フォローする
共有
爺さん(元国王)旅に出る! の小説カバー

爺さん(元国王)旅に出る!

かつて一国を統治し、玉座に君臨していた老いた国王が、自らの地位を捨てて未知なる地へと足を踏み出す。本作は、剣と魔法が交錯する王道ファンタジーの世界を舞台に、隠居したはずの老王が歩む新たな旅路を描いた冒険譚である。しかし、その道程は決して輝かしい英雄譚ばかりではない。物語の根底には常に重苦しく、救いのないダークな雰囲気が漂っている。老王が手にする剣の鋭さと、放たれる魔法の威力は健在だが、それらは時に過酷な現実や人間の醜い業を浮き彫りにしていく。旅の先々で待ち受けているのは、血生臭い争いや、一筋縄ではいかない冷酷な運命の数々。華やかな騎士道物語とは一線を画す、徹底してシビアな世界観が読者を惹きつける。老いた身でありながら戦いに身を投じ、過酷な放浪を続ける元国王の目的とは一体何なのか。重厚な筆致で綴られるアクションシーンと、容赦のないストーリー展開が融合し、読者を暗く深い冒険の渦へと引き込んでいく。剣戟の響きと魔力の残滓が、老王の背中を静かに、そして残酷に照らし出す本格ダークファンタジー。
共有

