フォローする
共有
神になる の小説カバー

神になる

雲上の高みから転落し、卑しき奴隷の身へと零落したゼン。しかし、自らの肉体を武器として錬成するという数奇な転機を経て、彼の運命は激動の渦中へと投げ込まれる。神器に匹敵する強靭な身体と、何事にも屈しない不撓不屈の信念を武器に、彼は再び頂点へと這い上がるための歩みを始めた。各地の豪傑たちが覇権を巡ってしのぎを削り、一刻一刻と情勢が変転する乱世において、ゼンの出現は巨大な抗争の幕開けを告げる。あらゆる強敵をその身一つで圧倒し、打ち破ることを誓った彼が真に目覚めたとき、比類なき伝説が静かに、そして力強く動き出す。これは、過酷な境遇から這い上がり、己の力ですべてをねじ伏せていく男の軌跡を描いた壮大な冒険譚である。神のごとき躯を持つ彼が歩む道の先には、果たしてどのような結末が待ち受けているのか。周囲の思惑をよそに、ゼンはただ己の道を突き進んでいく。新たな時代の覇者となるべく、伝説の第一章が今ここに刻まれる。
共有

1

秋も終わりに近付いた日の朝、 夜明けが夜の闇を追うにつれ、太陽はひんやりとした空気を暖めていく。

まだ夜も明けきらぬ頃、ルオ家の地下室にある石油ランプに光が灯った。 その光の大半を遮り、ゼン・ルオという若い男がテーブルの前に姿勢よく座って、 静かに糸で綴じられた使い古された本を取り出した。

ゼン・ルオは、17歳になったばかりの痩せた、平均的な見た目の男だったが、 円熟した人間味を感じさせる何かを持っていた。 柔らかな見た目とは対照的に、その目は燦然とし、石油ランプの薄暗い光の中でさえ、魅力的に輝いていた。

「天論憲問を読み終わるのに1ヶ月も掛かった。  その論点は大体的を得ていて、とても勉強になったが、どうもその本が言う、仇を恩で報いるだけは、どうしても納得が行かない」と、石油ランプの中の、丁度豆くらいの大きさの炎を見つめながら呟き、 その顔にはもの悲しさが広がっていた。 「もし父さんがこの言葉を信じるほどのお人よしでなかったら、氏族の直系の子孫である僕もこのようにはならなかっただろう、そして父もまだ生きていたはず…」

「ガチャ」という地下室のドアのロックが解除される音で現実に引き戻されると、 ゼンは、自分に纏っていた憂鬱を隠し、代わりに厳粛な表情に変え、 それから、石油ランプを吹き消し、ぼろぼろの綿のキルトで身を覆った。

地下室のドアが開き、足音が近付き始め、 男が前に現れてゼンのベッドを踏みつけた後、「まだ寝てるのか? まだルオ家の若様気取りしてんのか?とっとと起きやがれ!」 と、金切り声で叫んだ。

その男はルオ家の執事で、 卑劣な顔をしていた。 額のイボが、人々の嫌悪感を掻き立てたのだ。

ゼンは上半身を起こし、わざと目をこすって、 キルトを押しのけてから、向きを変えて足を地面に付けた。 そして、静かに服を着替え、靴下と靴に足をを滑らせた。 それらの服は摩耗していたが、元々几帳面な性格だったゼンはできる限りの手入れ を怠らなかった。

執事の男はその様子を批判のこもった目であきれ返って眺め、手を振って合図を送った。 すると、何人かの男がゼンを取り囲み、無理矢理厚い革の鎧と手枷足枷を付けた。

それが終わると、ゼンは地下室を出てルオ家の武道館に向かう使用人達の後を歩いた。

ルオ家は数百の鉱山と数百万エーカーの肥沃な土地を所有していて、 C郡では大きく強力な一族として知られていた。

しかし、数え切れないほどの裕福な家族を含む数千の郡都市がある東部地域ではルオ家も一無名氏族にすぎなかった。

ゼンは何人かの男に付き添われながら暗い地下室から這い出た。 これがお馴染みの毎日の儀式だ。 武道館へ行くには、多数の東屋、橋や回廊を超えて行かなければならない。

武道館はひらけていて、 ルオ家の子供たちが修行に来る場所だった。 その入り口は雄ライオンと雌ライオンの白い大理石の彫刻で飾られていて、 地面は大きな黒い玄武岩の一枚板でできていた。 建物の入り口に立つだけで、中から発せられる力を感じることができる。

