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『軍神』の身代わり~手柄泥棒の妹に全て譲って、私は残虐な「廃皇子」を愛します~ の小説カバー

『軍神』の身代わり~手柄泥棒の妹に全て譲って、私は残虐な「廃皇子」を愛します~

前世で国のために五年も戦い抜きながら、その軍功を実の妹に横取りされた挙句、冷酷な婚約者の裏切りによって雪夜に命を落とした将軍の娘。死の淵から現世へと返り咲いた彼女は、己を陥れた者たちへの復讐を誓う。家族や元婚約者が白々しく振る舞う中、彼女はすべての栄誉を捨て去り、周囲が「生き閻魔」と恐れる車椅子の廃皇子・蕭執との婚姻を願い出た。誰もが彼女の正気を疑うが、彼女だけは蕭執の内に眠る真の才知を見抜いていた。二人は互いの目的のために手を組み、彼女は彼の不随の足を癒やし、彼は彼女の最強の後ろ盾となる契約を交わす。偽りの手柄で威張る妹や陰謀を企てる母を余所に、彼女は誉王と共に着実に権力を掌握していく。かつて泥を塗られ、捨て駒にされた二人が手を取り合い、再び戦場に名を轟かせ、朝廷の頂点へと昇り詰める逆転劇が幕を開ける。真の将軍の印が掲げられ、万軍を平伏させるその時、世界はかつて見放した二人が天下を統べる存在となったことを知るのだ。
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3

車椅子は鏡のように磨かれた床をゆっくりと進み、蕭執(ショウ・シツ)が影の中から姿を現した。

蝋燭の火に照らされたその顔立ちの前に、周囲の煌びやかな装飾さえも色あせて見える。

車椅子に座しているとはいえ、生まれ持った高貴な気品は微塵も損なわれていない。

その美貌は妖艶で、彫刻のように整った目鼻立ちは、まるで極寒の氷で削り出したかのように冷ややかで完璧だ。

最も心を揺さぶるのは、その鳳凰の如き瞳。切れ長の目尻、黒曜石より深い純黒の瞳。その冷徹な眼差しは人の心を見透かすかのようで、一目で魂を奪われそうになる。

蘇楹(ソ・エイ)は顔を上げ、底知れぬその瞳を見据えつつ、胸の内で様々な思いを噛み締めていた。

誰が想像できようか。これほどの英雄が、遠からず命を散らすことになろうとは。

半年後、北蛮(ホクバン)が再び侵攻してくると、蕭執は不自由な体で戦場に舞い戻り、三千の鉄騎(テッキ)を率いて敵の背後を奇襲し、大周(ダイシュウ)に勝利をもたらす。

だが彼自身は古傷を悪化させ、戦場に血を散らして散る。享年二十八。

その戦に、彼女もまた従軍していた。彼の壮絶な最期を目の当たりにし、魂を揺さぶられるほどの衝撃を受けたのだ。

この生では、彼の命を救い、その足も治してみせる。この国の柱石を、早々に失わせはしない。

彼女は深く息を吸い、高鳴る鼓動を鎮めると、広間に響き渡る声で毅然と言い放った。「誉王(ヨオウ)殿下を、心よりお慕い申し上げます。かつての鷹愁峡(ヨウシュウキョウ)の戦い……殿下が危険を顧みず指揮を執り、敵陣深く切り込んで旗を奪わねば、大周も北蛮によって地獄と化していたでしょう!殿下のご功績は史書に輝き、天下の万民を救ったのでございます!」

彼女の眼差しは熱く、その口調は誠実そのものだった。「殿下はたとえ不自由なお体であっても、その不屈の精神と武名は天下に轟いております。凡夫ごときに及ぶところではございません。 陛下より賜婚の栄誉をいただき、殿下のお傍に仕えることができるとは、幾世分の果報か計り知れません。わたくしは心よりこのご縁を嬉しく思います!」

その言葉は力強く、場内は水を打ったように静まり返った。

蕭執は沈黙を守り、ただじっと彼女を見つめ、その真偽を見極めようとしているかのようであった。

「よい!実によいぞ!」慶帝(ケイテイ)の豪快な笑い声が静寂を破った。彼は手を叩き笑い、称賛の眼差しを蘇楹に向けた。「『史書に輝き、万民を救う』か!蘇(ソ)の娘よ、そなたは見識も高く、度胸もある。朕の心に叶うたぞ!」

