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捨てられ女のガチャ婚相手は、極上胸筋の(偽)貧乏人でした。 の小説カバー

捨てられ女のガチャ婚相手は、極上胸筋の(偽)貧乏人でした。

入籍予定日に婚約者が他の女性と駆け落ちし、絶望の淵に立たされた伊藤結衣。彼女は役所の抽選システム「ブラインドマッチング」に運命を託し、出会ったばかりの運転手・神谷宗介と即日結婚を決意する。周囲からは、貧乏な男を選んだ結衣の将来を案じるふりをした嘲笑や、裏切った元婚約者からの勝手な非難が浴びせられた。しかし、結衣は夫の逞しい大胸筋を愛でながら、世間の冷ややかな視線を一蹴して幸せを噛み締める。そんな彼女を哀れむ声が止まない中、事態は急展開を迎える。会社主催のグローバルな式典において、スポットライトを浴びたのは、結衣が養ってきたはずの「貧乏な夫」だった。彼はステージ上で跪き、最高級のダイヤモンドを手に「ゲームは終わりだ、これからは私が君を養う」と宣言する。ネット上で話題を独占していた「世界一の富豪を射止めた幸運な妻」の正体は、他ならぬ結衣自身だったのだ。大逆転のシンデレラストーリーが今、幕を開ける。
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2

だが沙耶香は信じなかった。カップ麺を食べる割り箸すらないような自分に、そんな都合のいい運命が転がり込んでくるはずがない。

どうせ、同姓同名の別人だろう――そう思うことにした。

その頃、Z国最大のテクノロジー企業・星テクノロジーでは、社長藤原柊真の秘書が青ざめた顔でスマートフォンを握りしめ、社長室の扉を叩いていた。

「入れ」 低く、感情の読めない声が返った。

「社長……あの……さっき、婚姻マッチングの抽選で……社長が、ある女性に引き当てられてしまいまして……!」

秘書はおそるおそる言った。言葉がところどころ詰まった。

柊真が女嫌いであることは、社内では誰もが知っている。普段から、彼の一メートル以内に近づいた女性は、例外なく異動か退職に追い込まれてきた。

それなのに――今年も確かに、独身税はきちんと納めていた。本来なら、抽選対象から外れているはずだった。

(システムの不具合か……?)

柊真の険しい表情を見て、秘書は慌てて言った。「社長、すぐに先方へ連絡して対処します。きっとシステムの手違いです。今ならまだ間に合います!」

スマートフォンを操作しようとした、その瞬間。画面にトレンドが飛び込んできた。

【衝撃】極度の女性嫌いで知られる新興財閥の若きトップ・藤原柊真、一般女性に結婚相手として“当選”される!

秘書は息を呑み、身動きが取れなくなった。

柊真は険しい顔のまま、低く言った。「まずは、様子を見に行く」

ここ最近、柊真は一族から縁談を押しつけられ、息が詰まりそうになっていた。ついに業を煮やした彼は、身の程をわきまえない連中への牽制として、自らの名前を抽選プールに入れたのだ。

独身税さえ納めていれば、選ばれることはない。そう思っていた。

だが、まさか本当に女に引き当てられるとは。

幼い頃の事故が原因で、彼には奇妙な体質がついてまわるようになった。女性が近づくと、呼吸が乱れ、息苦しくなり、全身に蕁麻疹が出るのだ。

いまだに解決策は見つかっていない。

この件は、社内でもごく一部しか知らない極秘事項だった。万が一外部に漏れれば、成長期にある会社の株価は一気に暴落しかねない。

そのため柊真は、対外的には「極度の女嫌い」と公言していた。加えて、彼に近づいた女性がことごとく辞めさせられてきたこともあり、その噂はますます広まっていった。

だが、起きてしまったものは仕方がない。抽選結果を取り消すにも莫大な代償が必要で、下手をすれば会社の評判にも傷がつく。

柊真は、自ら市役所へ行って確認することにした。どうしても避けられないなら、相手と話し合い、形だけの契約結婚に持ち込むしかない。

秘書は顔をこわばらせながらも、覚悟を決めて頷いた。

やがて、一見すると控えめで、どれもまったく同じに見える黒塗りの高級車が十数台、道路を疾走していった。しかしその実、すべて特別改造が施され、防弾性能まで備えた、市場に出回ることのない代物ばかりだった。

一方、沙耶香は市役所の待合室で待ちくたびれていた。

そのとき、扉が開いた。

沙耶香の目がぱっと輝いた。ついに、これから夫になる男が現れたのだと思った。

ところが、入ってきたのは、ハゲた中年男だった。

沙耶香はがっかりすると同時に、ギョッとした。

まさか、未来の夫って、まだ二十二歳なのにこの見た目……?

