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愛が灰燼と化すとき の小説カバー

愛が灰燼と化すとき

兄の親友であり、圧倒的な輝きを放つロックスター、桐谷蓮。十六歳の頃から彼に憧れ続けてきた沙英は、十八歳の時に彼が口にした「二十二歳になったら身を固める」という言葉を人生の指針にしてきた。しかし、運命だと信じていた二十二歳の誕生日、下北沢のバーで彼女を待っていたのは、無慈悲な裏切りだった。蓮は沙英の純真な想いを嘲笑い、彼女を諦めさせるために別の女性との狂言婚約や妊娠を仕組んでいたのだ。絶望の雨の中を逃げ出した後も、蓮の残酷な仕打ちは止まらない。事故の際に見捨てられた沙英は重傷を負い、さらには病院に現れた彼から「嫉妬に狂った女」と罵倒され、噴水に突き飛ばされて置き去りにされる。かつての愛は暴力と嘘によって踏みにじられ、献身はただの迷惑な執着として処理された。心身ともに深い傷を負った沙英は、彼に関連するすべての縁を断ち切ることを決意する。これは悲劇のヒロインとして終わるための逃避ではない。壊れた約束から自分を解放し、フィレンツェの地で新しい人生を刻むための、力強い再生の物語である。
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蓮は、沙英がバーから静かに消えたのを、何かの駆け引きだと思っていた。

俺の話を盗み聞きして、焦らしてるんだ、と。賢い女だ、と。

彼はわかっていなかった。まったく。

彼女の傷の深さを、想像すらできなかった。

それよりも、怜佳とのライブ前のいい雰囲気を台無しにされかけたことに、苛立っていた。

「な?マジでヤバいやつだろ」彼女がいなくなった後、蓮はバンドメンバーに吐き捨てた。

「怜佳さんの計画、正解だったな」ベーシストのマコトが、いつも通り蓮に同調した。

「ああ、婚約、子供、全部だ。これでアイツも逃げてくだろ」蓮は怜佳の前で自信ありげに言った。彼女は片眉を上げて彼を見ていた。

怜佳はただ、冷たく計算高い笑みを浮かべた。「いいPRになるわ、ダーリン。ロックスターが真実の愛を見つける。身を固める。レーベルはそういう話が大好きなのよ」

数時間後、ショーケースライブが終わった頃に、健司が私を見つけた。

私は寮の部屋にうずくまっていた。暖房がガンガンにかかっているのに、涙でぐしょぐしょで、震えが止まらなかった。

「沙英」健司はためらいがちに声をかけた。「蓮から聞いた。バーにいたんだってな」

私は彼を見なかった。

「あいつはクズだ、沙英。あいつが言ったこと、計画してること…最低だよ」

「でも、止めなかった」私はかすれた声で囁いた。

「前に話そうとしたんだ。怜佳と組んで『沙英を追い払う』なんて言い出した時に。でも、あいつは聞く耳を持たなかった」

健司はぐしゃぐしゃの髪をかきむしった。「あいつは怜佳に完全に夢中なんだ。彼女は業界でのし上がりたい。そして蓮は…蓮は、彼女がそのための切符で、それ以上の何かだと思ってる」

ブースにいた蓮を思い出す。怜佳を見る彼の目。誰にも向けたことのない眼差し。

私がずっと、自分に向けられることを夢見ていた眼差し。

「本当に、付き合ってるの?」私は尋ねた。それを聞いて、現実にしなければならなかった。

健司はゆっくりと頷いた。「ああ、沙英。そうなんだ。もうしばらく経つ。かなり本気で」

その言葉は、また腹にパンチを食らったようだった。

彼はもっと何か言おうとした。蓮は馬鹿だとか、お前にはもっといい人がいるとか。

でもその時、健司が置いていた蓮のスマホが鳴った。怜佳の声が、部屋の向こうからでも聞こえた。

健司と一緒に来たらしいが、私の部屋の外で待っていた蓮が、すぐに出た。

「もしもし、ハニー。ああ、ショーケースは最高だったよ…うん、今ちょっと用事を済ませてて…いやいや、もう終わる」

彼の声。私と話す時とは全然違う。優しくしてくれる時でさえ、こんな声は聞いたことがない。

彼が部屋に顔を突っ込んだ。「大丈夫か、沙英?」私をちゃんと見てもいない。彼の意識はもう半分、怜佳の元にあった。

私はただ、彼を見つめた。

「そうか。じゃあな。健司、怜佳が祝杯あげたいって。お前も来るか?」

健司が答える前に、彼はもういなくなっていた。

健司はため息をついた。「な?夢中なんだよ。お前がただのヤバいファンじゃなくて、本気で心配してるって伝えようとしたんだ。でも、マコトとリョウのやつらが煽るんだ。『ただのガキだろ、蓮。怜佳さんは大人の女だ』って」

はっきりした。私は邪魔者。後始末されるべき存在。

翌日、私は留学生オフィスに向かった。

フィレンツェへの留学プログラムの申請書を、震えない手で記入した。

年度の初めにオファーされていた奨学金。蓮から遠くなるからと、一度は断ろうとしたもの。

今では、それが脱出口のように思えた。

フィレンツェ。新しい街、新しい人生。

福岡と、桐谷蓮から、できるだけ遠い場所へ。

数日後、健司の二十五歳の誕生日だった。

ソーホーの高級ロフトでのパーティー。

行きたくなかった。蓮に会うこと、彼らを見ることを考えると、吐き気がした。

でも健司は懇願した。「頼むよ、沙英。俺の誕生日なんだ。少しだけでいいから」

だから私は行った。平気な顔を貼り付けて。ダメージジーンズとバンドTシャツが、まるで衣装のように感じられた。

ロフトは人でごった返し、うるさくて、誰もが必死に見えた。

そして、彼らを見つけた。

蓮の腕には、九条怜佳が絡みついていた。

彼女は、鋭く、磨き上げられたような美しさだった。完璧な髪、完璧な服、そして目の奥が笑っていない笑顔。

彼らは私に一直線に向かってきた。胃がねじれた。

「沙英!」蓮は、少し明るすぎる声で言った。「来てくれて嬉しいよ。紹介したい人がいるんだ」

彼は怜佳を指した。「九条怜佳だ。俺の、婚約者」

婚約者。筋書きの一部だとわかっていても、その言葉は予想以上に私を打ちのめした。

怜佳は完璧に手入れされた手を差し出した。その握手は、固く、冷たかった。

「蓮からあなたのことは全部聞いてるわ、可愛い子ちゃん」彼女の声は、見下すような甘さに満ちていた。

「ちょっとした片想い、可愛らしいじゃない。でも彼はもう大人なの。私たち、そろそろ家族計画も考えてるのよ」

彼女は意味ありげに、平らな自分のお腹を撫でた。

「あなたも、きっと同い年の人が見つかるわ」

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