武道館の真ん中では、何十人ものルオ家の子供たちが先生の指導の下で武道の特訓を受けており、 皆揃いの灰色のローブを着ていた。

輪になっている子供たちの間で、掛け声が何度も何度も響いた。

この子供たちは皆10代程度の若さでありながら、家族の中で地位を獲得するために、皆熱心に勉強し、 武道にも励まなくてはならなかった。

この晩秋の日、道場に訪れる骨の髄を刺すような冷たい風に吹き晒されていた にもかかわらず、訓練中の子供たちは額に汗をかき、 更にその頭の周りに漂う熱気を冷たい風と接触され、蒸し暑い白い霧を頭頂に纏わせる者までいる。

武道館の反対側には、ゼンと同じように革の鎧と手枷足枷を身に着けた十数人の男性が立っていて、 皆一様に意気消沈して全身に出血や怪我を負っていた。

ゼンは武道ホールに案内されると、 用心棒どもに負傷した男の中に入れられた。

これらの男のほとんどは地元の刑務所からルオ家によって買いだされた死刑囚であり、事実上ルオ家の奴隷だった。 これらの奴隷は、ルオ家の子供たちが鍛えるための、訓練を実戦に移す時の生きたサンドバッグとしてこき使われている。 子供たちは、これらの奴隷をまさしくサンドバッグのように好き勝手に攻撃することができるので、 その暴行によって、殺されたり、廃疾者にされた奴隷は後を絶たず、 今となっては、道場で命を落とした人の数を数えることさえ不可能だった。

ゼンは死刑囚ではなく、一族に買収されたわけでもなかった。 元々、彼はルオ家の嫡流長男であり、 一族のものに若様と呼ばれるような気高き存在だった。 その高貴なご身分から、従兄弟からは会うたびに辞儀されるように敬われ、 叔父叔母といった家族の年長者でさえ彼には礼儀正しかった。

しかし、2年前にC郡で悲劇が起こり、 ルオ家当主であったゼンの父は、兄弟の手によって毒殺され、 その場で亡くなった。

その直後、ルオ家は他の3つの分家により支配された だけでなく、 ゼンの父親を反逆罪に問う訴訟まで起こした。 主を失ったゼンの家族は勝訴することができず、ついに宗家はすべての力を失ってしまった。

若様と呼ばれたゼンも無事でいられるはずもなく、父と同様に反逆者と呼ばれ、ルオ家の奴隷にされ、 今や道具に成り下がり、武道の練習の一環として、ルオ家の子供たちの気の向くままに殴られていた。

奴隷にされたこの二年間、ゼンが 耐えた拳と侮辱は数え切れなかった。

「今日の打ち合いの練習はこれで終わり。 さあ皆さん、次の練習のために奴隷を選びましょう! 生の人体を叩くことによって、身に着けた戦闘スキルへの理解を深め、人体の弱点や実際の身体の構造に慣れることができます!」

先生が話し終えた後、子供たちは奴隷を選び始め、 間もなく、奴隷たちの命乞いをする声が道場に響き渡った。 ルオ家の子供たちは奴隷を人間としてではなく肉のように打てと訓練されていたので、 殴る時はためらいも容赦もなかった。

そして彼らの多くは我先にゼンを見つけようとした。 なぜなら元嫡流の若様をボコボコに打ち負かすという行為は、大きな達成感を得られるからだ!

サンドバッグとして使用されながらも、ゼンは落ち着いて急所を突かせなかった。 何せ二年もやられてきて、今ではだいぶ相手の動きに慣れているのだ。

やがて、武道館の入り口から、 きれいな服を着た若い男に連れられた新参者数人がやって来た。

「若旦那がいらしたぞ!」

「若旦那、やっと練習を終えられたのですか? いやぁ、実にすっきりしたお顔をされてますな。 また更にお強くなられたに違いありません!」

「多才なルオ家の血筋からお生まれになった 聡明でいらっしゃる若旦那のことですから、 きっとどんどん強くなられて、もう凡人の域は遥かに超えていらっしゃるに違いございやせん!」

若旦那が道場にいるのに気が付いた子供たちも練習をやめ、おべっかを使い始め、 わざわざ近付いて行って、へこへこと歯の浮くような賞賛を浴びせる者もいた。 その場にいた誰もが若旦那に媚びへつらいたいのは明らかだった。

ゼンの目はその若い男に向けられ、その目には静かな怒りが立ち上っていた。 ルオ家の子供たちから若旦那と呼ばれている若い男は、ペリン・ルオ。 彼はゼンの父親が長弟即ち今のルオ家当主の長男で、 ゼンとは同い年である。

