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五年間の愛、無価値だったの? の小説カバー

五年間の愛、無価値だったの?

「おばあさま、礼十郎様との婚約を白紙に戻させてください」。坂田朋恵は、五年の歳月を捧げて尽くしてきた婚約者・礼十郎との決別を決意する。かつて彼のすべてを支えた朋恵の献身は、礼十郎の初恋相手である雅が再会を果たした瞬間、無価値なものへと成り下がった。リビングで平然と雅と睦み合い、朋恵を家政婦同然に扱う礼十郎。さらに彼は、雅の狡猾な策に溺れて朋恵を悪女と決めつけ、罵声を浴びせる。彼の心に自分の居場所がないことを悟った朋恵に対し、礼十郎は「この婚約など最初から望んでいなかった」と非情な言葉を突きつけ、彼女の心を完全に粉砕した。自分の歩んできた五年間は何だったのか。虚無感に包まれながらも、朋恵は祖母の誕生日パーティーという公の場で、彼の目の前で静かに婚約解消に同意する。これまでの未練をすべて断ち切り、彼女は思い出の詰まったこの街を去ることを決めた。愛を信じ、尽くし続けた女性が、裏切りの果てに新たな人生を歩み出すための決別の物語。
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坂田朋恵 POV:

キッチンを片付け終え, 私は重い足取りで二階へと上がった. 心臓が鉛のように重く, 全身が疲労感に襲われていた. 自分の部屋のドアノブに手をかけた瞬間, 中から嬌声が聞こえてきた.

息を吞み, ゆっくりとドアを開ける. そこに広がっていた光景に, 私の心臓は凍りついた. 私のベッドの上で, 雅さんが妖艶な姿で横たわっていた. そして, その傍らには, 雅さんの白い肌に軟膏を塗る礼十郎様の姿があった.

「朋恵, 何をしている. 客間にでも行って寝ていろ. 」

礼十郎様は, 私を一瞥もせずに言い放った. その声は, まるで私を害虫でも見るかのような冷たさだった. 私の声は, 喉の奥にへばりつき, 掠れた声しか出なかった.

「ここは, 私の部屋です. 」

礼十郎様は, 眉一つ動かさずに言った.

「雅は, 怪我をしている. 一番良い部屋で休ませるのが当然だろう. お前は, 雅に謝罪さえしないのか? 」

彼の言葉に, 私は苦笑した. この状況で, 私が謝罪する筋合いなどない. 雅さんが着ているのは, 数日前に礼十郎様が私に買ってくれたばかりのパジャマだった.

「雅さんが, 私のパジャマを着ているのも, 謝罪の一種なのですか? 」

私の言葉に, 礼十郎様はカッと目を見開いた.

「失礼なことを言うな! これは俺が雅に買ってやったものだ! お前は, 雅を追い出そうとしているのか! 」

礼十郎様の怒鳴り声が, 部屋に響き渡る. 雅さんは, 彼の腕に抱きつき, わざとらしく嗚咽を漏らした.

「礼十郎様, もういいの. 私が悪いから. 」

その言葉を聞いた瞬間, 礼十郎様の表情は一変した. 彼は, 雅さんの髪を優しく撫でながら, 私を睨みつけた.

「雅を傷つける真似はさせない. お前には, 少し懲らしめが必要だな. 」

私の心は, 彼の言葉によって深く抉られた. 彼の目には, もう私など映っていない. 私は, 疲労困憊で, これ以上彼と口論する気力もなかった.

「朋恵, 聞いているのか? 」

礼十郎様の声が, 私を現実へと引き戻す.

「はい. 」

私の声は, もはや感情を失っていた. 礼十郎様は, 私の返答に驚いたように目を丸くした.

「分かったなら良い. 荷物を持って客間へ行け. 」

私は, 黙って自分のクローゼットへと向かった. 礼十郎様は, 私の行動に不審なものを感じたのか, 私を追いかけるように部屋へ入ってきた.

「朋恵, 雅は客人だ. お前は, 雅に何をしたか分かっているのか? 」

彼の言葉は, 私に何の感情も引き起こさなかった.

「はい. 」

私の返答に, 礼十郎様はさらに苛立った様子だった.

「そのふてくされた態度をやめろ! お前は, まるで自分が被害者であるかのように振る舞っているな! 」

礼十郎様は, 吐き捨てるようにそう言って, 部屋を出て行った. 廊下からは, 雅さんと楽しげに話す彼の声が聞こえてきた. 彼らは, 二人の未来について, 楽しそうに語り合っていた. その声は, 私の心を深く締め付けた.

私は, ガラスケースの中に飾られたピアスに目をやった. 彼が初めて私にくれた, ささやかなプレゼントだった. その時, 彼は「もう二度と, 朋恵を悲しませるようなことはしない」と誓ってくれたはずだ. しかし, その約束は, 今となっては虚しい言葉でしかなかった.

このピアスは, もはや何の価値も意味も持たない. 私の心は, 完全に冷え切っていた.

私は, ピアスを手に取り, ギュッと握りしめた. その冷たい感触だけが, 私の心を現実へと引き戻す. 私は, 寝室の前を通り過ぎる時, 再び礼十郎様と雅さんを見かけた. 彼らは, 絡み合うように抱き合っていた.

私の心は, もう痛みを感じなかった. 私は, ピアスをゴミ箱に勢いよく投げ捨てた. カラン, と乾いた音が響く. 私は, 黙って客室へと向かった.

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