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 箱入り姫は悪役にはなりたくない。 の小説カバー

箱入り姫は悪役にはなりたくない。

大国の王女アデリアは、後宮の奥深くで軟禁同然の生活を送り、部屋から出ることも許されずに育ってきた。孤独な日々を慰めるのは、趣味の読書。しかし、ある恋愛小説を読んだ彼女は、自分の立ち位置が物語の「悪役令嬢」そのものであると気づいてしまう。運命に抗い、悲惨な結末を回避したいと願うアデリア。そんな折、彼女に政略結婚の話が舞い込む。相手は他国の王子だが、彼にはすでに本国に愛する恋人がいるという。アデリアには二人の仲を裂く意志など毛頭ないが、絶対的な権力を持つ父王の命令に背くこともできない。愛し合う恋人たちの間に割って入る形になれば、自分は間違いなく悪役の道を歩むことになる。破滅の未来を避けるため、そして自分自身の幸せを掴み取るために、箱入りの姫は知恵を絞り、自らの運命を変えようと動き出す。果たして彼女は、悪役になることなく平穏な人生を手に入れられるのか。不自由な環境で生きてきた王女による、未来を切り拓くための孤独な奮闘が幕を開ける。
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ラヴァール王国。

 地球によく似た地球ではないその星にはいくつか大陸があった。その中の一番大きな大陸の半分以上を領地に持つ巨大なその国は王政で国王が治めている。王の権力は絶対だ。今の国王は暴君と呼ぶほど横暴ではない。たが、自分に刃向かう相手には容赦なかった。

 そんな国王の下、ラヴァール王国は繁栄していた。

 時代的には産業革命前の中世ヨーロッパのような雰囲気だ。火薬が一般的ではなく、剣が力を持っている。武力とは人数の差が大きかった。

 王国の宮殿はとても大きい。その大広間が人で賑わっていた。

 国賓を招いたパーティが年に数回、行われている。いつもはがらんとだだっ広いだけの空間に今日は貴族達がひしめき合っていた。

 普段はパーティには呼ばれないアデリアも参加が義務づけられている。参加している人数はかなり多かった。

 あちこちで、社交という名の人脈作りが行われている。数人で集まって、こそこそと話をしていた。

 だがその輪のどれにもアデリアは入らない。

(皆さん、熱心ですこと)

 心の中で小さく笑った。自分には関係がない。たいして関心もなかった。

 アデリアはこの国に姫として生れた。 

 王子も姫も王にはたくさんいる。アデリアは15、6番目くらいに生まれた姫だ。15番目なのか16番目なのかは聞く人によって答えが違うのではっきりしない。そのくらい姫はたくさんいた。アデリアの下にもまだ弟や妹が居る。

 それらは全て異母兄弟だ。その兄弟姉妹とアデリアはほとんど顔を合わせたことがない。他の兄弟は皆一緒に育てられているが、アデリアは1人だけ後宮の奥で隔離されていた。書斎に寝室、風呂とトイレ。ホテルのスウィートルームを少しこじんまりさせたくらいのスペースがアデリアの世界の全てだ。普段はその部屋にほぼ軟禁状態で暮らしている。勝手に部屋から出ることは禁じられていた。

 だが、国賓が来るパーティにだけは引っ張り出される。大人というのは本当に勝手だとアデリアは思った。

 国賓のためのパーティは12歳以上の兄弟は強制的に参加することになっている。兄弟姉妹はたくさんいるのだから一人くらいいなくてもわからないだろうと思うが、そういう問題ではないらしい。アデリアも必ず引っ張り出された。

 16歳のアデリアはあと2年くらいの間に、どこかへ嫁ぐことになるだろう。政略結婚の駒として政治に利用されるのが姫としての本分だ。国賓のためのパーティに引っ張り出されるのは、その時のための顔見せかもしれないとも心密かにアデリアは考えている。

 人ごみをさけ、アデリアは壁際にいた。部屋から出ることを禁じられているアデリアは人ごみが得意ではない。大勢の人の囲まれるのは苦手だ。人の注目を浴びるのも好きではない。だが、アデリアはどこにいても人の視線を集めた。この国では珍しい黒髪に黒い瞳は目立つ。だがアデリアが軟禁状態で他者との接触を禁じられていることも誰もが知っていた。だから、目立っても近寄ってくる人間は基本的にいない。

 アデリアは壁に凭れ、手にしたグラスに入った果実のジュースを口に運んだ。社交に勤しむ人々を他人事のように眺める。

 この国の人の髪色はたいてい明るい。瞳も青か緑がメジャーだ。黒髪に黒い瞳は海を渡った異国から嫁いできた王妃の国の特徴で、王妃と彼女が自国から連れてきた侍女の数人しかこの国にはいない。母は王妃の侍女だとアデリアは聞いていた。生まれて直ぐに引き離されたので、母の顔をアデリアは知らない。肖像画みたいなものもないので知る術がなかった。今、その人はこの国にはいない。

 それは特別なことではなかった。国王の子供を産んだ女はもれなく、国に帰される。王妃以外、例外は1人もいない。

 国王には多くの女性が献上された。国王の寵愛を受ければ恩恵は大きい。国王は献上された女は断わらなかった。ただし、愛しはしない。義務のように子供を作り、無事に生れたら役目は終わったと言わんばかりに持参金を持たせて女を国に帰した。生まれた子供は国に残す。全ての子供は王妃の元で育てられた。そこはまるで孤児院のようになっている。年が近しい大勢の子供が王妃を母として育っていた。それがわかっていても、国王に女を献上する国は後を絶たない。国王と親族になれるのは美味しかった。自分たちの血を引く子供が次の王になる可能性だってある。

 だが、その考えは甘いとアデリアは思っていた。

 全ての子が王妃を母として育っているのには理由がある。どの子も母として王妃を慕っていた。産みの母に対する思慕はほぼないだろう。そうなるように、国王夫妻は子供達を育てていた。生みの母やその国に融通を利かせるような子はほぼいないだろう。いたとしても、その子は王位継承からは確実に外される。

 それに父は親族になったからといって手加減するような人ではない。子供達にさえ優しい言葉は滅多にかけない人だ。そういうのは王妃の担当だと役割分担が決まっている。

 アデリアはとても冷静に父王夫妻のことを分析していた。

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