
絶縁令嬢の華麗なる逆襲
章 2
誰1人として結衣を振り返る者はいない。まるで忘れ去られたゴミのようだった。
結衣はただ、怜子が佐藤家の面々に宝物のように扱われながら連れ出されていくのを黙って見送るしかなかった。
目を閉じると、一筋の涙が頬を伝って落ちた。
再び目を開けたとき、待ち受けていたのは下劣な笑みを浮かべ、じりじりと距離を詰めてくる男たちの醜悪な姿だった。
「可哀想になァ。あいつらに捨てられた分、俺たちがたっぷり可愛がってやるよ。それにしても、あの佐藤家が偽物の令嬢を守るために、本物の長女を見捨てるとは誰も思わねえよな?」
「教えてやろう。今回の誘拐はな、お前を消すためにあの女が金を出して仕組んだ計画なんだよ、お嬢ちゃん」
「おいお前ら、慌てるな。1人ずつ順番だ……全員で楽しもうぜ」
結衣の瞳孔が急激に収縮し、抑えきれない怒りが津波のように全身を駆け巡った。
「触るな!」必死に抵抗したものの、強烈な平手打ちを食らい、視界がぐらりと揺れた。
「威勢がいいじゃねえか」リーダー格の顔に傷のある男が、下品な笑い声を上げながら彼女の胸元を引き裂いた。「そういう強気な女、嫌いじゃねえぜ――」
結衣の背中は冷たい壁に張り付き、もはや逃げ場はなかった。喉はとうに枯れ果てている。じわじわと迫り来る男たちを前に、拘束されて身動き一つ取れない彼女は、深い絶望の淵に突き落とされた。
結衣はガバッと顔を上げ、すべてを終わらせようと、そのまま勢いよく壁に向かって頭を打ち付けようとした。
その瞬間、突如として――。
「パンッ!」
耳を劈くような銃声が、倉庫の静寂を切り裂いた。
男たちは顔面蒼白になり、パニックに陥りながら銃声の方向へと一斉に視線を向けた。
見れば、10数人の黒服の男たちが倉庫になだれ込んできている。一糸乱れぬ動きで2列に整列する彼らが放つ圧倒的な殺気が、瞬く間に空間全体を支配した。
その中心を割って、長身で引き締まった体躯の男がゆっくりと歩みを進めてくる。
差し込む光が、男のシャープな顎のラインと底知れない深淵のような瞳を浮き彫りにした。その身から立ち上る凄まじい威圧感と冷徹なオーラは、ただそこにいるだけで背筋を凍らせる。
男の手に握られた洗練されたデザインの拳銃からは、まだ薄く硝煙が立ち昇っていた。
男は低く響く魅力的な声で言い放った。「死にたくなければ、今すぐ手を止めろ」その声には、一切の反論を許さない絶対的な冷酷さが宿っていた。
久我蓮司は裏切り者を追跡してこの場所までやってきたのだが、まさかこんな三文芝居のような場面に遭遇するとは思ってもみなかった。
本来なら他人の厄介事などに関わるつもりは毛頭なかった。裏社会の抗争や身代金目的の誘拐など、このスラムのような廃墟街では日常茶飯事にすぎない。
しかし、興味を失って背を向けようとしたその刹那、視界の端に映った女の横顔――青白く、それでいて強い無念を滲ませたその表情に、なぜか胸を刺すような強い既視感を覚えたのだ。
だから彼は、引き金を引いた。
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