1

カクヨム

第1話 三度目の門出

果たして世界には中心部、と呼べる物が存在するのであろうか。

この物語の舞台となる大陸において言えば、中心は明らかに西の大国、ウィンスト王国である。

古代より発展と他国との共働の道を突き進んできた経済大国ウィンスト。

他民族や他文化を柔軟に受け入れてしまう懐の深い国民性も古代より養われている。

そのため、エルフ、ドワーフといった人間に近い種族は里を出たらまず、ウィンスト王国を目指す、と言われているほどである。

 といっても、現在のこの世界は中世の火薬と帆船が欠かせなくなってきた時代背景となっている。

するとどうであろうか。

以前にも増して地域におけるウィンスト王国の存在感は増し、良質で大規模な港を抱えていた事が、それに拍車を掛けた。

大量物流と、果てしない冒険の時代へと100年ほど前から突入しているのである。

だが、この事を快く思わない種族がいた。

人間から見て異形の者たちである。

魔族、まぞく、とは、そういった者達に人間が勝手に付けた呼び名である。

緑色や毛皮を纏った肌をし、目の色や体格も人間とは異なる。

 思えば、遥かに小規模ではあるものの、以前から彼らとの紛争は絶えなかった。

土地、文化、そして人命と資産を守る戦い。

そこに常識的な正義など介在する余地は無かった。

勝利と敗戦を幾度と無く繰り返し、人類も魔族も離合集散の末にようやく地盤を確保しつつあった。

しかし、大戦は勃発した。

魔族も人類も総力を挙げた血みどろの戦い。

土地も、文化も、そして人命も資産も全てつぎ込み、互いが互いの生存のみを賭けて戦った。

この世界は、既に2度の大戦を経験している。

70年前と、30年前の二度である。

一度目は、お互い初体験という事もあり手探りで始まった。

しかし、あっという間により効率的に相手を倒す手法、戦術を生み出すと即座に戦場に投入した。

犠牲者の数は膨れあがったが、戦場において彼らは捨て置かれた。

すると、人類軍は魔族と比べより高度な戦術を、次々生み出すと瞬時に投入する。

また、様々な体格、体型、そして言語と文化をした魔族に対し、人類はそれら三つをおおむね統一し対抗する。

初めは小さな差異に過ぎなかったが、戦況を鑑みると徐々に歴然とした差になっていく。

そして人類は魔族に対し、勝利したのである。

敗戦した魔族は土地と資産を戦後賠償という形で大量に手放し未開地だった極北の地へと追いやられた。

二度目の大戦は、戦場の様相以外は戦争とは呼べなかった。

滅多に人命が失われないからである。

あらゆる手段で互いを偵察し、分析すると共に先手を常に打ち続ける。

先の大戦の記憶が鮮明な事も手伝い、お互いの国民は反戦的だった。

特に勝利した人類側は栄光の日々を謳歌していた。

しかし、職業軍人達は全く違う現実を当時は生きていた。

あるときは、息も凍る、凍てつく大地で。

またあるときは、うだるような暑さと湿気の密林地帯で。

互いに極限状態へと追い込まれながら、それでも戦う。

国民は遠く離れた安全地帯から、それを日報として受け取る。

自らが勝利しつつある事を確認するか、負けつつあると分かっても今の現状には支障が出ない事を確認すると、忙しい各自の生活へと戻って行く

身内に軍人が居る者以外は彼らの心中は察する事が出来なかった。

そうした軍人の一人にして彼らの頂点に立っていた男が、物語の主人公、サミュエルである。

今でこそ愛する妻と息子、そして息子の妻、愛犬に囲まれて平和な暮らしを謳歌しているサミュエル。

しかし、彼の身体と心には深い爪痕が残っている。

その事を詳しく知るのは、当時から付き合っていた彼の妻メリンダと、間近で彼の様子を見ていた側近たち、そして本人のみである。

いつものように朝日が昇る直前に悪夢にうなされ、目覚めたサミュエル。

思えば、先の大戦から30年が経ち、今日が終戦記念日で自分がウィンストに凱旋した日でもある。

だが、即位してからというもの常に勝って兜の紐を締める状態が今日まで続いている。

絶対に終わりは来ない。

彼ら魔族の長、魔王は倒れ、そして引き続いて指揮を執るその妃。

自分が30年前に妃を倒した。

妃が息絶える直前に自分に放った言葉が常に頭から離れなかった。

そのため、平和な世になっても他国との軍事演習、経済協力、兵士の質と量の強化を怠らなかった。

その過剰とも言える政策に周囲の首脳陣はおろか、他国の首相から苦言を呈されることも少なくなかったが、世界平和のため、と強硬に押し切ってきた。

数年前、息子が即位し、おととしには近隣国の姫と挙式をした。

もう人生の重要なイベントは既に見納めかもしれない。

そう思った矢先である。

息を切らした伝令たちが慌てながら会議室と軍参謀、そして大臣の寝室を行ったり来たりしている。

伝令の兵士に何事か、と訪ねると詳細は分からないがどうやら魔物が総力を挙げて北から攻めてくるらしい、その宣戦布告があったようだ、と。

遂に来たか、サミュエルは不思議と冷静だった。

常に心構えをしていたためだ。

朝食を食べる暇も惜しみ、首脳陣が結集した会議がすぐに行われた。

もちろんサミュエルも参加した。

陸・海軍の元帥による分析、各大臣の情報提供をまとめると・・・。

30年前、北の果てに追いやった魔物達だが、討ち漏らした軍勢はどうやら各国に潜伏し、北の総本山と密接な連絡を取っていたようだ。

今日はこの国のみならず、人類世界全体にとっても重要な祝日であるが、彼らにしてみれば王族を殺された苦い記憶を思い起こさせる日である。

宣戦布告は明確でまるで法律文書のように整った文言で各国首脳陣に直接届けられたが、配達方法は不明。

具体的な魔物軍の規模や練度・装備などは全く分からないが、30年間の鍛錬と蓄えがあると見てまず間違いない。

具体的な進行開始の日時、場所は不明なので防御策を取りにくい。

慌てる首脳たちにサミュエルの息子、現役の国王であるミカエルが臨戦態勢と非常事態宣言の伝達、そして各国の首脳たちにもそうするよう勧める文書をすぐに送る事を決定し、会議は終了した。

