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冷徹なアジアの覇王は、傷ついた隠れ令嬢を独占する の小説カバー

冷徹なアジアの覇王は、傷ついた隠れ令嬢を独占する

結婚3周年を迎えた祝賀会の夜、早川寧寧は残酷な現実に直面する。心から愛した夫・川村真佑にとって、自分は新薬開発のための実験道具でしかなかったのだ。戸籍上の正妻は夫の幼馴染である荒木雪乃であり、寧寧との婚姻関係すら偽造された偽りだった。絶望の淵で家を飛び出した寧寧だったが、そこから彼女の運命は激変する。実は彼女、日本一の富豪である松村隆一が探し続けていた実の娘だったのだ。さらに、手違いからアジアを影で支配する若き帝王・星野拓海と正式に婚姻届が提出されてしまう。かつての夫・真佑は、寧寧が自分に泣きついてくると高を括っていた。しかし、再会した彼女は最高峰の令嬢へと変貌を遂げ、最強の男に愛されていた。かつての傲慢さを失い、地べたに這いつくばって復縁を請う真佑。だが、冷徹な覇王として君臨する星野拓海は、寧寧の腰を強く抱き寄せ、冷ややかな声で言い放った。「残念だが、彼女は私の妻だ」。裏切りから始まった恋は、圧倒的な独占欲とともに加速していく。
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シャンゼリゼグランドホテル。

早川寧寧は医療系の学術会議を終え、ロビーから外へ出た途端、吹きつけてきた冷たい風に思わず肩をすくめた。骨の髄まで凍るような寒さだ。

ポケットからスマホを取り出し、夫・川村真佑にメッセージを送ろうと、画面を開いたそのとき――

ニュースの見出しが目に飛び込んできた。

『川村グループ、新型標的薬の開発に成功 シャンゼリゼグランドホテルにて祝賀パーティー開催』

「……え?」一瞬、見間違いかと思った。

新型標的薬は、寧寧が夫――川村真佑の会社・川村グループのために開発したものだ。その祝賀パーティーが、まさに今このホテルで開かれている?なのに、自分には一言の連絡もない――?

胸の奥がざわつきながらも、寧寧は少しだけ迷い、きゅっと唇を噛むと踵を返した。エントランスを抜け、案内ボードに目をやる。「三号ホール 川村グループ 新薬開発祝賀会」

宴会場の入り口まで来た瞬間、寧寧の足が止まる。視界の正面、スポットライトに浮かび上がるようにして、真佑と荒木雪乃が寄り添って立っていた。背の高い男と、華やかな女。まるで絵画の一場面みたいに“絵になる二人”だった。

荒木雪乃は、寧寧と同じ病院の同僚であり、真佑の幼馴染みでもある。

――ただの幼馴染み、のはずだった。けれど今の二人の距離は、そんな言葉ではとてもごまかせない。

男の大きな手が雪乃の腰をしっかりと抱き寄せ、時おり向けられる視線は、どうしようもなく優しく、甘い。

真佑……

あの目で――彼が自分を見たことなんて、一度でもあっただろうか。

胸の奥がきゅっと締めつけられる。こみ上げてくるみっともない感情を、なんとか飲み込もうとしたそのとき、

そばで飲んでいた真佑の友人たちの声が、嫌でも耳に入ってきた。

「真佑、お前と荒木先生、ほんっとお似合いだよな。 いつになったら荒木先生を嫁にもらうんだ?」

「そうそう。荒木先生、美人だし仕事できるしさ。お前が一度も連れてこない、あの地味な奥さんより、よっぽどマシじゃね?さっさと離婚した方がいいって!」

別の男が首をかしげる。「でもさ、その標的薬って、真佑の奥さんが開発したんだろ? 標的薬を作れるあの奥さん、そう簡単には手放せないんじゃないの?」

一言一言が、鋭い針になって寧寧の全身に突き刺さる。骨の隙間という隙間まで、じくじくと痛みが広がっていくようだった。

それでも――寧寧は、まだ彼を信じようとしていた。きっと真佑は、こんなふうに妻を侮辱されても黙ってはいない。そうであってほしい。そうでなければ、今までの自分が、あまりにも哀れすぎるから。

けれど。真佑は鼻で笑い、抱き寄せた雪乃の腰に回した腕を、さらにきつくした。

「あの地味な女に、何の取り柄がある?この標的薬は全部、雪乃が研究してくれたんだ。雪乃こそ、うちの川村グループの大功労者だろ」

――轟、と。頭の中で、何かが爆ぜた。

(……真佑? 今、なんて言ったの?)

