
盗まれた旋律、裏切られた愛
章 2
藤崎詩織 POV:
彼は私が壊れたと思っただろう。その通りだ。
でも、壊れたものは、もっと鋭い何かに生まれ変わることができる。
今夜、彼が知っていた弱くて信じやすい少女は焼き尽くされ、その灰の中から、冷たい目的意識を持った女が生まれた。
ゲームをしたいというなら、いいだろう。私がもっとうまくプレイしてやる。
私は計算された苦悩を演じ、震える息を吐いた。
彼の胸に寄りかかり、今や空っぽだと知った心臓の上あたりに頭を預けた。
「大丈夫」
わざと嗄れさせた声で囁いた。
「ただ…疲れただけ」
彼の肩から力が抜けるのを感じた。
嘘がうまく通じたと信じ込んだ男の、微かな安堵。
「休んだ方がいい」
彼は優しく言い、私の背中を撫でた。
「熱いお風呂を入れてやる。今、風邪をひくわけにはいかないからな」
ええ、ひくわけにはいかないわ。
冷たい悪寒が背筋を走る。
やるべきことが、山ほどあるのだから。
三週間後、毎年恒例のミュージック・ギルド・ガラで、彩奈がパフォーマンスをすることになっている。
その夜、彼らは私の最高傑作を彼女のものとして披露する計画だ。
そしてその夜、私は彼らの世界を焼き尽くす。
涼介は私を支えて立ち上がらせ、バスルームへと導いた。その一挙手一投足が、献身的な配慮に満ちていた。
翌朝、定期健診のために訪れた病院でも、彼は完璧で、愛情深い婚約者を演じきっていた。
超音波検査の間、彼は私の手を握っていた。
栄養や睡眠時間について、医者にいくつも質問をしていた。
「素晴らしいお父さんになりますね」
お腹のジェルを拭くためのティッシュを渡しながら、看護師が微笑んだ。
「とても気遣ってくださる」
涼介はただ微笑み、私が起き上がるのを助けながら手を握りしめた。
「この子に会えるのが待ちきれないよ」
彼の声は、まったくの偽物である感情で満ちていた。
クリニックを出ようとしたとき、彼女がいた。彩奈だ。
エレベーターの近くに立っていた彼女は、私の最初の車より高価そうなクリーム色のカシミアのドレスを着て、輝いていた。
彼女の手は、自身の少し膨らんだお腹を庇うように置かれていた。
彼女は涼介を見ると、勝利と所有欲に満ちた輝きを目に宿して、顔を輝かせた。
それは千回も見た光景だったが、今になってようやくその意味を理解した。
もちろん、彼女が妊娠していることはずっと知っていた。
出産予定日は私のわずか一ヶ月後。
彼女は完璧にタイミングを合わせていた。すべての視線を自分に集めるための、もう一つの小さなドラマ。
彼女は腰を揺らしながら、私たちの方へ歩いてきた。
「いたのね!ちょうど電話しようと思ってたところ」
彼女は姉妹らしい愛情を示すように、私の腕に触れようと手を伸ばした。
「気分はどう、詩織姉さん?少し顔色が悪いわよ」
彼女の指が触れる前に、私は腕を引いた。
彼女に触れられると思うだけで、肌が粟立った。
彩奈の笑顔が一瞬だけ揺らいだが、すぐに持ち直し、涼介に不満そうな顔を向けた。
「また機嫌が悪いのよ」
その時、今度は本物のめまいがして、足元がふらついた。
息が詰まり、お腹を押さえた。
「お腹が…」
私はうめき、目を閉じた。
「痛い…」
彩奈の顔がこわばった。
涼介の反応は瞬時だった。
彼は一瞬で私のそばに来て、腕をしっかりと私の腰に回した。
「どうした?何があった?」
彼の声は不安で張り詰めていた。
彼は私を近くのベンチへと導いた。
「座って。医者を呼んでくる」
彼はパニックに陥ったように心配していたが、私をベンチに座らせるとき、彼の目が彩奈の方へと走り、二人の間に共有された不安の閃きがよぎるのを見た。
彼がこの子を気にかけているのは、私たちの子だからではない。
それは道具であり、私を彼と彼の計画に縛り付けるための鎖だからだ。
「少し休ませて」
私は弱々しい声で言った。
「お願い、だから…少しだけ一人にさせて。注目されると、もっとひどくなる」
涼介はためらった。
「一人にはしておけない」
「大丈夫だから。五分だけ」
私はそう主張し、頭を後ろにもたせかけて目を閉じた。
彼はしぶしぶ頷いた。
彼は私の肩を最後に一度、安心させるように握ってから、後ろに下がった。
彼が聞こえない距離に行ったと確信した瞬間、私は目を見開いた。
彼がまっすぐ彩奈のところへ行き、私に背を向けるのを見ていた。
彼らの言葉を聞くには遠すぎたが、そのボディランゲージが真実を叫んでいた。
彼は手を伸ばし、彼女の腕を優しく撫でた。その表情は、安堵と苛立ちが混じり合っていた。
彩奈は腕を組み、不満そうに文句を言っていた。
「わざとやってるのよ、涼介。私が姉さんに会うのが嫌いだって知ってるくせに」
「しーっ、彩奈、落ち着け」
彼はなだめるように低い声で囁いた。
「もうしばらくの辛抱だ。アワードが確定して、赤ちゃんが生まれれば…」
彼はその先を言わなかった。言う必要もなかった。
彼はポケットから小さなベルベットの箱を取り出した。
それを開けると、この距離からでもダイヤモンドの輝きが見えた。
それは、先週私たちが通りかかった宝石店のショーウィンドウで見た、繊細なブレスレットだった。
私が素敵だと言ったものだ。
彼は、贅沢すぎると言っていたのに。
彼はそのブレスレットを彼女の手首につけた。その手つきは、いつまでも離れがたそうだった。
彩奈の不満そうな顔は消え、独りよがりな笑みに変わった。
「きれい。すごく高かったでしょ。ガラのドレスにぴったりだわ。赤とエメラルド、どっちがいいと思う?」
私の血が凍った。
私が書いた曲、彼が盗もうとしている最高傑作が、妹の手首を飾るダイヤモンドの代金になっている。
私の才能が、彼らの未来の資金源になっているのだ。
私は硬い動きで立ち上がり、振り返ることなく歩き去った。
携帯電話を取り出し、震えることのない指で番号をダイヤルした。
「はい、もしもし」
私の声は、はっきりと、穏やかだった。
「明日の午前十時の予約の確認をお願いします。ええ…『手術』の件です」
「詩織?」
涼介の、困惑に満ちた鋭い声が背後から聞こえた。
「誰と話してるんだ?」
私はゆっくりと振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。
彼の視線を捉えながら、電話に向かって話した。
「その通りです」
私の声は、毒のように甘かった。
「それと、ついでに、お腹の型取りもお願いしたいんです。記念品として。忘れたくない、大切な思い出のために」
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