フォローする
共有
春待青は春を待っている の小説カバー

春待青は春を待っている

僕の幼馴染、春待青は誰もが見惚れるほどの美少女だ。しかし、彼女にはあまりにも浮世離れした奇妙な一面がある。周囲の空気を読むことはおろか、他人の名前すら一向に覚えようとしない自由奔放な性格。さらには、常識では考えられないことに、その手から冷たい氷を自在に生み出すという不思議な能力まで持っているのだ。そんな彼女の正体は、人間社会に紛れて暮らす「あやかし」だった。本作は、あまりにマイペースで予測不能な青と、彼女に振り回され続ける僕の日常を描いた現代ファンタジー。次々と現れる個性豊かなあやかしたちが騒動を巻き起こし、事態はいつも想定外の方向へと転がっていく。時にシリアスな展開を交えつつも、基本は笑いと賑やかさに満ちたドタバタ劇が繰り広げられる。氷を操る風変わりなヒロインと僕が織りなす、少し特殊で賑やかな恋の行方は一体どこへ向かうのか。現代を舞台に、あやかし要素をたっぷりと詰め込んだ新感覚のラブコメディーが幕を開ける。青が待ち望む「春」の意味とは何か、二人の奇妙な関係性から目が離せない。
共有

3

高嶺光一というやつは、なんというか。同じクラスに在籍しているものの、僕にとっては存在している次元が一つ二つくらいずれているんじゃないかって――もしそうなら僕が平面で彼が立体だ――そんなどうでも良いようなことを考えてしまうような、つまりはそんなやつだ。

 正直、そんなに接点はない。出席番号は間に清水、鈴木二人、五月女、田中と五人も挟んでいるし、席も桂馬くらいは離れている。彼は体育会系で、僕は帰宅部系。

「だからさぁ、コーイチも一緒にカラオケ行こうよー」

 甲高い声が聞こえてきて、僕は昨晩のバラエティー番組について喋っている正面の友人――五月女(そうとめ)から目をそらし、声の方へと視線を向けた。クラスの中でもとりわけスカートの短い系女子が群れながら、高嶺とその友人を取り巻いている。

「コーイチ、歌うまいって板水(いたみ)が言ってたよ」

「マジ聴きたぁい」

 きゃんきゃんと囃し立てる女子たちに、話題の中心となっている高嶺は、「そんなことないよ」と案外に謙虚だ。

「板水が適当言ってるだけだって。それに、俺、放課後部活あるし」

「じゃあ今度の土曜とかでも良いよ? うちら、合わせるし」

「土日も部活だから」

 そう、会話を切り上げる高嶺に、女子らが「えーっ」と不満を隠さない声を上げるのを聞き――僕は少しだけにやっとした。

「みなっち。どうかしたん? ぼんやりしてると思ったら、今度はにやにやしだすし」

 途端に、不審な顔を向けてくる五月女に、僕はなんでもないと慌てて首を振った。適当にお喋りしているだけかと思っていたのに、変によく見ているものだ。

「みなっち、そういや昨日、春待さんと帰ったんだろ?」

「は?」

 唐突に切り替わる話題についていけず、僕は思いきり頓狂な声を上げてしまった。だが、五月女の顔は余計ににやつき、僕をにまにまと観察している。

「なんか、春待さんから誘ってきたらしぃけど?」

「え? あ、まぁ……」

 今度は五月女の目が動き、教室の後ろの方で女子同士、コンビニ菓子を交換しあってる輪の中にいる春待を捉えた(春待は一方的に貰っているだけだったが)。その顔が、下世話に歪む。

