フォローする
共有
裏切り者に二度目はない の小説カバー

裏切り者に二度目はない

結婚十周年の記念日、IT業界の寵児である夫・桐山蓮は盛大な宴を催した。だが、私を抱き寄せ愛を囁くその裏で、彼は愛人の莉奈と密かに愛を交わしていた。仕事と偽りパーティーを抜け出した夫が打ち上げた花火は、妻の私ではなく彼女に捧げられたものだった。翌日、身籠った姿で現れた莉奈を蓮は歓喜して迎え、私には拒み続けたプロポーズを彼女に捧げる。十年間、献身的な妻として彼を支え、倒産寸前の会社を救うセキュリティシステムを構築したのが私であることを、彼は軽んじ忘れてしまったようだ。私はすべてを捨てる決意を固め、空港へと車を走らせる。その道中、信号待ちで隣に並んだのは、皮肉にも結婚式へと向かう蓮と莉奈を乗せた礼装の車だった。窓越しに視線が合った瞬間、夫の顔は驚愕で青ざめる。しかし、私は未練を断ち切るようにスマートフォンを投げ捨て、運転手に発進を命じた。裏切りを許すつもりはない。完璧な妻としての仮面を脱ぎ捨て、私は新たな人生へと踏み出す。
共有

3

彼がパーティーを抜け出してから十分後、私もそっと会場を後にした。

業務用エレベーターで駐車場へ下り、その動きは素早く静かだった。

私の車はプライベートな区画に停めてある。

車に乗り込み、通りに出た。

彼の車を見つけるのは簡単だった。

彼が乗っているのは特注のスポーツカーで、見失いようがなかった。

私は安全な距離を保ち、ヘッドライトを消して後を追った。

彼はスピードを上げ、オフィス街から離れ、都心の新しい高級タワーマンションの方へ向かっていた。

彼は洗練された近代的なマンションの地下駐車場に入っていった。

私は通りの向かいに車を停め、様子を窺った。

数分後、森莉奈がエレベーターホールから出てきた。

彼女のプロフェッショナルな態度は消え失せていた。

シルクのローブを羽織り、髪を下ろしている。少し焦れた様子だった。

蓮の車が近づくと、彼女は彼に駆け寄った。その表情は、拗ねたような、それでいて喜びに満ちたものだった。

「遅かったじゃない」

彼女は甘えた声で文句を言った。

蓮は車から降り、満面の笑みを浮かべていた。

彼は彼女を腕の中に引き寄せた。

「パーティーから抜け出すのが大変でね」

彼は低く、親密な声で言った。

「特別な誰かのために、サプライズを用意したんだ」

彼は空の方を曖かいに指差した。そこでは、最後の花火が消えかけていた。

「気に入ってくれたかい?」

「私のために?」

彼女は目を丸くして尋ねた。

「てっきり…彼女のためのものかと」

「ずっと君のことだけを考えていたよ」

彼はそう言って、彼女に深くキスをした。

「約束する、莉奈。もう少しだけ時間をくれ。この取引が終わったら、ちゃんと片を付けるから」

私はエンジンを切った車の中で、バックミラー越しに彼らを見ていた。

何年も前の自分の言葉が、心の中でこだまする。

記念日の花火。私は彼に、そんな贅沢はやめて貯金すべきだと言った。彼は譲らなかった。

今、その理由が分かった。

壮大なロマンティックな演出は、妻のためではなかった。愛人のためのものだったのだ。

どうして私はこんなに愚かだったのだろう。

莉奈は彼の首に腕を絡ませ、その体を彼に押し付けた。

「待ちたくないわ、蓮」

彼女は喉を鳴らすように言った。

「あなたが彼女と一緒にいるのを考えると、嫉妬しちゃう」

彼は低く、喉の奥で笑った。「嫉妬することなんて何もないさ」

「じゃあ、証明して」

彼女は囁き、その手は彼の胸を滑り落ちていった。

「あなたが本当に欲しいのは誰なのか、見せて」

彼にそれ以上の言葉は必要なかった。

彼は彼女を抱き上げた。彼女の脚が彼の腰に絡みつく。

そして、彼は彼女を自分の車の方へ運んでいった。

彼女は甲高い笑い声を上げた。

彼は彼女を助手席のドアに押し付け、再びその口を彼女の口に重ねた。

窓はスモークガラスだったが、二人のシルエットが重なり合って動いているのが見えた。

狂おしく、必死なダンス。

私はシートに深く沈み込み、その体を影に隠した。

一筋の涙が頬を伝ったが、私はそれを乱暴に拭った。

写真で一度見るのと、生で見るのとでは全く違った。

裏切りの痛みは生々しく、再び引き裂かれた傷口のようだった。

彼の約束、誓いの言葉を思い出す。すべて嘘だった。

彼は彼女のどこに惹かれたのだろう?

