
奪われた全てを取り戻すまで
章 3
片瀬結実 POV:
「結実, 桃子さんの出版記念パーティーがあるんだ. 君も来ないか? 」
彼の言葉は, 問いかけではなく, 命令だった.
「忙しいから…」と私が言いかける前に, 彼は私の言葉を遮った.
「桃子さんも君のことを気にかけているんだ. 君が体調を崩したと聞いて, すごく心配していた. 君が来てくれたら, きっと喜ぶだろう. 」
彼は, そう言って, 私に拒否する隙を与えなかった.
「パーティーでは, 僕の新作も発表される. 君に, そこで僕のサポートをしてほしいんだ. 」
「分かったわ. 」と, 私は冷たく答えた.
私の心は, すでに氷のように冷え切っていた.
私はすでに離婚弁護士に相談し, 準備を進めていた.
もう, 誰も私を傷つけることはできない.
そう, 確信していた.
会場である高級ホテルのバンケットルームに足を踏み入れると, 華やかなシャンデリアの光が目に飛び込んできた.
たくさんの人が集まり, 賑やかな笑い声が響いている.
主役である星川桃子は, 白いドレスに身を包み, まるで女神のように人々から注目を集めていた.
彼女の顔は, メイクで完璧に整えられ, 輝くばかりの笑顔を振りまいている.
一方, 私は, 数日間の入院で憔悴しきっていた.
薄いメイクで, 顔色は悪い.
ドレスアップする気力もなく, 地味なワンピースを着ていた.
周囲の人間が, 桃子を称賛する声が聞こえてくる.
「桃子さんのデザインは本当に素晴らしいわ. 才能に溢れている. 」
「しかも, こんなに美しいのに, 中身も高潔なのよ. シングルマザーの道を選ぶなんて, 並大抵の覚悟じゃないわ. 」
「それに引き換え, 片瀬さんは…ねえ. 旦那さんの稼ぎで暮らす専業主婦でしょ? 何の取り柄もないのに, よくあんな才能ある人を独り占めしようとするわよね. 」
彼らの軽蔑の視線が, 私に突き刺さる.
私は, まるで透明人間のように扱われた.
桃子は, そんな私を一瞥すると, にこやかに微笑んだ.
「皆さん, 今日は私が奢りますから, たくさん飲んでくださいね! 」
彼女は, シャンパンボトルを手に, グラスに注ぎ始めた.
誰かが, 「せっかくだから, ゲームでもしませんか? 」と声を上げた.
桃子は, 楽しそうに頷いた.
最初に罰ゲームの対象になったのは, 桃子だった.
彼女は口を尖らせ, 「何でも聞いていいわよ」と甘えた声を出した.
桃子の友人が, 悪意に満ちた笑みを浮かべながら尋ねた.
「ねえ桃子, もし赤ちゃんが生まれたら, 勝弘さんのことをパパって呼ばせるの? 」
桃子は, ゆっくりとお腹を撫でながら, 私の方を見て微笑んだ.
その笑顔は, 私への明確な挑発だった.
「結実さん, 心配しないで. 私は, 勝弘さんとの関係を壊すつもりはないわ. 」
彼女は, わざとらしく優しい声で言った.
「でも, もし私が本気になったら, 結実さんには勝弘さんを奪い返すチャンスなんてないわよ. 」
そして, さらに言葉を続けた.
「それに, もし結実さんがもう子供を産めなくても, 私の子供が, 将来, あなたの面倒を見てあげるわ. 優しい子に育てるから, 安心してね. 」
周囲の人間は, 「桃子さん, なんて優しいの! 」と, 口々に称賛の声を上げた.
私の心臓は, 激しく脈打っていたが, 私は表情一つ変えなかった.
過去の私なら, きっとその場で泣き崩れていただろう.
あの頃の私は, 彼から「被害妄想だ」と責められ, 桃子からの陰湿な攻撃に一人で耐えていた.
しかし, 今の私は違う.
彼の友人が, 私の沈黙に満足したように頷いた. 「結実さんも, ようやく大人になったな. 」
彼の言葉は, 私への侮辱でしかなかった.
誰かが, 「結実さんも, 桃子さんに感謝の気持ちを込めて, 一杯どう? 」と, 私にグラスを差し出した.
それは, 度数の高いテキーラだった.
「ええ, 喜んで. 」と, 私は口元に笑みを浮かべた.
私は, グラスを受け取ると, ゆっくりと桃子の方に向き直った.
「ごめんなさい, 今日は体調が優れないので…」と, 私は断ろうとした.
しかし, 私の言葉が終わる前に, 彼は不機嫌そうに眉をひそめた.
「なんだ結実, せっかく桃子が君のために用意してくれたシャンパンだろ? 飲めよ. 」
彼は, 私の手からグラスを奪い取ると, 無理やり私の口元に押し付けた.
アルコールの匂いが, 私の胃を刺激する.
「やめて…! 」
私が抵抗すると, グラスは手から滑り落ち, 大きな音を立てて床に砕け散った.
その瞬間, 私の下腹部に, 激しい痛みが走った.
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