
愛が灰燼と化すとき
章 3
私は無理に笑った。「おめでとうございます。お二人の幸せを、心から願っています」
自分の声が、驚くほど落ち着いていることに気づいた。
蓮はほっとした顔をした。怜佳の笑顔は、ほんのわずかに引きつった。
そこへ、蓮のバンド仲間であるマコトとリョウが、ビールを片手に swaggering over してきた。
「よお、沙英!昔、俺たちのためにクッキー焼いてくれたの、覚えてるか?」マコトがからかうように言った。
「あとポスターもな!『MIDNIGHT HOWL、福岡を制覇!』とか書いてたよな」リョウが大げさな声で真似をした。
二人は下品に、大声で笑った。
「俺たちのナンバーワン追っかけだったもんな、沙英は?」
「健気な片想いだよな」マコトは怜佳にウィンクした。「うちの蓮も、やっと大人になったってことだ」
近くにいた業界人たちが、くすくす笑った。
顔が燃えるように熱くなった。完璧に、完膚なきまでに、屈辱的だった。
蓮はただそこに立っていた。かすかな、気まずそうな笑みを浮かべて。彼らを止める言葉は、一言もなかった。
彼は、どうでもよかったのだ。
その時、わかった。何年もの間、彼が私の存在を、私が彼とバンドの周りをうろつくことを許していたのは、健司がいたからだ。
健司は彼の親友で、バンド仲間。だから、その妹にも我慢していた。
今、彼には怜佳がいる。もう私に我慢する必要はない。
彼は私に消えてほしかった。この茶番劇は、それを確実にするためのものだった。
私は言い訳を呟いてその場を離れた。逃げ出したかった。
悲しみが胸に重くのしかかり、息が苦しかった。
街を見下ろす大きな窓のそばの、静かな隅を見つけた。
「大変な夜だったわね」
九条怜佳が隣にいた。シャンパンのグラスを二つ持っている。一つを私に差し出した。
私は首を振った。「いえ、結構です」
「聞いて」彼女の声は、先ほどより柔らかく、まるで共犯者のようだった。「蓮って、ちょっと馬鹿なところがあるの。あいつらも最低。気にすることないわ」
私はただ彼女を見つめた。
「本心ですよ、怜佳さん。お二人の幸せを願っています。私は、自分の人生を歩みますから」
彼女はシャンパンを一口飲み、私を品定めするような目で見た。
「本当に?ねえ、蓮って時々寝言を言うのよ。昔は、あなたの名前を呟いてた。何度も」
息が止まった。彼女は何を企んでいるの?
「罪悪感があったんだと思う。『二十二になるまで待ってろ』なんてくだらないこと言って、あなたを期待させたことにね」
彼女は肩をすくめた。「それとも、純粋で可愛いアート系の女の子に構われるのが、本当に好きだったのかもね」
彼女の笑みは、鋭く、すべてを知っているかのようだった。
私が何か答える前に、突然、頭上から大きなきしむ音がした。
二人で見上げた。
巨大なアートオブジェ、重い金属の彫刻が、天井から吊るされていた。
それが、揺れていた。
危険なほどに。
人々が悲鳴を上げ始めた。
どこからともなく現れた蓮が、本能的に怜佳を掴み、彫刻の直撃コースから乱暴に引き離した。
彼は、私の方を一瞥すらしなかった。
彫刻は、金属がねじれ、石膏が砕ける耳をつんざくような轟音と共に落下した。
私は真下ではなかったが、大きくギザギザの破片が一つ、空を舞って飛んできた。
足に激痛が走った。焼けるような、目のくらむような苦痛。
鎖骨のあたりにも、もう一撃。
そして、意識が遠のいた。
病院のベッドで目が覚めた。
消毒液と、恐怖の匂い。
健司がいた。顔は青ざめ、目は充血していた。
「沙英?ああ、神様、沙英、本当にごめん」彼は泣き出しそうだった。
「何があったの?」私の声は、かすれていた。
「彫刻が…落ちたんだ。お前が巻き込まれた。足の骨が折れてる、かなりひどく。それと、ここにも深い切り傷が」彼はそっと自分の鎖骨に触れた。
彼は激怒していた。「蓮のやつ…怜佳と突っ立ってただけだった。彼女を引き離した後、振り返りもしなかったんだ」
その言葉を、私は受け止めた。蓮は怜佳を救った。当然だ。彼女は彼の婚約者で、彼の未来。
私はただの…沙英。
その事実は、もう痛みさえ感じなかった。ただの、事実だった。
「大丈夫だよ、健司」私は囁いた。「彼は選んだ。それでいいの」
それが、すべてを決定づけた。ここを去るという、私の決意を。
健司は私を見た。彼の目には、私のものと同じ痛みが映っていたが、同時に、煮えたぎるような怒りも見て取れた。
「よくないよ、沙英。こんなの、何一つよくない」
でも私は、冷たい確信と共に知っていた。もう終わったのだと。私が蓮との間に何かあると思っていたものも、私が夢見ていた未来も、すべて消え去ったのだと。
そして不思議なことに、私は穏やかだった。
フィレンツェに行く。私は癒される。新しい人生を築く。
密かに、私は本当の計画を立て始めた。航空券と、片道切符の旅の計画を。
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