
裏切り者に二度目はない
章 3
彼がパーティーを抜け出してから十分後、私もそっと会場を後にした。
業務用エレベーターで駐車場へ下り、その動きは素早く静かだった。
私の車はプライベートな区画に停めてある。
車に乗り込み、通りに出た。
彼の車を見つけるのは簡単だった。
彼が乗っているのは特注のスポーツカーで、見失いようがなかった。
私は安全な距離を保ち、ヘッドライトを消して後を追った。
彼はスピードを上げ、オフィス街から離れ、都心の新しい高級タワーマンションの方へ向かっていた。
彼は洗練された近代的なマンションの地下駐車場に入っていった。
私は通りの向かいに車を停め、様子を窺った。
数分後、森莉奈がエレベーターホールから出てきた。
彼女のプロフェッショナルな態度は消え失せていた。
シルクのローブを羽織り、髪を下ろしている。少し焦れた様子だった。
蓮の車が近づくと、彼女は彼に駆け寄った。その表情は、拗ねたような、それでいて喜びに満ちたものだった。
「遅かったじゃない」
彼女は甘えた声で文句を言った。
蓮は車から降り、満面の笑みを浮かべていた。
彼は彼女を腕の中に引き寄せた。
「パーティーから抜け出すのが大変でね」
彼は低く、親密な声で言った。
「特別な誰かのために、サプライズを用意したんだ」
彼は空の方を曖かいに指差した。そこでは、最後の花火が消えかけていた。
「気に入ってくれたかい?」
「私のために?」
彼女は目を丸くして尋ねた。
「てっきり…彼女のためのものかと」
「ずっと君のことだけを考えていたよ」
彼はそう言って、彼女に深くキスをした。
「約束する、莉奈。もう少しだけ時間をくれ。この取引が終わったら、ちゃんと片を付けるから」
私はエンジンを切った車の中で、バックミラー越しに彼らを見ていた。
何年も前の自分の言葉が、心の中でこだまする。
記念日の花火。私は彼に、そんな贅沢はやめて貯金すべきだと言った。彼は譲らなかった。
今、その理由が分かった。
壮大なロマンティックな演出は、妻のためではなかった。愛人のためのものだったのだ。
どうして私はこんなに愚かだったのだろう。
莉奈は彼の首に腕を絡ませ、その体を彼に押し付けた。
「待ちたくないわ、蓮」
彼女は喉を鳴らすように言った。
「あなたが彼女と一緒にいるのを考えると、嫉妬しちゃう」
彼は低く、喉の奥で笑った。「嫉妬することなんて何もないさ」
「じゃあ、証明して」
彼女は囁き、その手は彼の胸を滑り落ちていった。
「あなたが本当に欲しいのは誰なのか、見せて」
彼にそれ以上の言葉は必要なかった。
彼は彼女を抱き上げた。彼女の脚が彼の腰に絡みつく。
そして、彼は彼女を自分の車の方へ運んでいった。
彼女は甲高い笑い声を上げた。
彼は彼女を助手席のドアに押し付け、再びその口を彼女の口に重ねた。
窓はスモークガラスだったが、二人のシルエットが重なり合って動いているのが見えた。
狂おしく、必死なダンス。
私はシートに深く沈み込み、その体を影に隠した。
一筋の涙が頬を伝ったが、私はそれを乱暴に拭った。
写真で一度見るのと、生で見るのとでは全く違った。
裏切りの痛みは生々しく、再び引き裂かれた傷口のようだった。
彼の約束、誓いの言葉を思い出す。すべて嘘だった。
彼は彼女のどこに惹かれたのだろう?
彼女は若く、野心的で、そして分かりやすかった。
それだけで十分だったのか?
古く、見慣れたおもちゃを、新しくてピカピカのおもちゃに替えるように。
私はゆっくりと、深く息を吸い込んだ。そしてもう一度。
ここで崩れてはいけない。今、ここで。
私には計画がある。抜け出す方法がある。
あと、四十七時間。
その思いが、命綱だった。
私は耐える。今夜を乗り越えれば、私は自由になれる。
私はパーティーには戻らなかった。
二人で建てた、今や汚された思い出でいっぱいの、だだっ広い空っぽの家に車を走らせた。
寝室に直行し、ドレスのままベッドに横になった。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
寝室のドアが開く音で、はっと目が覚めた。午前三時近くだった。
蓮が戸口に立っていた。廊下の光に照らされて、その姿はシルエットになっている。
彼は緊張しているように見えた。
「綾子? ここにいたのか。心配したんだぞ」
彼はベッドに駆け寄り、私を見て安堵の表情を浮かべた。
「パーティーに戻ったら君がいないんだ。電話にも出ないし。何かあったのかと…」
笑いそうになった。心配?
彼が心配しているのは、彼の完璧なアリバイである、愛情深い妻が姿を消したからに過ぎない。
「遅かったのね」
私は平坦な声で言った。
「サーバーのトラブル、大変だったみたいね」
「ああ、そうなんだ」
彼は間髪入れずに答えた。
「本当に大変だった。でも、もう全部解決したよ」
彼はベッドの端に腰掛け、私の手を取った。
彼の感触が、吐き気を催すほど不快だった。
私も上手くなったものだ、と気づいた。嘘をつくこと。ふりをすること。
彼が良い先生だった。
彼は私が無事であること、彼の完璧な世界がまだ無傷であることに心から安堵しているようだった。
彼は私を抱きしめ、私の髪に顔をうずめた。
「二度とこんな風に心配させないでくれ」
彼は囁いた。
「もし君を失ったら、どうしていいか分からない。世界の果てまで探しに行くよ」
私は彼の腕の中で、完璧に静止していた。
彼の言葉が、檻のように私を包み込む。
心配しないで、蓮、と私は思った。
もうすぐ、それを証明する機会が訪れるわ。
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