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十年間の愛と犠牲の果てに の小説カバー

十年間の愛と犠牲の果てに

恋人である海斗の夢を叶えるため、私は十年間という歳月を捧げ、自分を犠牲にして尽くし続けてきた。しかし、記念日という大切な日に彼は三時間も私を放置した挙句、別の女性のパニック発作を理由に約束を反故にする。その裏で彼がSNSに投稿していたのは、その女性と贅沢なスパを満喫する姿だった。さらに追い打ちをかけたのは、かつて海斗に「古臭い」と否定された私の和菓子が、彼女のオリジナル作品として発表されていた事実だ。海斗は私のパンアレルギーすら把握していないのに、彼女の嘘には過剰なまでの献身を見せる。私の愛も才能も、彼らにとっては都合よく利用するだけの道具に過ぎなかったのだ。絶望の淵でようやく目が覚めた私は、翌朝、彼女のもとへ向かう彼を静かに見送った。長年過ごした部屋から荷物を運び出し、思い出が詰まったスマホのSIMカードを真っ二つに折る。これは、十年間の献身を裏切った男に、私という存在の重さを教え込むための静かなる決別の記録。過去をすべてゴミ箱に捨て去り、私は新たな人生と復讐の一歩を踏み出す。
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桜田莉穂 POV:

電話が繋がったのは, その日の夕方だった.

私の知らない番号からだ.

「もしもし」

出ると, 聞き覚えのある甘ったるい声がした.

小沼結乃だった.

「莉穂さん, ごめんなさい. 海斗さん, 私がパニック発作を起こしちゃったから, どうしても離れられなくて…」

彼女の声は震えていた.

でも, その震えの中に, 微かな高揚感が混じっているように感じた.

私の被害妄想だろうか.

「大丈夫よ」

私は, 自分でも驚くほど冷静に答えた.

もう, 感情の揺らぎさえ感じない.

「海斗さん, 本当に心配してくれて…私, こんなに愛されてるんだなって…」

彼女の言葉は, 私への遠回しの挑発だった.

私の心臓が, まるでガラスのように, ひび割れていくのが分かった.

「あのね, 莉穂さん. 私たち, いつかきっと, ちゃんと話せる時が来るから. その時は, 海斗さんも交えて, 仲直りしましょうね」

いつか.

その「いつか」は, きっと永遠に来ない.

私は, その言葉に何も返さなかった.

ただ, 彼女の背後から聞こえる, 高そうなスパの心地よい音楽と, 海斗の笑い声に耳を澄ませた.

ああ, やはり.

パニック発作, ね.

「莉穂, お前, 何を言ってるんだ? そんなに怒ってんのか? 」

突如, 海斗の声が電話口に響いた.

結乃から電話を奪ったのだろう.

彼は, 私が結乃の言葉に傷ついていることを知ってか知らずか, 私を責める言葉を続けた.

「お前は本当に優しいから, 結乃の言葉にまた傷ついたんだろ. お前は少し, 純粋すぎるんだよ」

彼の言葉は, 私を褒めているようで, 実は私を子供扱いしているようだった.

そして, 彼の言葉は続いた.

「結乃は本当に体が弱いんだ. お前みたいに丈夫じゃない」

彼の「お前みたいに丈夫じゃない」という言葉が, 私の耳に刺さった.

私は, 彼が以前, 私の体調が悪い時に言った言葉を思い出す.

「少し休めば治るだろ. 大袈裟だな」

あの時の彼は, 私に冷たかったのに.

結乃には, こんなにも優しい.

「今日の契約のことだけど, また後日, 改めて設定するから. 落ち着いてくれ」

彼はそう言って, 私がまだ怒っていると決めつけていた.

私が本当に怒っているのは, 契約が延期になったことじゃない.

彼が, 私に対して嘘をつき, 私を蔑ろにしたことだ.

もう, 彼の意図がはっきりと理解できた.

彼は, 私を軽んじ, 結乃を選んだのだ.

これは, 彼の間違いではない.

彼の選択だ.

そして, 私には, その選択を受け入れる準備ができている.

私は, 彼の言葉に何も返さなかった.

ただ, 静かに, 通話を終了するボタンを押した.

「莉穂? おい, 莉穂! 」

彼は, 私が冷静であることに驚いたのだろうか.

再び電話をかけてきた.

彼の声は, 先ほどよりも柔らかくなっていた.

「本当にごめん. 俺が悪かった. でも, お前も分かってるだろ, 俺にはお前が必要なんだ」

彼はそう言って, また, 私を甘い言葉で釣ろうとした.

私は, 黙って電話を切った.

視線を上げた先にあるのは, リビングと寝室を隔てる, すりガラスの引き戸だった.

まるで, 私たちの関係そのもののように, お互いの存在は感じられるのに, はっきりと見通すことはできない.

私は, 左手の薬指にはめていた, 彼との記念の指輪に目を落とす.

もう, この指輪は必要ない.

私は, 指輪をそっと引き抜き, 台所のゴミ箱に, 音もなく捨てた.

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