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爺さん(元国王)旅に出る! の小説カバー

爺さん(元国王)旅に出る!

かつて一国を統治し、玉座に君臨していた老いた国王が、自らの地位を捨てて未知なる地へと足を踏み出す。本作は、剣と魔法が交錯する王道ファンタジーの世界を舞台に、隠居したはずの老王が歩む新たな旅路を描いた冒険譚である。しかし、その道程は決して輝かしい英雄譚ばかりではない。物語の根底には常に重苦しく、救いのないダークな雰囲気が漂っている。老王が手にする剣の鋭さと、放たれる魔法の威力は健在だが、それらは時に過酷な現実や人間の醜い業を浮き彫りにしていく。旅の先々で待ち受けているのは、血生臭い争いや、一筋縄ではいかない冷酷な運命の数々。華やかな騎士道物語とは一線を画す、徹底してシビアな世界観が読者を惹きつける。老いた身でありながら戦いに身を投じ、過酷な放浪を続ける元国王の目的とは一体何なのか。重厚な筆致で綴られるアクションシーンと、容赦のないストーリー展開が融合し、読者を暗く深い冒険の渦へと引き込んでいく。剣戟の響きと魔力の残滓が、老王の背中を静かに、そして残酷に照らし出す本格ダークファンタジー。
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3

