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十年間の忍従、復讐の調香師 の小説カバー

十年間の忍従、復讐の調香師

病弱な弟の治療費を工面するため、私は婚約者の三浦翔風から受ける凄惨な虐待に十年間も耐え忍んできた。しかし、節目の婚約十周年パーティーで彼は、私への唯一の贈り物を奪い取り、平然と愛人の首に飾ってみせた。絶望に打ちひしがれる中、追い打ちをかけるように病院から弟の容態急変の知らせが届く。必死に駆けつけようとする私を、彼は「金欲しさの狂言だ」と冷酷に突き放し、部屋に監禁した。ようやく解放されたときには、最愛の弟はすでに帰らぬ人となっていた。たった一人の家族を、彼の非情な仕打ちによって見殺しにされたのだ。長年の忍従は無残に踏みにじられ、心は深い憎悪に塗りつぶされた。全てを失った私の手元に残されたのは、一族に伝わる秘匿された調香レシピと、消えることのない復讐心のみ。数年後、私は正体を隠し、かつての婚約者の前に再び姿を現す。かつて奪われた全てを、今度は彼の人生ごと根こそぎ奪い去るために。香りに秘められた罠が、傲慢な男を破滅の淵へと誘い出す。
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細川瑞樹 POV:

閉じ込められた部屋は, 豪華ではあったが, 私にとっては薄暗い監獄だった. 壁の絵画も, 高価な調度品も, 私には何の価値もなかった. ただ, 密閉された空気だけが, 私の呼吸を圧迫していた.

「開けて! お願い, 開けてください! 」

私はドアを叩き続けた. 私の声は, 虚しく部屋の中に響き渡るだけだった. 喉が枯れ, 指先が赤く腫れ上がったが, 誰も答える者はいない. 壁は, 私の絶望を嘲笑うかのように, 冷たく沈黙していた.

膝から崩れ落ち, 私は床にへたり込んだ. 体中の力が抜けていく. 携帯電話は, 翔風に奪われていた. 外部との連絡手段は, 何一つない. 私は完全に孤立無援だった.

頭の中で, 看護師の切迫した声が何度も繰り返される.

「結子様の容態が急変しました! 意識レベルが低下して, 心拍も不安定です! 」

結子... . 私の, 大切な弟.

私は, あの時の結子の笑顔を思い出した. 事故で下半身不随になって以来, 彼はいつも私に, 無理にでも笑顔を見せてくれた.

「ねえちゃん, 早く元気になって, 俺の分までたくさん生きてね. 俺は, ねえちゃんの幸せが一番大事だから」

彼は, いつも私の幸せを願ってくれた. そして, 私は彼に誓ったのだ. どんなことがあっても, 守り抜くと. 彼の命を, 何としてでも繋ぎ止めると.

なのに, 今, 私は何もできない. 私は, ただこの部屋に閉じ込められているだけだ.

翔風. 彼の冷たい目, 嘲笑するような言葉.

彼は, 私の唯一の希望を, 奪おうとしている.

私を, 本当に愛していたとでも? そんな感情, 彼の心には一瞬たりとも存在しなかった. 彼はただ, 私を罪悪感で縛り付け, 彼の側に置いておきたかっただけだ.

「瑞樹, お前は本当に美しい. その瞳の奥には, 誰も知らない情熱が隠されている」

彼の言葉が, フラッシュバックのように脳裏をよぎる. あれは, 私たちの婚約初期の頃の言葉だった. 彼は確かに, 私を特別だと言った. あの頃の私は, 彼の言葉を信じていた. 彼の瞳に映る私が, 彼の言葉の通り, 特別な存在であると信じていた.

しかし, その幸福は, あまりにも脆かった.

あの事故の日.

病院の白い天井が, 私の視界いっぱいに広がっていた. 全身を襲う激痛と, 耳元で聞こえる, 医者の冷たい声.

「細川瑞樹さん, 目を覚ましましたか. 残念ながら, あなたの弟さんは... 」

そして, 翔風の声.

「お前がやったんだ! お前が, イチゴを, 俺の初恋を奪ったんだ! 」

彼の顔は, 怒りと憎悪に歪んでいた. 彼は, 私のベッドサイドで, 私を激しく罵倒した.

「お前のせいで, イチゴは声を失った! お前の弟も, 再起不能だ! すべて, お前の嫉妬と策略のせいだ! 」

私は何も言えなかった. 全身の麻痺と, ショックで, 声が出なかった.

翔風は, 私の弟のことまで罵倒した.

「お前たち姉弟は, 俺の人生を破壊した疫病神だ! だが, 安心しろ. 俺がお前の弟の治療費を出してやる. お前は一生, 俺に償うんだ」

私は, 彼の言葉に, ただ震えるしかなかった.

その日以来, 私は彼の人形になった. 彼が信じる「罪」のために, 彼に全てを捧げると誓った.

しかし, 私は知っていた. その事故は, 私のせいではないことを.

翔風の祖父, 三浦会長. 彼が, 翔風の結婚相手として相応しくないと判断した上條苺を排除し, そして, 家柄の劣る私を, 翔風に恩を売る形で縛り付けるために, 仕組んだことだった.

翔風と苺が乗っていた車に細工をし, 私が運転する車と衝突させた. すべては, 会長の周到な計画だった. 私は, ただ, その計画の「都合の良い」駒として利用されただけなのだ.

弟の命を人質に取られ, 私は彼に逆らうことはできなかった. 弟の莫大な治療費と, 最先端の医療技術. それを翔風が提供してくれる限り, 私は彼に尽くすしかなかった.

しかし, 今, 翔風は, その弟の命を, 見殺しにしようとしている.

私の心の中で, 何かが完全に砕け散った.

もう, 何も残っていない. 何も, 縛るものはない.

部屋は, どんどん暗くなっていく. 時間の感覚が曖昧になり, 私がどれくらいの時間, ここに閉じ込められているのかも分からなかった. ただ, 結子の顔だけが, 私の瞼の裏に焼き付いていた.

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