機に乗り込んだ。もはや彼女の瞳に、かつての愛した男の面影は残っていなかった。
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3

勇輝は, その夜も帰ってこなかった. 私は彼に問い詰めることはしなかった. もう, 問いただす気力もなかった.

ソーシャルメディアを開けば, 彼の動向は一目瞭然だった. 心穂の投稿には, 勇輝と彼女が一緒に病院を訪れ, その後, 彼女の実家を訪れる写真が何枚もアップされていた. 勇輝は, 心穂の家族と親しげに談笑し, 私が今まで見たことのないような, 優しい笑顔を浮かべていた.

私の胸に, 鋭い痛みが走る. 勇輝が私の実家を訪れたのは, たった一度きり. その時も, 彼はどこかよそよそしく, 形式的な態度だった. 彼の家族に対する態度の違いに, 私の心は深く傷ついた. 苦い液体が喉の奥に込み上げてくるのを, 必死で飲み込んだ.

私は携帯電話の電源を切った. もう, 何も見たくなかった. 何も聞きたくなかった.

友人たちに, 結婚式をキャンセルしたことを伝えた. 彼らは皆, 驚きを隠せないようだった. 勇輝は, もともと結婚式に乗り気ではなかった. 私が何度も説得して, ようやく小規模な式を挙げることに同意してくれたのだ.

「静世, どうして? あんなに楽しみにしていたのに! 」

友人たちの心配そうな顔を見るたびに, 私の心は締め付けられた. 二十年もの間, 育んできた感情を簡単に手放せるわけがない. しかし, この関係は最初から不均衡だったのだ.

私はずっと, 彼の背中を追いかけてきた. しかし, 彼は一度たりとも私を振り返ることはなかった. いつか彼の心が私に向くと信じ, 自らを欺いてきた. しかし, 心穂の出現が, その幻想を打ち砕いた. 勇輝は, 皆に冷淡なのではない. 愛する者に対しては, とことん優しくなれる人間なのだ. ただ, その相手が私ではなかった, というだけのことだ.

私は, 彼の人生のメインキャストではなかった. 脇役でさえなく, ただの背景に過ぎなかったのかもしれない.

何よりも, 私を深く傷つけたのは, 彼が私に隠れて心穂と「人工授精」に踏み切ったことだった. この結婚に, もはや私たちの未来は存在しない. 私は友人たちに, 真実を語ることはしなかった. ただ, 「仕事で海外に行くから, しばらく連絡が取れなくなる」とだけ告げた.

友人たちとの別れを惜しむように, 私はその夜, 彼らと最後の時間を過ごした. 笑って, 飲んで, まるで何もなかったかのように.

私が家に戻ると, ちょうど勇輝も帰ってきたところだった.

「お前, 酒臭いな. こんな時間まで, どこで何をしていたんだ? 」

彼の声には, 嫌悪感が滲んでいた. 心穂を気遣っているのだろうか. 私は何も言わず, 黙ってシャワーを浴びに行った.

バスルームから出てくると, 勇輝はソファに座り, 携帯電話を眺めていた. 画面には心穂からのメッセージが表示され, 彼はそれを見て, 優しい笑顔を浮かべている. その光景が, 私の心をまた深く刺した.

「静世, 話がある」

勇輝が突然, そう言った. 私は息を飲んだ. 前回, 彼が「話がある」と言ったのは, 心穂と子供のことだった. また, 嫌な予感がした. 彼の口から, 次にどんな言葉が飛び出すのか, 私は恐ろしかった.

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