
裏切り夫へ、血染めの離婚届
章 3
永野凛歌菜 POV:
慎和の言葉に, 私の全身からは血の気が引いた. 彼は梓紗を抱き寄せ, 私の思い出が詰まったアトリエで, 私の作品を背景に, 私の座を奪おうとしている. 彼らの親密なやり取りは, 私の心を深く抉った.
私はドアの隙間から, 彼らがソファに倒れ込むのを目撃した. 彼らは互いの服を剥ぎ取り, 甘い言葉を囁き合っている. 私の心臓は, 鉛のように重く, 呼吸が苦しくなった.
その時, 梓紗の横顔が見えた. 彼女の首筋に, はっきりとキスマークが残っている. それを見た瞬間, 私は全てを悟った. 彼女は妊娠している. 慎和の子供を.
私の脳裏には, 慎和が私にプロポーズした時の光景が蘇った. あの時, 彼は私に「永遠の愛」を誓った. しかし, その誓いは, 今, このアトリエで, 梓紗によって踏みにじられている. 彼は, 私との思い出を, 梓紗との新しい思い出で上書きしようとしているのだ.
私は, その場に立ち尽くすことができなかった. これ以上, この背徳の光景を見続けることはできない. 私はゆっくりとドアから離れ, マンションを後にした. 私の目は, もう涙を流すこともできなかった.
私は, 行き場のないまま, 夜の街をさまよった. 雨が降り始め, 私の体を冷たく濡らしていく. 傘も差さずに歩き続ける私を, 誰も気にかける者はいなかった.
ふと顔を上げると, 目の前に見慣れたビルがそびえ立っていた. 慎和が経営するアパレルブランドの本社ビルだ. ビルの壁面には, 巨大なスクリーンが設置されており, そこには私たちの結婚式の映像が流れていた. 私は, その映像を目にして, 思わず立ち止まった.
スクリーンの中の私たちは, 幸せそうに微笑んでいた. 慎和は私を抱きしめ, 永遠の愛を誓っている. あの時の私たちの表情は, 偽りのないものだっただろう. しかし, その映像が, 今となっては私を嘲笑っているかのようだった.
その時, 私の携帯電話が震えた. 慎和からのメッセージだ.
「リカナ, どこにいるんだ? 心配しているんだ. 早く帰ってきてくれ」
彼のメッセージは, 私にはただの言い訳にしか聞こえなかった. 彼が心配しているのは, 私の安否ではなく, 自分の評判だけだ.
「もう, 遅いわ」
私はそう呟き, 慎和に返信した.
「心配? 今更, 何を言っているの? 私がアトリエで何をしていたか, 知っているでしょう? 」
私のメッセージは, 彼の心を抉るだろう. 数分後, 彼から返信があった.
「リカナ, 誤解だ. 梓紗とは, ただの仕事上の関係だ. 君が想像しているような関係じゃない」
彼の言葉は, 私にはただの嘘にしか聞こえなかった. 彼は, いつもそうやって私を欺いてきたのだ.
「嘘よ. あなたの嘘なんて, もう信じられない」
私はそう返信した. その時, 再び携帯電話が震えた. 今度は, 梓紗からのメッセージだ. そこには, 慎和と梓紗が親密そうに寄り添う写真が添付されていた. 梓紗は, 私を挑発するように, 満面の笑みを浮かべている.
「先輩, 慎和さんとラブラブよ. あなたなんか, もう邪魔なだけ」
梓紗のメッセージは, 私の心を深く抉った. 私は, 怒りで全身が震えた. 携帯電話を握りしめる手が, ガタガタと震えている.
「ふざけるな... ! 」
私はそう呟き, 雨の中で震え続けた. 私の心は, 完全に打ち砕かれていた.
「もう, 終わりだ... 」
私はそう呟き, 携帯電話を握りしめたまま, 雨の中で立ち尽くした.
深夜, 私は自宅へと戻った. 体は雨でずぶ濡れになり, 冷え切っていた. 頭がガンガンと痛み, 視界がぼやけている. 熱が出ているのだろう. 私は, もう何も考えられなかった.
部屋の中は, シンと静まり返っていた. 慎和はまだ帰ってきていない. 私は, ゆっくりとリビングへと足を踏み入れた. そこには, 私たち二人の思い出が, まるでゴミのように散乱していた.
私は, 震える手で, 私たちの結婚式の写真を手に取った. 画面の中の私たちは, 幸せそうに微笑んでいる. しかし, その笑顔は, 今となっては私を嘲笑っているかのようだった. 私は, その写真をゆっくりと破り捨てた.
次に手に取ったのは, 慎和が私に贈ってくれた婚約指輪だった. それは, 私たちの永遠の愛を誓う証だったはずだ. しかし, その指輪は, 今となっては私を縛り付ける鎖にしか見えなかった. 私は, その指輪を力強く握りしめ, 床に叩きつけた. ダイヤモンドが, 音を立てて砕け散る.
「全部, 嘘だったんだ... 」
私はそう呟き, 私たちの思い出の品々を, 次々と破壊していった. 結婚式のアルバム, 慎和からの手紙, 彼が私に贈ってくれたプレゼント... . 全ての思い出が, 私の手によって粉々に砕け散っていく.
私の心は, 完全に麻痺していた. 痛みも, 悲しみも, 何も感じない. ただ, 目の前のものを破壊していく. そうすることでしか, 私はこの苦しみから逃れることができなかったのだ.
婚紗を燃やし尽くし, 指輪を破壊し尽くした時, 私は力尽きてその場に倒れ込んだ. 体は限界を迎えていた. 私の心は, 完全に死んだのだ.
その時, リビングのドアが乱暴に開かれた.
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