彼女は若く、野心的で、そして分かりやすかった。

それだけで十分だったのか?

古く、見慣れたおもちゃを、新しくてピカピカのおもちゃに替えるように。

私はゆっくりと、深く息を吸い込んだ。そしてもう一度。

ここで崩れてはいけない。今、ここで。

私には計画がある。抜け出す方法がある。

あと、四十七時間。

その思いが、命綱だった。

私は耐える。今夜を乗り越えれば、私は自由になれる。

私はパーティーには戻らなかった。

二人で建てた、今や汚された思い出でいっぱいの、だだっ広い空っぽの家に車を走らせた。

寝室に直行し、ドレスのままベッドに横になった。

いつの間にか眠ってしまったらしい。

寝室のドアが開く音で、はっと目が覚めた。午前三時近くだった。

蓮が戸口に立っていた。廊下の光に照らされて、その姿はシルエットになっている。

彼は緊張しているように見えた。

「綾子? ここにいたのか。心配したんだぞ」

彼はベッドに駆け寄り、私を見て安堵の表情を浮かべた。

「パーティーに戻ったら君がいないんだ。電話にも出ないし。何かあったのかと…」

笑いそうになった。心配?

彼が心配しているのは、彼の完璧なアリバイである、愛情深い妻が姿を消したからに過ぎない。

「遅かったのね」

私は平坦な声で言った。

「サーバーのトラブル、大変だったみたいね」

「ああ、そうなんだ」

彼は間髪入れずに答えた。

「本当に大変だった。でも、もう全部解決したよ」

彼はベッドの端に腰掛け、私の手を取った。

彼の感触が、吐き気を催すほど不快だった。

私も上手くなったものだ、と気づいた。嘘をつくこと。ふりをすること。

彼が良い先生だった。

彼は私が無事であること、彼の完璧な世界がまだ無傷であることに心から安堵しているようだった。

彼は私を抱きしめ、私の髪に顔をうずめた。

「二度とこんな風に心配させないでくれ」

彼は囁いた。

「もし君を失ったら、どうしていいか分からない。世界の果てまで探しに行くよ」

私は彼の腕の中で、完璧に静止していた。

彼の言葉が、檻のように私を包み込む。

心配しないで、蓮、と私は思った。

もうすぐ、それを証明する機会が訪れるわ。

続けて視聴する!
物語はいよいよ佳境へ!アプリに切り替えて続きを読む
全エピソードをロック解除
公式サイトを開く

おすすめの作品

Alice の小説カバー
9.3
「ボクを殺したのは誰――?」鏡の向こう側で、運命の歯車が静かに回り始める。ロシア南部のクラスノダール地方に拠点を置く軍部には、最強と謳われる一人の少女がいた。コード・ゼロという名で呼ばれる彼女は、身寄りもなく、過酷な戦場をたった一人で駆け抜けてきた。感情を一切持たず、あらゆる事象に無関心なまま任務を遂行する彼女だったが、潜入捜査で訪れたある洋館で転機を迎える。巨大な鏡に映る自分と目が合った瞬間、鏡の中から白兎の耳を持つ謎の男が現れたのだ。自らを「白兎」と名乗るその男は、彼女に一つの残酷な依頼を告げる。「アリスを殺した犯人を殺してほしい」と。その言葉に導かれるように、少女は未知なる鏡の世界へと足を踏み入れる。それは、戦うことしか知らなかった孤独な兵士が、失われていた感情や「愛」という名の温もりを初めて知っていく物語。異世界の混沌と謎が交錯するなか、彼女は真実に辿り着けるのか。切なくも激しい戦いの幕が今、上がる。
記憶をなくした女将軍、運命の人を間違えました の小説カバー
8.8
崖下への転落事故によって記憶を失った女将軍の私は、目覚めた際、自らの地位と許嫁の存在のみを辛うじて覚えていた。やがて朝廷から迎えの使者が訪れた時、私は期待に胸を膨らませて再会を待ちわびる。しかし、副将が私の婚約者として指し示したのは、全く予期せぬ人物だった。その事実を到底受け入れられず、私は思わず「正気で彼を愛するはずがない」と強く否定してしまう。その言葉に皇太子は嘲笑を浮かべ、屈辱に顔を歪ませた若君は「後悔するな」と私に言い放つのだった。だが、実際に後悔の念に駆られたのは、私ではなく彼の方であった。かつての私は、彼一人を真っ直ぐに見つめ、その存在だけで心を満たしていたかもしれない。しかし、記憶を失い、一人の戦士として再生した今の私は、もはや過去の献身的な娘ではないのだ。運命の歯車が狂い始めた中で、かつての愛に縛られない新たな人生が幕を開ける。失われた記憶の断片と、すれ違う想いが交錯する、愛と運命の物語。