手塩に掛けて育て、たくましく成長したミカエルの姿を見て、サミュエルの心は決まった。

最小限の装備のみを携えて魔王軍を偵察する旅に出よう、と。

自分はもう、すっかり役目を終えたのだ。

こう言った形で不本意ではあるものの、以前から世界中を旅して回りたい、と常々思ってはいた。

今回の場合、見聞を広げると共に、軍人だった自分の技術を活かす事もできる。

また、30年間国王を務めた経験と地位を利用し、兵卒と比べて遥かに多くの貢献が出来る。

一石二鳥どころの話ではない。

義務が生じた場合、それを果たすのみ。

古代より軍人に戒められてきた訓示である。

国民や首脳の見送りは必要ない。

手紙で随時連絡すれば良いだろう。

明らかに偵察任務の様相を呈しているからである。

盛大に見送られては、とても偵察とは言えない。

会議を終えると、半ば放心状態で自室へと戻るサミュエル。

そして、長い間仕舞い込んでいた鎧や兜、大きな背嚢や寝具をクローゼットやベッドの下から引っ張り出し、埃を丁寧に払う。

ゆっくりと旅支度をするサミュエルを妻のメリンダが見つけ、彼女はすぐに悟った。

止めても無駄で、自分に出来る事は見送ることと、準備を手伝うことのみであると。

30年前、魔王妃を討伐したあの日と同じように。

おすすめの作品

偽装死から始まる復讐劇 の小説カバー
8.0
誰もが憧れるような理想の家庭を築き、カリスマ建築家の夫と愛する息子に尽くすことこそが私の幸福だった。しかし、その日常は残酷な裏切りによって崩壊する。夫は不倫に溺れ、あろうことか最愛の息子までもがその愛人を新しい母親として受け入れ、私を裏切っていたのだ。結婚記念日の夜、夫が用意した見せかけのサプライズの場で不倫相手が姿を現し、公衆の面前で私との関係を嘲笑いながら暴露した。家族という絆も、信じていた愛もすべてが偽りだったと悟った時、私の心には猛烈な憎悪の火が灯る。私はすべてを捨てて復讐に生きることを決意し、失踪屋の手を借りて自らの死を偽装した。翌朝、世間には「長谷部直世、海難事故で死亡」という偽のニュースが流れる。死人となった私は姿を変え、私から居場所と尊厳を奪い去った者たちを地獄へ突き落とすための冷徹な計画を開始する。これは、絶望の淵から這い上がった女による、壮絶な復讐劇の幕開けに過ぎない。
偽りの寵妾、真の目的は命 の小説カバー
7.9
幼い頃から実の姉妹のように育ったお嬢様と私。名家のお嬢様には科挙を首席で突破した状元の婚約者が決まり、誰もがその幸福を信じて疑わなかった。しかし、婚礼前夜に一族を襲った突然の悲劇がすべてを奪い去る。滅門の危機を逃れ、婚約者を頼りに雨の中を彷徨う二人だったが、お嬢様は何者かに拉致され、最後は誰にも看取られることなく枯れ井戸に身を投げるという無念の最期を遂げた。生き残った私は、かつてお嬢様の夫になるはずだった男の「寵妾」として迎え入れられる。やがて彼の唯一の血を引く子を身ごもり、皇族の姫からは激しい嫉妬の矛先を向けられ、男からは掌中の珠のように深く愛される日々。しかし、その甘美な生活の裏側にある真実を、まだ誰も知らない。私の正体は、慈しみ育ててくれた家族と、尊厳を奪われたお嬢様の無念を晴らすために現れた復讐の鬼なのだ。愛に溺れる男の命を奪い、一族を滅ぼした者たちへ報復を果たすため、私は偽りの寵愛を受け入れながら、静かに刃を研ぎ澄ませていく。
格闘チャンプの異世界無双 〜地球最強の男、異世界で更なる高みを目指して無双する〜 の小説カバー
9.4
