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10年愛の果て、私の決別 の小説カバー

10年愛の果て、私の決別

婚約者の藤尾真一に尽くし続けた10年間。心歌栄はキャリアも夢も、家族との縁さえも断ち切って彼を支えてきた。しかし、真一の傍らにはいつの間にか秘書の茅野花子が寄り添うようになり、心歌栄の誕生日は無視され、節目の10周年記念ディナーさえも放置されてしまう。高級レストランで独り、虚しく二時間を過ごした彼女は、ついに父へ電話をかけ「彼以外なら誰でもいい」と新たな縁談を懇願した。その直後、背後から真一が現れるが、彼はキッチンで声を上げた秘書を優先し、心歌栄を置き去りにして去っていく。その背中に絶望した彼女は、婚約指輪を突き返し、父が提示した大倉健一との結婚を決意した。「もう終わりよ」と別れの言葉を告げ、彼女は空港から新たな空へと飛び立つ。これは、献身の果てに裏切られた女性が、自らの人生と尊厳を取り戻すために過去を捨て去る決別の物語である。二度と彼の元へは戻らない。心歌栄の新しい歩みが、今ここから始まる。
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柏崎心歌栄 POV:

私の言葉が電話のスピーカーから漏れた瞬間, 背後から冷たい声が響いた.

「誰と, 婚約を破棄するつもりだ, 心歌栄? 」

その声に, 私の心臓は凍りついた. 藤尾真一だった. 彼はそこに立っていた. 一体いつから? そして, 私の言葉をどこまで聞いていたのだろう? 彼の目はまるで深淵のように暗く, 私を射抜くような視線が向けられていた.

私が言葉を失っている間に, 真一は私の腕を掴もうと一歩踏み出した. 彼の指が私の肌に触れる寸前, キッチンの奥から甲高い悲鳴が響き渡った.

「きゃああああ! 」

その声は, 茅野花子のものだった. 真一は私から一瞬で意識をそらし, 悲鳴のする方へと顔を向けた. 花子が, 片方の手を抑え, 泣きながらキッチンの入り口に立っていた. 彼女の白いブラウスには, 赤いワインの染みが広がっている.

「ごめんなさい, 私, 本当に不器用で... . こんな私, 真一さんの専属秘書にはふさわしくないですよね... 」

花子は震える声でそう言い, 涙をポロポロとこぼした. その姿は, まるで怯えた小動物のようだ. 真一は私を完全に忘れ去り, 迷うことなく花子のもとへ駆け寄った. 彼は花子を優しく抱き上げ, その小さな体を腕の中に閉じ込めた.

「大丈夫だよ, 花子. 君は何も悪くない」真一の声は, 私に向けられることのなかった柔らかな響きを持っていた. 「君は僕の専属秘書だ. これからもずっと, 君しかいない」

その言葉は, 私の心臓を深く抉る刃のように鋭かった. 彼は花子に, 私に与えることのなかった安心と愛情を与えていた. 真一は花子を抱きかかえたまま, 私を一瞥することもなく, その場を立ち去った. 彼の背中は, 私にとって初めて見るほど遠く, そして冷たかった.

花子の傷なんて, かすり傷にもならない程度のものだった. 私も料理中に何度か経験したことがある. 少し火傷したか, 指を切ったか. そんな些細なことで, 真一は私にこんなにも感情を露わにしたことはなかった. 私は彼の背中が完全に視界から消えるまで, ただ立ち尽くしていた. 言葉は喉の奥にへばりつき, 何も言えなかった.

真一がいなくなってから, 私はスマートフォンを取り出した. 友人たちに電話をかけ, 別れを告げた. 彼らは私が真一との婚約生活を始めるために, 実家を飛び出して以来, ずっと私を支え続けてくれた, 私の唯一の支えだった. 真一の会社がまだ小さかった頃, 私が彼らを紹介して以来, 彼らは真一の会社にも貢献してくれた. 私の友人たちは, 私がどれほど真一を愛し, 彼のために全てを捧げてきたかを知っている.

「心歌栄, まさか真一さんとついに結婚するの! ? 」友人の一人が興奮した声で言った. 「私たち, ずっと待ってたのよ! おめでとう! 」

私は苦笑した. この十年, 友人たちはいつも冗談めかして, 私と真一がいつ結婚するのかと尋ねてきた. 十年経っても, 状況は変わっていなかったのだ.

「違うの」私は疲れた声で言った. 「私, 別の男性と結婚するわ」

電話口の向こうで, 友人たちの声が途切れた. 沈黙が流れ, そして困惑した声が聞こえてきた.

「え? どういうこと? 真一さんはどうしたの? 」別の友人が尋ねた. 「彼の会社, 今すごく勢いがあるんでしょ? 心歌栄もずっと彼のそばにいたじゃない」

私は感情の変質と, 私がどれだけ長い間真一に尽くしてきたかを, 言葉を選びながら説明した. 私の声は, まるで使い古されたレコードのように, 擦れて聞こえた. 私は真一の冷たい態度, 花子との出来事を話した. 私が語り終えると, 友人たちは皆, 言葉を失っていた. 彼らは真一を擁護することなく, ただ黙って私の話を聞いていた.

「分かったわ, 心歌栄. あなたが決めたことなら, 私たちも応援する」友人の一人が, 静かにそう言った.

電話を切ると, 私はすぐに荷造りを始めた. 真一から贈られた高価な品々は, 全て売り払うか寄付することにした. 宝石, ブランドバッグ, 高価なアート作品. それら一つ一つに, 真一の影がまとわりついていた. 私はそれらを一つ残らず手放すことで, 過去との決別を図ろうとした.

持ち出せないものは, 写真に撮って友人たちに送った. 「もし気に入ったものがあったら, 持って行って構わないわ」とメッセージを添えて. 彼らはすぐに返事をくれた. 「心歌栄, 気にするな! あなたは私たちの親友だ. 必要なものがあったら, 遠慮なく言うんだ」

荷造りが終わった時, ちょうど真一が花子を抱えて部屋に戻ってきた. 花子は真一の腕の中で, 私を見て得意げに微笑んだ. その視線は, まるで私の敗北を嘲笑うかのようだった. 私は彼ら二人の前を, 顔色一つ変えずに通り過ぎた.

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