奴隷に追いやられたゼンの代わりに、ペリンがルオ家の嫡男に成り上がったわけだ。

ゼンは、ペリンが少し前に修行のために長い間姿を消し、人里離れた場所に滞在していたと伝え聞いて いた。 そのかいあって、かなり強くなって戻ってきたようだ。

さすが武道家なだけあって、ペリンいとこの憎しみに満ちた視線を敏感に感じ、ゼンの方を向き、 そして、彼に向かってまっすぐ歩いて行き笑いながら、「ゼン、私は結構長い間修行していたつもりだが、 まさかまたお前のが生きている姿が見られるとは、思ってもいなかった」と、言った。

「お気遣いどうも。 どうやらまだ死に時じゃないようでな」 ゼンはくぐもった声で答えた。

「おい!若旦那に向かって その口の利き方はなんだ! 口を慎め!」

「お前はここではただの奴隷だ。ひざまずけ! すぐに地面にひれ伏して、若旦那に謝罪しろ。さもなければ、生きていることを後悔するさせてやる」

ルオ家の子供たちは、口をそろえ、ゼンが彼らに非常に許されないことをしたかの如く叫んだ。

ゼンは冷めた目でに周りを見回した。 ここにいる人々は、少し前まで彼の前で小さな犬のようにしっぽを振り、 若様だった彼への恐怖心から、あまり大きく息をすることさえできなかった。 だが、ひとたび力を失うと彼らの態度は 一夜にして豹変し、 今となっては、すっかりペリン・ルオの犬になっていたのだ。