地球上で最強の称号をほしいままにしていた格闘家、東堂院力也。彼はある日、居眠り運転のトラックから子供たちを救うために自らの命を投げ出した。しかし、次に彼が目を覚ました場所は、現代日本ではなく見知らぬ深い森の中だった。状況を把握しようとする力也の耳に、突如として女性の悲痛な悲鳴が響き渡る。現場に急行した彼が目にしたのは、卑劣な男たちに組み伏せられ、服を剥ぎ取られようとしている無抵抗な女性の姿だった。武器を一切持たない丸腰の力也に対し、賊たちは「消えろ」と嘲笑を浮かべて脅しをかけるが、彼こそが世界を制した拳の持ち主であることを彼らはまだ知らない。異世界の地で、圧倒的な格闘技術を武器に弱きを助け、さらなる強さを追い求める力也の冒険が幕を開ける。数多の強敵をなぎ倒し、未知なる世界をその拳一つで突き進む、格闘チャンプによる異世界無双譚がいよいよ始まる。
愛しの妻は、か弱いフリした猛獣でした の小説カバー
9.2
たった一度の過ちが、小野凛の運命を大きく変えてしまう。彼女が関わってしまったのは、日本において絶対的な権力を持つ、最も尊き男だった。男の前で凛が演じるのは、言葉すら満足に紡げないような、無垢で愚かな少女の姿。しかし、その仮面を脱ぎ捨てれば、彼女の本性は冷徹な処刑人であり、裏社会を統べる最強の「支配者」としての顔を持っていた。石神颯介は「彼女は繊細で泣き虫な存在だ。傷つける者は容赦しない」と豪語するが、凛に屈した名家たちは、そのあまりの認識の差に沈黙するしかない。そんなある日、凛は颯介の手をすり抜けて姿を消してしまう。愛する者を失った男は狂気に染まり、世界を敵に回してでも彼女を連れ戻すと誓う。彼女が翼を広げて羽ばたくなら、さらに高い場所へと押し上げよう。だが、ひとたび夜の帳が下りれば、彼は厚顔無恥な態度で甘く迫るのだ。「ねえ凛、今夜もキスは許してくれないのか?」と。強大な力を振るう男と、正体を隠した猛獣のような女。二人の歪な愛と執着が、静かに世界を揺るがしていく。
騙されて書かされた離婚届。それが、クズ夫の地獄へのパスポート。 の小説カバー
8.0
警察組織の精鋭交渉人として、数々の難事件を解決してきた主人公。しかし、ある飛び降り自殺の現場で直面したのは、あまりにも残酷な真実だった。命を絶とうとしていた女性は、あろうことか自分の夫のアシスタントであり、二人が裏で不倫関係にあることを告白したのだ。さらに衝撃的なことに、夫は愛人の機嫌を取るために主人公を巧妙に欺き、すでに離婚届に署名させていた。信じていた伴侶の卑劣な裏切りを知り、深い絶望の淵に立たされた彼女だったが、やがて毅然とした決断を下す。不誠実な夫との過去を清算するため、彼女は過酷な秘密軍事訓練への参加を決意し、一人の自立した女性として新たな道を歩み始める。一方、身勝手な欲望のためにすべてを捨てた夫には、取り返しのつかない喪失感と、逃げ場のない地獄のような後悔が待ち受けていた。裏切りから始まる再生と、因果応報の結末を描く現代ドラマ。
天下界の無信仰者(イレギュラー) の小説カバー
8.4
三体の神が定めた絶対的な法則「神理」がすべてを支配する世界、天下界。この地で生きる人々は、三つの神理のいずれかを深く信仰し、神からの恩恵を授かることで日々の営みを送っていた。しかし、そんな神の秩序が絶対とされる社会において、ただ一人だけ神を信じぬ「無信仰者」として生きる少年がいた。少年の名は神愛。周囲から異端として激しい迫害を受け、孤独な日々を過ごしていた彼の前に、ある日、自らを奴隷と称する謎の少女ミルフィアが姿を現す。なぜ神愛は神理の加護を受けない無信仰者となったのか、そしてミルフィアが現れた真の目的とは何なのか。輪廻の果てに結びつけられた二人の邂逅は、停滞していた世界の運命を大きく変える新たな戦いの火蓋を切ることになる。これは、既存の神話をも凌駕する新たな伝説の始まり。神が作り上げた盤石な秩序を根底から揺るがすイレギュラーな存在が、閉ざされた世界の理に挑む。過酷な運命に抗い、自らの道を切り拓く壮大なファンタジー・アクションが今、ここに幕を開ける。