男は厳しい顔で、冷たく名乗った。「伊藤さん、はじめまして。私は、あなたが抽選で引き当てたお相手――藤原柊真さんの婚約者、神谷彩音さんから依頼を受けた弁護士です」

「神谷さんはおっしゃっています。あなたが身の程をわきまえ、自ら藤原さんとの婚姻抽選の結果を辞退するのであれば、違約金の二千万円を肩代わりし、さらに慰謝料として二千万円をお支払いすると」

沙耶香は思ってもみなかった。適当に抽選で引いた男をめぐって、まさかドラマでよく見る「お金をあげるから、うちの息子から離れてちょうだい」みたいな展開になるとは。

彼女は思わず突っ込んだ。「その神谷さんって人が、本当に私の未来の夫の婚約者なら、どうして彼の名前が抽選システムに残ってるんですか? それに、神谷さんがお金を出せるくらいの人なら、お相手だってお金持ちなんですよね?お金持ちなのに独身税も払えなくて、抽選システムに載って、私みたいな一般人に引き当てられるなんてこと、あります?」

沙耶香は首を振り、苦笑した。あの彩音という女性は、恋にのぼせすぎて、冷静さを失っているのだろう。

そもそも、この制度が本当に“いいもの”だったら、整理券を取るだけでも大行列、裏口を使ってでも申し込みたい人であふれているはずだ。

それを、わざわざ強制する必要などない。

「私は冗談を言っているのではありません。あなたが引き当てたのは、あの藤原柊真さんです。 彼と神谷さんは家柄も才能も釣り合っている。あなたの入る隙間などどこにもありません」

「忠告しておきます。あなたのような一般家庭の女性が、藤原家に嫁げるなどと思わないことです。早いうちに諦めなさい。いくら払えば、抽選取り消しに応じるんですか?」

弁護士の口調は、次第に高圧的になっていった。

沙耶香も、そこで一気に腹が立った。「藤原さんがそんなにこの結婚を嫌がっているなら、ご本人が取り消しを申し出ればいいじゃないですか。どうして私がやらなきゃいけないんですか?」

抽選取り消しの申請には、重い代償が伴う。それをすれば、沙耶香は卒業証書を受け取れなくなり、就職先を見つけることもできなくなる。

あの神谷という女性は、たった二千万円で自分の未来を買い取ろうとしているのだ。冗談じゃない。

他人の都合で、自分の人生を棒に振るほど、沙耶香は馬鹿ではなかった。

「あなた……!」

弁護士は怒りで顔を赤くした。もし彩音がこの件を柊真本人に持ち込めるのなら、そもそも自分がここで仲介する必要などない。

「神谷さんがどなたか、ご存じないのですか? 国際的な賞まで受賞し、国に名誉をもたらしたピアニストですよ!あなたのような平凡な女性が、神谷さんと張り合えるとでも?」

沙耶香の胸の奥に、不快なものが広がった。

弁護士は彼女の表情が曇ったのを見て、勝ち誇ったように一枚の写真を取り出し、沙耶香の前に置いた。 「ご覧なさい。こちらが神谷さんです」

写真の中の女性を見た瞬間、沙耶香の表情がすっと冷えた。

――知っている。

十五歳のとき、沙耶香の前にある夫婦が現れた。自分たちが彼女の実の両親だと言った。

彼らはこうも言った。家にはすでに、あなたより百倍も優秀な姉がいる、と。

沙耶香が返事をするより先に、その夫婦は彼女を脅した。姉から何一つ奪ってはいけない。姉を傷つけるようなことは絶対に許さない、と。

沙耶香が神谷家に戻ることを許されたのは、神谷家の血を引く者を外に置いたままでは体裁が悪い、ただそれだけの理由だった。

そのとき、沙耶香は写真を見せられていた。そこに写っていた少女は――今、弁護士が差し出した写真の女性と、まったく同じ顔をしていた。

「ご実家の経済状況は、あまりよろしくないそうですね。神谷さんがひと言おっしゃれば、あなたの養父母など職を失うことに――」

「やってみなさいよ!」

「彼女にそんな真似をさせるものか」

男と女、二つの声が同時に響いた。

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