第3話 トラスト

魔王軍参謀たちは会議が終わると、おのおの私的な会話に入った。

席を即座に立つ者も居れば、その場ですぐ、会話を始める者も居る。

こうした何気ない瞬間に最もその人の性格が、というよりは性質が表れる。

重厚な木製または石造りの家具や調度品、そして完全武装の守衛のせいで広く、重苦しい雰囲気を醸し出す会議室。

しかし、議長であるドライデルの、これにて終了、という号令のすぐ後にその場に居る全員が場の空気が和らぐのを肌で感じた。

「それで、先日いただいた草稿だが・・・。」

アイヒはすぐ隣に座る旧友へと向き直り、語りかける。

「どうだったかな?」

とドライデルは、少し不安を隠せない様子だ。

「素晴らしい出来映えだ、ぜひとも私の著作に加えさせていただきたい。」

アイヒは賞賛し、笑顔を見せて情熱的に訴える。

「それはよかった、ホッとしたよ。」

彼は大きく息を吐き、そして笑顔を見せて胸をなで下ろした。

すると、思いもしない提案がアイヒの口から飛び出す。

「君を共働著作者として是非、表紙に名前を加えさせてもらいたい、印税の一部も進呈しよう。」

ご恩と奉公、とは古くから経済的活動の礎でもある、彼らの共通認識だ。

「・・・助かるよ、竜人たちは本の虫が多くてね、しかも難解な物を好むのだ。」

ドライデルは尚も自分たち竜人の文化や風習について旧友の彼でさえ知らないようなトリビアを語り、アイヒの知識欲を十二分に満足させる。

二人は旧知の仲で、先の大戦では戦友だった。

仲の良い老人同士の、たわいない会話である。

「・・・クサいねえ。」

と、イガールは手にある扇を打ち鳴らしながら他の面子のことを指して呟いた。

「ああ、確かにあの二人はニオうぜ。」

彼女に賛同するルフマンは、腕を組んでイガールと同じ方向を見つめている。

二人の目線の先にはガモーとスナギがいた。

身振りと手振りから、二人がそれなりに親しい間柄であると推測できる。

「・・・かたや泣く子も黙る魔人、かたや精鋭一族をまとめる鬼か・・・。」

扇を打ち鳴らす手を止め、冷静に彼らの分析を始めるイガール。

鳥人達は直感と観察力に優れており、野生動物の鷹と同じ印象を魔族全体に抱かせる。

「社交会のベストカップル、って訳じゃなさそうねえ、流石に。」

扇を広げ、顔を扇ぎながら少しおどけた調子ですぐ側に立つルフマンに小声で言う。

彼らは部屋の片隅でひっそりと立っている。

戦場に長らく身を置いていた彼らは、無防備な体勢は極力、取らない癖が付いてしまっているようだ。

広い部屋の片隅なら、必然的に視線の移動量が増えて他者から見つかりにくくなるのだ。

誰かから教わったのか、自然に身についたのかは実際に彼らに尋ねるしかないだろう。

人間とはかけ離れた外見だが。

「イガール、それを言っちゃあ俺たちも変わらんだろう?」

獣の外見と人間の等身を併せ持つ彼らは、自身がいかに異質に見えるのか客観的に認識している場合も多い。

「・・・それもそうだねえ?」

楽しそうに笑いながら言うイガール。

ルフマンの顔にも笑みが浮かぶ。

しかし、瞬時に彼の表情は引き締まり、獲物を見つけた直後の狼と同一の印象を抱かせる。

「・・・それとなく連中を見張ることは、出来そうか?」

彼の真意は不明だが、明らかに二人を完全に信用して何か大切な物を渡したり預けたりする様子ではない。

「あいつら二人と、その手勢だ。」

彼らには見えぬよう、小さく指さしながら彼女に言うルフマン。

それを受けてイガールもすぐに真剣な表情と声色に変わる。

「そうねえ・・・予定ではあいつら二人はすぐ現場に向かうから、アタシの弟に二人と連中の軍勢を見張らせるよ。」

獣の外見を持った彼らの兄弟仲という物は非常に単純である。

付かず離れずの仲か、絶交状態か、もしくは非常に仲が良いかのどれかである。

このことは彼らにとって常識的な事柄である。

「イガール、助かるぜ、俺じゃ臭いがキツすぎてすぐ見つかっちまう。」

自分の頭を撫でた後におどけて笑いながら言うルフマン。

それを受けてイガールも微笑みながら頷く。

匂う、と言った彼らであるが、実情は獣の匂いを纏う彼らこそ体臭はきつくなるものだ。

しかし、再び、ルフマンの双眸は怪しい光を帯びる。

「・・・ヤバくなったら俺たちの巣窟に逃げ込みな、守ってやるぜ。」

とルフマンはイガールの肩を優しく叩きながら語りかけた。

「・・・期待させて貰うよ?」

イガールは微笑みながら、気の置けない異性に告げた。

その後、二人は別れ、イガールは弟の元へ向かい、部屋を後にする。

先ほどの内容を早速、実行に移すようだ。

ルフマンは甲高い靴音を響かせながら扉を出る彼女の背中を見送ると、ため息をついて魔人と鬼人を見据えた。

「・・・すぐここを出るのか?」

とスナギに尋ねるガモー。

オークの中でも特に体格の良いガモーは、非常に引き締まり筋肉質な体型をしているスナギと好対照といえる。

「伝令を出さねば、我が直接出向けば話が早い。」

とスナギは少し残念そうに眉をひそめてガモーに告げる。

長旅に備え、足甲の紐をきつく結び直している。

すぐ側の卓上には黒いつや消しの鞘と柄をした見事な刀が置いてある。

剣術と弓術の達人であるスナギにぴったりの装いをした刀といえ、事実最も彼女が愛用している物だ。

「・・・道中の安全は?」

静かだが、重みのこもった口調で心配するガモー。

慎重過ぎて損をすることはあまりない、と普段の彼は良く語る。

足甲の次は手甲の紐を結び直すスナギを、腕を組みじっと見つめる。

「案ずるな、ここから東国までわずか4日だ。」

紐を結び終えた彼女は歯を見せながら微笑み、ガモーの肘を叩き言う。

二人共に当てはまるが、やはり武人とは剛毅な気質をしているものである。

特に鬼の頭領を務める彼女ならなおさらだ。

「道中に人間はいやしないさ、有るのは荒涼とした氷河のみ。」

今のところ出来る支度を終え彼女は卓上の刀を手に取りながら、なおも笑顔で言う。

「そうか・・・?」

と、口ごもるガモー。

なおも不安げな様子だ。

その顔色をうかがい、小さくため息をついたあと微笑みながらスナギは柔らかい口調で彼へと尋ねる。

「どうした?そなたらしくもない。」

スナギに気を遣わせてしまい、少々申し訳なく思ったのであろう、ガモーは慌てて素直に話を始める。