昼も夜もなく、何日も何日もかけて作り上げた標的薬。眠る時間を削り、身体を壊すのもかまわず続けてきた研究。その成果を、彼はあっさりと別の女の手柄にしてしまった。

視界がじわりとにじむ。涙があふれそうになるのを、寧寧は歯を食いしばってこらえた。

彼を何年も、ずっと好きで。川村グループのためにどれだけのものを差し出してきたか。

それが今では、笑い話にしか見えない。自分自身が、滑稽な冗談そのものみたいだ。

――ああ、私はこの結婚で、完膚なきまでに負けたんだ。

胸の奥が鈍く痛む。息を吸うだけで苦しい。

このままここにいたら、みじめな顔を誰かに見られてしまう。それだけは嫌で、寧寧は踵を返し、足早に化粧室へと向かった。

どうにか涙の跡を整え、深呼吸をしてから化粧室を出る。そのとき――

「ねえ真佑、いつになったら早川寧寧を追い出してくれるの?正式に籍を入れたのは私なのに、あの女が“川村夫人”の肩書きを何年も名乗ってるなんて、納得いかない」甘えているようで、どこか傲慢な女の声が耳に飛び込んできた。

寧寧は思わず、声のする方角の陰に身を隠し、そっと覗き込む。そこにいたのは――やはり、荒木雪乃と川村真佑だった。

(……正式に結婚したのは、荒木雪乃?どういう意味……?)

心臓が、ずるりと足元へ落ちていくような感覚。

真佑は雪乃をなだめるように、その唇に軽くキスを落とし、腰を撫でながら甘い声でささやいた。

「雪乃、もう少しだけ我慢してくれ」

「早川寧寧が標的薬の第一段階を完成させただけで、うちの川村グループは二百億近く稼げた。これで第二、第三段階まで作り上げたら、川村グループは数百億規模の利益を得られる。俺が苦労してあいつと“偽の婚姻届”まで交わしたのは、 標的薬を研究するあいつの能力に目を付けたからだ。 いいか、雪乃。焦るな。あいつが川村グループのために稼いだ金は、全部、俺たち夫婦の共同財産になる。そして、用が済んだらあいつは叩き出されて、一円たりとも手にできない」

呼吸が途端にうまくできなくなる。

寧寧は思わず、自分の口を両手で押さえた。この場で悲鳴を上げてしまいそうなほど、込み上げてくる憎しみと痛みを、どうにか押し殺すために。

目の縁が焼けるように熱い。涙で真っ赤に染まったそれは、まるで血の涙を湛えているみたいだった。

――そうか。こんなにも長いあいだ、自分はずっと騙されてきた。

夫は自分を愛してなどいなかった。必要だったのはただ、標的薬を作る“道具”だけ。

そして極めつけに、あの婚姻届さえ、本物ではなかった。

雪乃は真佑の話に満足したのか、とろけるような笑みを浮かべ、彼の首に腕を回して唇を求める。

「真佑、やっぱりあなたが一番……」

二人がキスするのを見て、寧寧の瞳の中の悲しみは、一瞬にして憎しみへと変わった。

「川村真佑、何をしているの!」堪えきれず、寧寧は飛び出していた。

「……寧……寧寧?なんでここに」

冷たく整った顔に、わずかに気まずさが浮かぶ。

寧寧は喉の奥にこみ上げるものを必死に押し込み、涙で赤くなった目で二人を睨みつけた。「来なかったら知らないままだったわ。自分の“夫”が、幼馴染とキスしてるだなんて」

「あ、あれは……その……」真佑はあわてて雪乃から手を離し、言い訳を探すように口を開いた。「寧寧、俺は……さっき少し飲み過ぎてて――」

寧寧は彼にとって“金のなる木”だ。どうにか機嫌を直させなければならない、と彼は思っている。

手を伸ばし、寧寧の肩に触れようとしたそのとき――パシンッ、と乾いた音が響いた。寧寧はその手を振り払い、逆に彼の頬を全力で打ち据えた。「川村真佑、その汚い手で、私に触らないで!」

頬に走った熱に、真佑の表情が一瞬で歪む。もう、いつもの温厚そうな仮面を被ってはいられなかった。 「早川寧寧、お前、気でも狂ったか!」

雪乃が悔しそうに唇を噛みしめ、寧寧を睨みつける。「ちょっと、寧寧!真佑はあなたの夫よ?なんで殴ったりするの!」

寧寧は鼻で笑った。その瞳の奥には、痛みが濃く滲んでいる。

「クズ男とあばずれ女。殴られて当然じゃない?」

その瞳に、もう迷いはない。「川村真佑――離婚しましょう」

短くそう告げると、寧寧は振り返りもせず、その場を去った。

ホテルを出ると、外はすでに土砂降りになっていた。

びしゃびしゃと雨粒が顔に当たり、髪を濡らしていく。それが雨なのか、涙なのか、もう自分でも分からない。

分かるのは、胸の中が、ナイフでずたずたに切り裂かれたみたいに痛いということだけ。

そのとき、スマホが震えた。画面には、Y国からの国際電話の表示。

寧寧はぼんやりとした頭で通話ボタンを押す。

『寧寧か?』低く、よく通る男の声が耳に響いた。 『私は君の父親だ。華国一の大富豪――松村隆一という』

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