あなたと幸せになる の小説カバー
8.2
曾祖父同士が交わした約束により、出生前から結婚を宿命づけられていたヒラムとレイチェル。若きエリートCEOとして名を馳せるヒラムは、端正な容姿を持ちながらも、これまで一度も女性に心を動かされたことがありませんでした。彼は、目の前に現れたレイチェルのことを、無作法で騒々しい自分には不釣り合いな女性だと断じ、冷淡に言い放ちます。「結婚期間はわずか一ヶ月。その後は即座に離婚する」と。一方、類まれなる美貌を持つレイチェルには、彼女と交際した男性がことごとく不幸に見舞われるという、奇妙で不吉な噂が付きまとっていました。互いに最悪の第一印象を抱き、愛のない契約結婚として始まった二人の生活でしたが、彼らはまだ気づいていません。自分たちが、逃れられない運命の糸で結ばれていることに。周囲で巻き起こる数々の困難や予期せぬトラブルに直面しながらも、二人は次第に真実の愛へと近づいていきます。反発し合う二人が歩む、波乱に満ちた結婚生活の行方とは。現代を舞台に、孤独な億万長者と運命に翻弄される美女が織りなす、至高のロマンスが幕を開けます。
神になる の小説カバー
8.3
雲上の高みから転落し、卑しき奴隷の身へと零落したゼン。しかし、自らの肉体を武器として錬成するという数奇な転機を経て、彼の運命は激動の渦中へと投げ込まれる。神器に匹敵する強靭な身体と、何事にも屈しない不撓不屈の信念を武器に、彼は再び頂点へと這い上がるための歩みを始めた。各地の豪傑たちが覇権を巡ってしのぎを削り、一刻一刻と情勢が変転する乱世において、ゼンの出現は巨大な抗争の幕開けを告げる。あらゆる強敵をその身一つで圧倒し、打ち破ることを誓った彼が真に目覚めたとき、比類なき伝説が静かに、そして力強く動き出す。これは、過酷な境遇から這い上がり、己の力ですべてをねじ伏せていく男の軌跡を描いた壮大な冒険譚である。神のごとき躯を持つ彼が歩む道の先には、果たしてどのような結末が待ち受けているのか。周囲の思惑をよそに、ゼンはただ己の道を突き進んでいく。新たな時代の覇者となるべく、伝説の第一章が今ここに刻まれる。
離婚後、偽令嬢の正体がヤバすぎた。 の小説カバー
9.2
松本星嵐が「偽の令嬢」だと露呈した瞬間、夫や両親、兄までもが彼女を冷酷に切り捨てた。婚家を追われた彼女が次に選んだのは、名門の重鎮・坂本凛斗という新たな盾だった。周囲が破滅を予見し嘲笑うなか、星嵐は隠し持っていた真の姿を次々と解放していく。その圧倒的な実力は並み居る権力者たちを戦慄させ、跪かせるほどであった。復縁を狙う愚かな元夫を地獄の底へ突き落とす一方で、彼女は凛斗に対し「私のヒモになりなさい」と微笑む。しかし、彼もまた底知れぬ正体を隠し持つ男だった。凛斗は静かな笑みを浮かべ、妻を支配せんとする本性を現す。実はこの二人、世界を揺るがす国際組織にとって最大の脅威となっていたのだ。星嵐の離婚と凛斗の結婚、そして最強の夫婦が裏社会で手を組み、縦横無尽に暴れ回ること――。無数の裏の顔を使い分け、実力を隠して暗躍する二人の規格外な物語が幕を開ける。正体を隠した最強夫婦による、痛快な逆転劇と愛の駆け引きが今、世界を震撼させる。
この世界の人類はどうやら俺だけのようです。 の小説カバー
8.2
学校の教室の扉を開けた瞬間、主人公の視界に飛び込んできたのは見知らぬ異世界の光景だった。突然の事態に困惑する彼には、行く当てもなければこの世界の言葉を読み解く術もない。途方に暮れ、絶望に飲み込まれそうになっていたその時、一人の美しいハーフエルフの女性が彼に救いの手を差し伸べる。彼女の助けを借りてこの世界の現状を知った主人公は、驚愕の事実に直面することになる。なんと、かつてこの地に繁栄していたはずの「人類」という種族は、数年前に忽然と姿を消してしまったというのだ。なぜ自分以外の人間は絶滅してしまったのか、そしてなぜ自分だけがこの世界に迷い込んでしまったのか。広大な異世界を舞台に、人類消失に隠された巨大な謎を解き明かすための冒険が幕を開ける。元の世界にある我が家へと帰還するため、彼はハーフエルフの女性と共に、失われた種族の足跡を辿り、世界の真実へと迫っていく。孤独な最後の一人となった少年の、運命に抗う旅が今始まる。