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結婚記念日に失った愛と子宮 の小説カバー

結婚記念日に失った愛と子宮

結婚記念日の夜、斎藤麻耶子を襲ったのは、腹部を貫く激痛と絶望だった。意識が遠のく中、心臓外科医の夫・航輝に必死の思いで助けを求めるが、電話に出たのは彼の幼馴染である由佳璃。彼女のパニック発作を理由に、夫は妻の悲鳴を無視して電話を切ってしまう。結局、独りで救急搬送された麻耶子は、お腹の命と子宮を同時に失うという残酷な現実を突きつけられた。翌朝、ようやく現れた航輝は謝罪するどころか、「大袈裟に騒ぐな」と冷酷な言葉を浴びせる。生死の境を彷徨う妻より、仮病の女を優先した夫。その瞬間、麻耶子が八年間抱き続けた愛は完全に潰えた。彼女は退院と同時に離婚届を突きつけ、住まいを解体して彼の前から跡形もなく姿を消す。数ヶ月後、事の重大さと真実を知り、後悔に打ちひしがれた航輝が復縁を求めて現れるが、時すでに遅し。彼女の傍らには、かつての夫とは違い、命を懸けて自分を慈しみ守ってくれる新たなパートナーの姿があった。裏切りが招いた破滅と、再生を描く愛憎の物語。
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斎藤麻耶子 POV:

結婚記念日の夜, 腹部を焼くような激痛と大量の出血で目が覚めた.

薄れゆく意識の中で, 心臓外科医である夫・航輝に助けを求めようと電話をかけた.

しかし, 受話器の向こうから聞こえてきたのは, 彼の幼馴染である由佳璃の声だった.

「航輝は今, 手が離せないの. 私がパニック発作を起こしちゃって」

そう言って電話は一方的に切られた.

私は独り救急車を呼び, 緊急手術を受けたが, お腹の子供と子宮の両方を失ってしまった.

翌朝, ようやく連絡がついた航輝は, 私の言葉に耳を貸そうともしなかった.

「由佳璃は本当に苦しんでいるんだ. 君まで大袈裟に騒いで, 僕を困らせないでくれ」

私が生死の境を彷徨っていた時, 彼は仮病を使った女を優先したのだ.

絶望の中で, 私の八年間の愛は完全に冷め切った.

私は退院と同時に離婚届を送りつけ, 家を解体し, 彼の前から姿を消した.

数ヶ月後, 真実を知り, 全てを失った航輝が泣きながら私の前に現れた.

「麻耶子, やり直そう. 僕には君しかいないんだ」

しかし, 私の隣にはもう, 私を命がけで守ってくれる別の男性が立っていた.

第1章

お腹が, 焼けるように熱い.

子宮がねじ切れるような激痛に, 私は真っ暗な寝室で飛び起きた.

全身から冷や汗が噴き出す.

隣のベッドは冷たいシーツが広がるばかりで, 航輝の姿はなかった.

また, 徹夜か.

優秀な心臓外科医の彼が, 私との結婚記念日を忘れるはずがないと, 自分に言い聞かせる.

激痛はますます激しくなり, まるで刃物で内臓を掻き回されているようだった.

息が詰まる.

震える手でスマートフォンの画面を開き, 航輝の番号をタップした.

心臓が喉まで飛び出してきそうだった.

電話はすぐに繋がった.

しかし, 聞こえてきたのは, 知らない女の声だった.

「あら, 麻耶子さん? こんな時間にどうしたの? 」

由佳璃の声は, 私の苦痛を嘲笑うように, 楽しげに響いた.

私は痛みに喘ぎながら, か細い声で訴えた.

「こうき…航輝, を…呼んで…お願い…」

由佳璃は, ため息混じりに言った.

「航輝は今, 手が離せないの. 私がパニック発作を起こしちゃって. あなた, こんな時までワガママ言わないでよ」

そう言うと, 由佳璃は一方的に電話を切った.

再度, 航輝に電話をかけた.

しかし, 今度は電源が切られているというアナウンスが流れるだけだった.

私の世界が, 音を立てて崩れていく.

激痛と絶望が, 私の体を硬直させた.

お腹から, 温かいものが流れ出す感覚があった.

私は震える手で救急車を呼んだ.

意識が朦朧とする中, 私は這って玄関に向かった.

鍵を開けなければ.

救急隊員が, 入れなかったら.

朦朧とした意識の中で, 遠くからサイレンの音が聞こえた.

それは, 私を助けに来た音ではなかった.

私を, 置き去りにする音だった.

病院に運び込まれ, 私は緊急手術を受けた.

医師は, 私の意識が薄れる中で「重度の常位胎盤早期剥離」と告げた.

「お子さんは…」と言いかけたところで, 私は意識を失った.

手術は深夜まで及んだ.

その間, 航輝からの連絡は一切なかった.

彼は, 私の緊急事態を知る由もなかった.

翌朝, 私は薄暗い病室で目を覚ました.

主治医が沈痛な面持ちで語った.

「流産です. 大量出血で, 子宮摘出の可能性もありました」

私は, 自分の下腹部にそっと触れた.

そこには, 何もなかった.

空虚な空間だけが広がっていた.

「私の赤ちゃん…」

かすれた声が, 虚しく響いた.

私の目から, 涙が溢れ落ちた.

航輝は, まだ連絡してこなかった.

彼の冷淡さに, 私は深く傷ついた.

しかし, 私は彼に真実を伝えなければならないと思った.

私は震える指で, 再び航輝の番号をタップした.

今度は一回で繋がった.

彼の声は, 疲れているようだった.

「麻耶子? 何かあったのか? 」

彼は, 私が倒れたことを知らないようだった.

私は, 涙声で言った.

「航輝…私…」

しかし, 彼の言葉が私の言葉を遮った.

「由佳璃がね, またパニック発作を起こして. 昨夜からずっと付きっきりなんだ. 君も少しは大人になって, 僕を困らせないでくれないか? 」

彼の声には, 私への苛立ちが滲んでいた.

私は絶望した.

「航輝, 私…病院にいるのよ…」

私は震える声で告げた.

「赤ちゃんが…」

しかし, 彼の言葉は, 私の心を深く抉った.

「またそんなこと言って. 君はいつも大袈裟なんだ. 由佳璃は本当に苦しんでいるんだから, 君まで大騒ぎしないでくれ」

彼の声は冷たく, 私を突き放した.

その時, 電話の向こうから, 由佳璃の声が聞こえた.

「航輝, どこ行くの? 私, 一人じゃ怖いの…」

由佳璃の声は, 甘く, か細かった.

私は, すべてを悟った.

航輝は, 私に「ごめん, また後でかけ直す」と一方的に言い放ち, 電話を切った.

私の手から, スマートフォンが滑り落ちた.

私の心は, 完全に砕け散った.

航輝にとって, 私は何だったのだろう.

彼の言葉が, 私の心臓を握り潰した.

私は, 彼の愛に溺れていた時期の自分を思い出した.

あれは, 航輝の声だったか?

私の知る航輝ではなかった.

私は, 彼が私を愛していると信じていた.

全て, 私の思い過ごしだったのか.

私は, 乾いた笑い声を上げた.

その声は, 病室の冷たい空気に吸い込まれていく.

私の人生は, この笑い声と共に, 終わるのだ.

私は, もう, 泣かなかった.

泣くことすら, 忘れてしまったように, ただ, 呆然と天井を見つめていた.

私の目の奥から, 温かいものが, もう, 何も, 出てこなかった.

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