
三年間の献身、裏切りの果て
章 2
真優 POV:
直樹先輩が美海を迎えに行く日, 坂口家では彼の回復を祝う盛大なパーティーが開催されることになっていた.
私は, パーティーの準備を手伝っていた.
テーブルに並べられた料理は豪華絢爛で, グラスはシャンパンの泡で満たされていた.
しかし, 私の心は, その華やかさとは裏腹に, 冷え切っていた.
坂口夫人が, 私の隣に立った.
彼女は, 私の手を握り, 優しい声で尋ねた.
「真優さん, 直樹のことは, 本当に諦めるの? 」
彼女の目は, 私を心配しているように見えた.
私は, ただ微笑むしかなかった.
「ええ, もう十分です. これ以上, 彼を縛る権利は私にはありません」
私の声は, 驚くほど冷静だった.
坂口夫人が, 少し悲しそうな顔をした.
「そう. でも, あなたがこの家を出ていくのは, 寂しいことだわ. あなたは, この三年間, 直樹にとって, そして私にとっても, かけがえのない存在だった」
彼女の言葉は, 私の心を揺さぶった.
私は, 彼女の優しさに, 少しだけ涙が出そうになった.
しかし, 私はすぐにその感情を抑え込んだ.
「私も, あなたと出会えてよかったと思っています」
私はそう言って, 彼女の目を見た.
彼女は, 私の目の中に, 何かを決意したような光を見たのだろうか.
彼女は, 私を抱きしめた.
その温かさは, この家で唯一, 私に向けられたものだった.
「これからは, 自分の人生を生きなさい. あなたは, まだ若い. あなたの未来は, きっと輝かしいものになるわ」
彼女の言葉は, 私の背中を押してくれた.
私は, この三年間の契約が終わることを, 彼女に告げた.
「私, 留学するつもりです. 医学を学び直したい」
彼女は, 驚いた顔をした.
「そう. あなたの夢だったものね. 応援するわ」
彼女は, 私の留学費用についても, 援助を申し出てくれた.
私は, その申し出を丁重に断った.
もう, この家から, 何も受け取るつもりはなかった.
私は, 自分の力で, 自分の人生を切り開いていくと決めていた.
リビングから, 直樹先輩の妹, 絵里香の声が聞こえてきた.
「お兄ちゃん, まだ戻ってこないの? 美海さんとの再会, 楽しみにしてるのに! 」
その声は, 私に, 自分がこの家では「外様」であることを改めて突きつけた.
私は, この家にとって, 直樹先輩の回復のための道具に過ぎなかったのだ.
彼の回復が, 私の存在の終わりを意味する.
パーティー会場のドアが開いた.
そこに立っていたのは, 腕を組んだ直樹先輩と美海だった.
美海は, 直樹先輩の隣で, 眩しいほどの笑顔を浮かべていた.
彼女の顔は, 雑誌の表紙から飛び出してきたかのように完璧だった.
直樹先輩は, 美海に優しく微笑みかけている.
その視線は, この部屋の誰をも映していなかった.
私の心臓が, 冷たい氷でできた塊になった.
私は, 彼がこれまで私に向けたことのない表情を見せたことに, 深く傷ついた.
周囲のざわめきが聞こえる.
「あれが, 坂口直樹の初恋の相手, 柏原美海よ」
「やっぱり, お似合いね. あの黒田真優って子, どうするのかしら? 」
絵里香が, 私のそばにやってきた.
彼女は, 私の耳元で囁いた.
「ねえ, 黒田さん. あなたの役目は, もう終わったんじゃない? そろそろ, この家から出て行ってもらえないかしら」
彼女の言葉は, 私の心を深く抉った.
私は, 彼女の言葉に, 何も言い返せなかった.
私の心は, もう何も感じなくなっていた.
私は, この家に留まる理由がなくなったことを悟った.
私の心は, 空っぽだった.
私は, この場所には, もう私の居場所がないことを知っていた.
私は, 静かにパーティー会場を後にした.
私の心は, 冷たく, そして強くなっていた.
私は, もう二度と, この場所に戻ることはないだろう.
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