「いや、ここ数日、兵士たちの間で妙な噂がたっているのだ。」

「どのような?」

と、スナギ目を丸くしながら尋ねる。

戦場に赴く直前においては、準備と待機が彼ら兵士の役目である。

特に、共に死線をくぐり抜ける戦友たちを傍らに置いてすることと言えば根も葉もない噂話や世間話である。

プロ意識に欠ける、と言ってしまえばその通りだが、彼らも家族を故郷に置いてきた青年達である。

その心情をくみ取り、ねぎらうのは優秀な指揮官に無くてはならない素質だろう。

スナギとガモー二人に関して言えば、素質は十二分にあると言える。

「・・・鬼の軍勢を指揮官に据えて、俺たちオークやゴブリンは下級兵士としてぞんざいに扱われる運命なのだ、と。」

禿げた自らの頭を撫でながら、実際に部下から受けた陳情を口にするガモー。

言うのが辛い様子ではあるが、自らと共に戦地へと赴く部下たち二つの内情を天秤に掛けて尚も語るガモー。

「俺には理解出来る、俺たちは人間に使役されていた・・・だから人語を理解し、社会性を身につけたのだ。」

いつの世も敗者の行く末は悲惨である。

戦争に負けた者たちの行く末は、特にそうである事は想像に難くない。

今より数百年ほど前、部族社会を重んじるオークやゴブリン達は、自分たちだけの言語や文化を持っていたのであろう。

しかし、より高度な社会性と武装を身に付けた人間達に見つかり、駆り出されてしまった様子。

また、人間が持ち込んだ伝染病に感染してしまい、次々と倒れた者も居るはずだ。

戦意と戦力を失った彼らを待っていたのは、終わりのない奴隷労働である。

人間より大きな体格を持ち、なおかつ人間の道具を扱えるオークの男性達。

彼らは人間がやりたがらない未開地の開墾や大量の樹木、岩石を運搬する作業に当たらされた。

行き倒れたオークも少なくはないだろう。

人間より小さな体格を持ち、手先の器用なゴブリン達は鉱山における採掘や地下道の建設にもっぱらあたっていた。

また、これらの作業は普段、一般の人間が立ち入らない場所でのみ実施され当時、監視の兵士や政治高官でしか知り得ない事柄であった。

しかし、今はもう違う。

人間の言葉と社会性を学び、身につけた彼らはひっそりと行動を起こし、家族を伴い徐々に北へ移動した。

そして機が熟すと、自らを支配する人間たちに反乱を起こし、支配から脱却したのである。

輝かしいが、血なまぐさい過去である。

「・・・またそのような輪廻の輪が回ってくる、と?」

鬼と呼ばれる一族の歴史も似たり寄ったりではあるものの、差異が認められる。

鬼の場合、東の果てにある島国周辺の小島で暮らしていた。

いつか、巨万の富を築いた東国の人間社会に認められる時を夢見て、彼ら鬼一族は幼少期より研鑽を積み、武芸に磨きを掛けた。

しかし、東国の将軍たちはその武芸と心情を利用した。

鬼たちを待っていたのは、危険度と難易度が非常に高い暗殺や破壊工作に従事する日々である。

自分たちと異なる外見を持ち、なおかつ高い戦闘能力を持つ鬼たちならば簡単に捨て駒にする事ができる。

鬼の武芸者達に出来た事は少しでも戦闘技術を高め、わずかでも生存率を引き上げることのみであった。

いつか必ず人間達を抹殺し、その富を奪うという共通認識を持ち今日まで生き延びてきた。

復讐は既に果たされた後である。

東の島国に人間はもう住んでは居ない。

全員が追い出されたか、殺戮された。

奇妙にも、この事象は彼ら鬼一族の戦闘技術を証明する結果となった。

そして、新参者とはいえ、両手を広げて魔王軍団に迎え入れられた。

スナギの言葉に頷くガモー。

もちろん、お互いの一族が持つ暗い歴史は存じている。

しかし、スナギは明るく微笑み、ガモーの不安を払拭した。

「案ずるな、そのような事はない。」

スナギは嘘をつくのが苦手で、心底嫌っている。

人間達に散々、嘘をつかれ影に追いやられたのは他でもない鬼一族であるのだ。

彼女の口から真実のみが出でる事は、彼女が持つ刀が良く切れるのと同じくらい正直な事実である。

これは部下に対しガモーが語った事である。

「・・・本当か?」

ガモーの表情は多少、明るくなる。

続けてスナギは頷きながら報告する。

「本当だとも部下に聞けば、我ら精鋭の合同訓練は非常に上手くいっている、というそうだ。」

ルフマンとは対角線上の部屋の片隅に東国の鎧兜を纏った鬼が立っている。

彼が素早く報告をしたのであろう。

まるで中に何も入っていないかのごとく、微動だにしていない。

「休憩の合間にもお互いを高め合うような言動が見られるそうだ。」

まるで自分の自慢話をするかのように満面の笑みを浮かべて語る彼女。

「そうか・・・!」

笑みをこぼすガモー。

違う民族同士だが、根本にあるのはプロ意識と忍耐、そして友情である。

奇しくも、鬼とゴブリン、そしてオーク達は共通項が多い。

それが良い方向に作用した様子。

「ああ、そうだとも、我らは同じ境遇だ。」

ガモーの二の腕を触ると、暗い表情で彼の顔から視線を外し、語り出すスナギ。

「人間に使役され、影で生きる事を余儀なくされ、最後にはうち捨てられた存在・・・思えば、我ら二人の初対面もそうであったろう?」

最後にはガモーに視線を戻し、笑顔で彼に語りかける。

「確かに、懐かしい。」

笑みをこぼすガモー。

「さて、出立だ。」

兜を被るスナギ。

それを受け、部屋の隅に佇む鎧武者もスナギの方へと歩み寄る。

「・・・これを持って行け。」

慌てて身につけていた大きな弓と大量の矢が収まった矢筒を差し出すガモー。

「・・・これは?」

怪訝な顔で尋ねるスナギ。

ガモーの動作を受け、鎧武者も立ち止まる。

「愛用の弓矢、君なら扱えると思ってね。」

大きなガモーの両手からそれを受け取ると、お辞儀をするスナギ。

すると、ガモーは笑顔で付け加える。

「俺は棒を振り回すのが性に合っている。」

「・・・かたじけない、ありがたくいただく。」

スナギが礼を言うのに合わせ、鎧武者もお辞儀をした。

「・・・では、名残惜しいが失礼いたす。」

ガモーは旅立つ鎧武者とスナギの背中を小さくなるまで見つめていた。

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