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もう戻れない、私たちの七年目 の小説カバー

もう戻れない、私たちの七年目

周囲から「冷徹な社長が唯一愛するのは妻だけ」と称えられるほど、深い絆で結ばれていた二人。しかし、平穏な日常は結婚七周年の記念日に音を立てて崩れ去ります。夫が薬を盛られ、見知らぬ女性と一夜を共にするという最悪の過ちを犯したのです。現場に駆けつけた妻の目に飛び込んできたのは、情事の痕跡がなまなましく残る絶望的な光景でした。夫はその場で跪き、自らの胸に七度も刃を突き立てるという壮絶な形で忠誠を誓い、それからは狂気的なまでの献身で罪を償おうとします。血を流して許しを乞う彼の姿を前にしても、一度壊れた信頼が再生することはありません。彼女の心には「もう以前のような関係には戻れない」という冷ややかな確信だけが刻まれていました。そんな折、決定的な証拠となる一枚の写真が彼女の元に届きます。夫の必死の償いも虚しく、その写真が最後の一押しとなり、彼女は彼との人生に完全な終止符を打つ決意を固めるのでした。愛と裏切りが交錯する、切なくも激しい愛憎劇が幕を開けます。
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2

案ずるまでもなく、ある日の早朝、陸沈は言嘉の前に跪いていた。

簡素な白いシャツの袖は腕までまくり上げられ、そこには消え残った幾筋かの浅い傷跡が覗いていた。

それはかつて、彼女を庇って刃物を受けた際にできたものだ。

言嘉は笑った。彼は過ちを犯すたびにこの傷を見せつけ、彼女の同情を引こうとするのだ。

「嘉嘉、俺が悪かった」彼は彼女を見上げ、その瞳には狼狽の色が浮かんでいた。「蘇暖が……蘇暖が妊娠した。父上が偶然そのことを知って、この子は絶対に産ませろ、と」

言嘉はただ、淡々と「そう」とだけ応えた。

陸沈は言嘉の手に触れようと手を伸ばしたが、途中でぴたりと止めた。「嘉嘉、君にとって酷な話だとは分かっている。だが……陸家の礎を、みすみす他人の手に渡すわけにはいかないんだ」 「君は身体が弱いから、俺は君に辛い思いをさせたくない。だから蘇暖に産ませるだけだ。子供が生まれたら、大金を持たせてすぐに追い出す。二度と俺たちの前に現れないように。 この子は……この子を、俺たちの子供として育てよう。駄目か?」

さらに彼は言葉を継いだ。「君が苦しんでいるのは分かっている。だが、俺だって同じなんだ。 信じてくれ、俺の心には君しかいない」

言嘉は床に跪く陸沈を見つめた。

裏社会でその名を轟かせ、誰もが恐れるこの男が、今は許しを乞う子供のようだ。

彼女は静かに微笑み、問いかけた。「陸沈、本気でそうするつもり?」

陸沈は一瞬戸惑い、不快そうに眉をひそめた。「嘉嘉、他に方法がないんだ。 あれは事故だった。薬でも盛られていなければ、俺が彼女と関係を持つはずがないだろう? それに、陸家の百年の歴史、父上が生涯をかけて築き上げたものを、みすみす他人に奪われるのを見過ごせと言うのか。 この状況を乗り切るには、この子が必要なんだ。 分かってくれるだろう……?」

「いいわ」 言嘉は彼の言葉を遮った。「産ませればいいじゃない」

陸沈は勢いよく顔を上げ、その目に驚きと喜びの色がよぎった。「嘉嘉、許してくれるのか?」

言嘉は彼に視線を合わせず、「ええ」とだけ呟き、くるりと背を向けて二階へと向かった。

陸沈は立ち上がり、彼女の後ろ姿を見つめて安堵の息を漏らすと、足早に追いかけてその身体を支えようとした。だが、その手はさりげなく避けられた。

彼は一瞬動きを止め、それ以上は近づかなかった。

自室に戻ると、言嘉はポケットからスマートフォンを取り出し、記憶に焼き付いていた番号をようやくダイヤルした。

三度目のコール音で電話は繋がり、受話器の向こうから弾んだ男の声が聞こえた。「嘉嘉か? 決心がついたんだな!」

言嘉の目頭が熱くなり、込み上げる涙を奥歯を噛み締めて必死にこらえた。

兄の声は喜びに満ちていたが、どこかこうなることを見越していたような響きがあった。

彼女は幼い頃に行方不明になり、兄に探し出された時には、すでに陸沈と籍を入れていた。

まだ、陸沈に自身の素性をどう打ち明けるか、考えがまとまっていなかった。

そんな矢先に、蘇暖の一件が起きたのだ。

今となっては、もう打ち明ける必要もない。

言嘉は深く息を吸い込んだ。「お兄様、決めたわ。私、家に帰る」

電話の向こうの言琛は一瞬言葉を失い、やがて感情を押し殺したような嗚咽が漏れた。「……帰ってくればいい。帰ってくれば、それでいいんだ……」

彼は少し間を置いてから、張り詰めた声で続けた。「陸沈に何かされたのか? 嘉嘉、兄さんに話してみろ」

ここ数日の苦しみと屈辱を、言嘉は努めて軽く、何でもないことのように語った。

受話器の向こうで、しばしの沈黙が流れた。

やがて、痛みをこらえるような言琛の声が聞こえた。「……分かった。お前の言う通りにしよう」

「だが、これだけは覚えておけ。お前は言家の娘だ。もし耐えられなくなっても、たとえ天が落ちてこようと、言家の人間がお前を見捨てることはない」

言嘉は鼻の奥がツンとなり、堪えきれなくなった涙がとうとう頬を伝った。「ええ、分かっているわ」

電話を切った後、言嘉はスマートフォンの画面に映る陸沈とのツーショットを見つめた。

結婚三周年の記念に撮ったもので、彼が彼女を抱きしめている。

彼女は写真の中の彼の顔を指でなぞった。涙が、ぽつりと画面に落ちた。

夕食の時間。

温かな黄色の光が皿を照らし、ステーキが艶やかな光を放っている。

言嘉は牛肉を小さく切り分けて口に運んだが、まるで砂を噛んでいるようだった。

いつの間にか窓の外は暗くなり、やがて雨粒が床までのびる大きな窓を叩き始めた。

陸沈のスマートフォンが鳴った。

彼は画面を一瞥し、少し声を和らげて電話に出た。「もしもし?」

受話器の向こうから、すぐに途切れ途切れの、か細い女の泣き声が聞こえてきた。「陸沈さん……わ、私、お腹が痛くて……外はこんなに雨が降っていて、怖いの……」

陸沈は眉をひそめ、無意識に言嘉の方へ視線を向けた。その目には困惑の色が浮かんでいる。

言嘉は陸沈を見上げ、意外にも口の端に笑みを浮かべて言った。「行けばいいじゃない」

陸沈は一瞬呆気にとられたが、すぐに安堵の息をつき、立ち上がって彼女の額にキスをしようとした。

言嘉がわずかに顔を背けたため、そのキスは彼女の髪の上に落ちた。

陸沈の動きが一瞬固まる。彼は低い声で囁いた。「嘉嘉、すまない。用が済み次第、すぐに戻る」

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