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君は強くなれる。僕は、 の小説カバー

君は強くなれる。僕は、

地味で目立たないブラスバンド部の少女から、定期演奏会の記録映像と録音を手伝ってほしいと頼まれた「僕」。陰キャで眼鏡をかけた内気な少年である僕は、戸惑いながらも彼女の依頼を引き受けることにした。協力が始まると、彼女は自分の練習時間を削ってまで撮影の準備に奔走し、献身的に僕をサポートしてくれる。しかし、そんな熱心な姿とは裏腹に、彼女が頑なに楽器を手に取ろうとしないことに僕は違和感を抱く。やがて、彼女が抱えている深い心の傷と、楽器を握れなくなった本当の理由を知ることになった僕は、彼女が再び前を向けるように、そしてトラウマを乗り越えられるように力を貸すことを決意する。いつか才能を花開かせ、光り輝く場所へと羽ばたいていくであろう彼女の姿を予感しながら、僕は自分に何ができるのかを自問し続ける。不器用な二人が音楽を通じて向き合い、止まっていた時間を動かしていく、繊細で切ない青春ラブストーリー。彼女の再生を願う僕の想いは、果たして届くのだろうか。
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僕が彼女と初めて出会ったのは、梅雨の走り、小雨まじりの午後だった。

 僕の所属する物理化学部の部室に彼女は一人でやって来た。誰かに呼ばれていると後輩に言われ、慌てて戸口に立つと、そこにはボサボサの長い前髪のすき間から、ギョロリとした黒目がちの瞳で俺を見上げる一風変わった女の子が立っていた。

 背はそれほど高くない。夏服に変わったばかりの制服からのぞく手足はとても細く、肌は随分と日焼けして浅黒い。とてもとても失礼な言い方になるけど、彼女を見て最初に連想したのは名古屋名物「鶏の手羽先唐揚げ」だった。

「あの」

 その瞬間、僕は思わず息を飲んだ。僕のへんてこな妄想を一瞬で振り払うほど、その声は涼やかだった。

「岸田先輩から紹介されて来ました」

「……ああ」

 なんとなく見えてきた。

 岸田先輩は学外で他校の生徒と組んでバンド活動もしている吹奏楽部の三年生(イケメン)だ。うちの部長(ブサメン)と同じクラスで妙に仲がよく、前に依頼されてバンドのMVを撮影したことがある。というか、部費獲得の手段として、本人の知らないうちに部長に売られたというか。

「岸田先輩、撮影のセンスがいいってすごくあなたのことを褒めてて、今度のことも手伝ってもらえないか聞いてこいって言われて……」

 その瞬間、扉の向こうに張り付いて僕らのやり取りに耳をそばだてていたらしい部員連中のため息が聞こえた。まさか告白でもされるとでも思ったのか?

(残念でした。こんなメガネの陰キャに誰が好き好んで……)

「うちの部、今年が創部四十周年なんです。それで、秋の定期演奏会の来場記念に会場で特典映像を配ることになりました」

「なるほど、それで?」

「はい、毎日の練習風景から、春の定期演奏会、そして今年の吹奏楽コンクール地区大会までのビデオクリップを――」

「僕に撮影しろと?」

「はい。ああ、いえ、撮影だけじゃなく、できれば録音も……」

「うーん」

 僕は唸り声を上げた。

 ボーカルに加えてキーボードやエレキギター数本程度のバンドなら録音はそう難しくない。ボーカルの声はマイクが拾うし、ドラム以外の楽器の音は言ってしまえば全部電気信号だ。ミキサーに全部の音が集まってくるので、単純にそこから信号を分岐してもらえばいい。ドラムだって、専用に録音マイクを一本追加すればこと足りるだろう。

 でも、大編成のブラスバンドになるとそうはいかない。もともと電気信号になっている音が一つもないので、ちゃんと生録用のマイクを立てないといけない。それも何本も。結構な大仕事だ。

 だが、僕がしかめっ面で悩んでいるのを誤解したのか、彼女は慌てて言葉を補う。

「プロを雇うほどのお金はないですけど、ちゃんと部費から必要経費も出ます! わずかですけどお礼もできます! それに、私も全力でお手伝いしますから!」

「まあ、そうだな」

 僕は悩んだ末に頷いた。彼女の必死な表情にほだされたというのもあるけど、部長の中間搾取(ぼったくり?)がなければ前回のような働き損になることもないだろう、多分。

 岸田先輩もそれを見越して、部長でなく僕に直接声をかけてきたのだと思う。

「わかった。で、いつから始めればいい?」

「では、今から」

「え!」

「早速部室に行きましょう。部員達に紹介します」

 こうして、僕はこれまで全く縁のなかった吹奏楽部に関わることになった。

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