彼は迷うことなく朗々と宣言した。「勅旨を下す!蘇家(ソけ)の嫡女・蘇楹は、賢く道理をわきまえ、慧眼の持ち主である。よって、誉王・蕭執の正妃とせよ!」

「また、蘇楹には赤金の宝飾一式、南海の夜光珠を一枡、江南の雲錦十疋、黄金千両を化粧料として下賜する。以上!」

「陛下、天恩に感謝いたします!」蘇楹は深く平伏し、その姿は端正であった。

蘇霊児(ソ・レイジ)は、蘇楹が称賛され、莫大な褒美まで手にするのを目の当たりにし、嫉妬の炎がほとばしるかのようであった。

(策を弄して、今日こそ京(みやこ)に名を轟かせるはずだったのに、まさかあの卑しい女に全てを奪われるとは!)

秦崢(シン・ソウ)の顔色もまた優れない。言葉にできぬ苛立ちと喪失感が胸に渦巻いていた。

彼は蘇楹の横顔を食い入るように見つめ、そこに不満や無理強いされた様子を探そうとするが、見えるのは雲のように淡々とした静けさだけだった。

宮中での宴は微妙な空気のまま幕を閉じ、蘇楹は人波に乗って宮門を出る。晩秋の夜風が寒気を帯びて吹きつけ、胸の鬱屈を吹き飛ばしていく。

蘇邸(ソてい)の馬車へ向かおうとした足が、ふと止まった。

遠くない場所に、漆黒の馬車がひっそりと停まっている。まるで闇に潜む影のようだ。

車窓の簾が半分上がり、孤高の黒い人影が見え隠れする。

蕭執だ。

(まだ帰っていなかったのか。わたくしを待っているというのか……)

蘇楹は一瞬思案し、すぐにきびすを返して馬車へ歩み寄った。数歩の距離で足を止め、しとやかに礼をする。「殿下にご挨拶申し上げます」

蕭執は声を聞き、目を上げた。夜色がその鳳眸の深さを際立たせ、玉のような顔には何の表情も浮かんでいない。「蘇お嬢さん。御前で申したこと、どれほどが真(まこと)か、余は追及せぬ。 しかし、もし今になって悔いておるなら、余から父皇に奏上し、勅命を撤回させることもできるぞ」

その言葉に、蘇楹は口元を綻ばせ、鮮やかな笑みを浮かべた。

さらに二歩近づき、相手の静かな呼吸を感じるほどの距離で身をかがめると、挑発するような口調で囁く。

「殿下はわたくしの決意を疑っておられるのですか?それとも……ご自身の魅力に、自信がおありでないとか?」

夜風が吹き抜け、後れ毛が蕭執の耳元をかすめる。

彼の体がわずかに強張った。とっさに顔を背け、顎を引き締め、薄い唇を堅く閉ざす。

蘇楹は、彼の耳元がほんのり赤らんでいるのを捉え、瞳の奥の笑意を深めた。

「蘇お嬢さんは……口が達者なことよ」 声は相変わらず冷ややかだが、そこには微かな羞恥と怒りが滲んでいる。

蘇楹はにっこり笑い、悪びれもせずに答えた。「お褒めに預かり光栄です」

蕭執はしばし沈黙した。彼女の図太さに呆れたのかもしれない。やがて、腰に下げていた墨玉の玉佩(ぎょくはい)を解く。

彼女を見もせず、窓から無造作に差し出す。「持っておれ」

蘇楹は驚いたが、両手でそれを受け取る。

手に触れた玉佩は温かく、墨のように静かな色合いで、複雑な夔龍(きりゅう)の紋様が刻まれている。只者ではない逸品だ。

「難儀なことがあれば、それを持って王府へ参るがよい。余を訪ねよ」

蕭執の口調は平坦だったが、蘇楹の心は定まった。

この玉佩は、間違いなく彼が自分を認めた証だ。

指先で玉佩の冷たい紋様をなぞりながら、蘇楹は見上げる。その瞳には悪戯な光が揺らめく。「殿下。これはもしや、愛の証ではございませんか?」

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