ペリンは手を上げて、彼を必死に庇うのに奮起したルオ家の子供たちを制止し、 意気揚々と笑顔でゼンに話しかけた。「ゼン、なぜ俺が修行に出かけたのか分かるか?」

ゼンは無言を貫き、 ペリンを無表情に見た。

おすすめの作品

100年越しの月下美人 の小説カバー
8.2
古くから続く陰陽師の名門に生まれた御子柴聖は、幼少期から類いまれなる才覚を発揮し、一族の期待を一身に背負っていた。しかし七歳の頃、伝説の大妖怪・八岐大蛇が一家を襲撃。一族は無残に惨殺され、聖自身も右脚を失うという悲劇に見舞われる。さらに彼女の身には、持ち主の命を糧として吸い尽くす「月下美人の呪い」が刻まれてしまった。絶望の淵に立たされながらも、聖は生き延びるために過酷な運命と対峙し続ける。惨劇から十年の月日が流れ、十七歳へと成長した彼女は、自らの命を蝕む呪縛を解き放つため、そして一族の仇を討つために、再び立ち上がることを決意する。彼女の前に立ちはだかるのは、闇夜を跋扈する恐るべき百鬼夜行の軍勢。失われた右脚と呪いの痛みを抱えながら、聖は凄絶な戦いの中へと身を投じていく。死と隣り合わせの激闘を繰り広げる彼女を待ち受けているのは、果たして救済か、それともさらなる絶望か。命を削る月下美人が咲き誇る時、宿命の歯車が大きく動き出す。
ゴミと捨てられた80歳の祖母、実は世界最強のプリンセス。 の小説カバー
7.9
猛吹雪が吹き荒れる聖夜、私と祖母は血の繋がった叔父の手によって、まるで不要なゴミのように極寒の屋外へ放り出された。叔母からは忌まわしい疫病神と罵声を浴びせられ、叔父の容赦ない暴行に私はなすすべもなく雪原に倒れ込む。次第に体温を失っていく祖母の体を必死に抱きしめ、手のひらに爪が食い込むほどの絶望の中で死を覚悟したその時、突如として強烈な光が闇を貫いた。貧民街の路地を封鎖するように現れたのは、外交官ナンバーを掲げた高級車ロールスロイスの車列だった。周囲が騒然とする中、車から降り立った老執事は、四十年間も「盲目の老人」として静かに暮らしてきたはずの私の祖母のもとへ歩み寄る。そして、敬意を込めてその場に跪くと、信じがたい言葉を口にした。「高貴なる一族の第一公女殿下、お迎えに上がりました」。捨てられたはずの祖母の正体は、世界を揺るがすほどの影響力を持つ最強のプリンセスだったのだ。最底辺の淵から、運命の歯車が音を立てて逆転し始める。
旦那様、奥様はまた手が付けられません の小説カバー
7.8
国家が最高傑作として育て上げた天才少女・藤原涼音。並外れた武力と自由奔放な魂を持つ彼女だが、幼くして両親を亡くし、双子の妹と過酷な境遇を生き抜いてきた過去があった。七年間の任務を終え、ようやく妹の待つ家へ帰還した涼音。しかし、そこで目にしたのは、両親の遺産を食い潰し、妹を犬小屋に閉じ込め虐待する非道な叔母の姿だった。怒りに燃える涼音は、電光石火の手腕で叔母の会社を崩壊させ、妹の代わりに潜入した学園ではいじめっ子を完膚なきまでに叩きのめす。正体を隠し「ただの一般人」を自称する彼女だが、名家や国家機関が次々と彼女を唯一無二の存在として認め、世間を震撼させていく。そんな彼女の傍らには、冷酷無情と恐れられる権力者・北村凌也の姿があった。戦場ですら動じない彼が、涼音の前では独占欲を露わにし、甘く囁きかける。「俺にも少しは構ってくれ」。当初は利害の一致による同盟関係だったはずの二人の絆は、動乱の中で次第に熱を帯びていく。最強の少女が愛と復讐のために突き進む、痛快でドラマチックな現代アクションロマンス。
二度目の人生、姉の踏み台にはならない の小説カバー
8.8
実家の破産をきっかけに、私は姉の学費を捻出するため芸能界へと身を投じた。過酷な接待や不本意な仕事に耐え、心身を削りながら金を稼ぐ日々。しかし、清廉潔白を装う姉は、私の献身を「名誉欲に駆られた卑しい行為」と蔑み、私が苦労して得た金を他人の支援に充てて善人面をした。姉を画壇の寵児にするため、私は泥を被りライバルの醜聞を暴いたが、彼女はその恩恵を享受しながらも私を「心根の腐った人間」と非難し続けた。やがて私は姉の宿敵から報復を受け、全てを失い巨額の負債を抱える。絶望の中で姉に助けを求めたが、彼女は「自業自得の報いだ」と冷酷に突き放した。姉の踏み台として利用され、絶望の果てにビルから身を投げた私。だが、目を覚ますとそこは芸能界に入ったばかりの過去だった。自分を犠牲にしてまで姉を支える道はもう選ばない。二度目の人生、私は自分の尊厳を守り、偽善に満ちた姉に依存される未来を拒絶することを誓う。今度こそ、私は私自身のために生きる。
伝説の魔導師 の小説カバー
8.0
かつて実の兄弟も同然の深い絆で結ばれていた二人の男、リキとネイト。分かちがたい友情を育んでいたはずの彼らの関係は、時の流れとともに無残にも崩れ去ってしまった。かつては若き天才マスターとして周囲から嘱望されていたリキだったが、今やその面影はなく、荒々しく乱暴な男へと変貌を遂げている。彼をここまで追い込み、変えさせてしまった元凶は、かつての友であるネイトに他ならなかった。ナン家の正当な後継者として育てられ、権力を手にしたネイトは、あろうことかリキを赤の他人のように冷遇し、突き放したのである。裏切りと絶望の淵に立たされたリキの心に宿るのは、燃え盛るような復讐の炎だけだった。「父上、必ずやあなたの仇を討ち、奪われた私たちのすべてを奪還してみせます」。失われた誇りと正義を取り戻すため、リキはかつての友を討つべく過酷な戦いへと身を投じていく。血よりも濃い絆が憎しみへと変わったとき、運命の歯車が大きく動き出す。家族の絆や宗族への愛を「馬鹿げている」と切り捨てる彼らの行き着く先にあるのは、栄光か、それとも破滅か。復讐にすべてを賭けた男の壮絶な物語が幕を開ける。
瓦礫の下で、夫は私を見捨てた。 の小説カバー
9.7
病院崩壊という極限状態の中、院長である夫は元恋人を優先し、妊娠中の妻を瓦礫の下に見捨てた。右手の自由と愛する我が子を失った彼女に対し、夫はさらなる追い打ちをかけるように濡れ衣を着せ、無一文で追放する。絶望を抱え出国した彼女だったが、三年後、世界的な神経再生医療の権威として劇的な帰還を果たした。左手で仇を討ち、再生した右手で神技を振るう復讐劇が幕を開ける。隠蔽の告発や愛人の失脚、そして元夫を襲う全身不随の悲劇。徹底的な制裁という名の地獄を突きつけた末、彼女は最高の伴侶と結ばれ、光り輝く未来を掴み取る。一方、全てを失った元夫は、孤独な病室で誰にも看取られることなく、静かに朽ち果てていくのだった。