「なぁなぁ、やっぱり付き合ってんの?」

「違うって。前に言っただろ、昔からの知り合い」

「その知り合い、ってのがな。もしかして、元カノとか?」

「だから、違うって。昨日だって、別に一緒に帰ったわけじゃないし」

 いい加減イライラしだした僕の感情を察したのか、五月女は「ごめんごめん」と手をぱたぱたさせた。

「ほら、浮いた話の一つもないみなっちに彼女ができたならさぁ、お祝いくらいしてやりたいなって」

「で?」

「春待の友達とか、レベル高そうだし。あわよくば紹介してほしいなって」

 悪びれた様子もなく、けろりとそう言う五月女を、僕は無視することに決め、しっしっと追い払った。

「え、なに。怒った? みなっち怒ってる?」

「怒ってないけど。そういうのめんどくさいから、かかわりたくない」

 五月女はなおも「けち」だの「一回合コン組むだけで良いから」だの騒いでいたが、僕シャットアウトを決め込んだ。

 本当に、そんなことに構ってる場合ではないのだ。なんせ、ただでさえ僕には、高嶺光一と春待青を「くっつける」義務があるのだから。

※※※

「わたしに、恋をさせてください」

 春待が僕にそう言ったのは、彼女が転校してきたその日のことだった、

 春待と僕は、もともとが幼馴染みのようなもので――だからこそ、彼女が本来なら"こんなところに来るはずがない″ということを理解していて。混乱気味の僕を呼び出した春待は僕の混乱を更に深めると、「そもそも」と、聞いてもいないのに勝手に語りだした。

「ニンゲンって、なんのために恋愛をするのか、わかるですか?」

「え、いや。そんなこと急に言われても」

「相性の良い相手との子孫を残すためだけならば、そんな複雑な感情は必要ないのです」

 僕の混乱を放置したまま、春待は一人で言いたいことを喋り続ける。

「恋愛をしなくとも、ニンゲンは交配し、種を残すことができるですよね? なのになのに、恋は確かに存在するです。これって、とても――なんというか、おかしくないですか? おかしいですよね?」

「――はぁ」

 曖昧に頷きながら、僕は首筋を軽く掻いた。

「恋愛しない奴だっているじゃん」

「そう、しなくたっていいものなのです。なのに、恋愛というものは存在していて……ヒトのココロを大きく揺り動かすのです」

 春待は胸の前で祈るように手を組み、大袈裟に見開いた目で、覗き込むようにこちらの目を見つめてくる。芝居がかったしぐさなのになぜか様になっていて――そして何故だか、僕はその輝きから目をそらすことができなかった。

「私も恋がしてみたい。そのココロを、体験したい。知りたいのです」

「いや……でもさぁ、春待は」

「分かってるです。たぶん、父さまも姉さま方も反対するのです」

 僕の言葉を遮るようにして、春待は早口に言う。

「だからこそ、なのです。わたしは恋というものに飢えてますし、こんなこと頼めるのはミナミだけなのです」

 そう、一見真摯な目で見つめられると、僕は弱い。もう何年も、その目に騙されてきたというのに。僕の脳は全く学習能力が弱くて困る。今も、早まって心臓に鼓動のペースを上げるように命令しているらしい。僕の意思なんて、関係なしに。

「え……っと。それってさ、つまり」

「えぇ」

 にこりと、春待が微笑む。いつもは幼げな顔立ちなのに、なぜか笑うと可愛いというよりも、どこか艶やかな色が交じる。心臓が、うるさいくらいに高く鳴って止まない。同時に、経験が強く裏づけようとする嫌な予感も。

「ミナミには――私の恋の相手を探してもらうのです」

 途端。寸前まで鳴り響いていた心臓がぴしりと凍る。春待は気にしたふうもなく、けろりとした顔で「そのために、わざわざガッコウなんてところに来たのですから」と言い放った。

 やっぱりだ。どうせろくなことじゃないと思ったんだ――顔を出していた嫌な予感が、僕の中でそう勝ち誇ってみせる。それをなんとか退けようと、僕は少し語調を強めてみせた。

「あのさ。僕、そんな」

「やってくれますよね? ミナミ」

 僕の意思なんて関係ないのは、早まった僕の脳だけでなく、春待もそのようで。

「だってアナタは、わたしの下僕ですもんね」

 僕の頬へ気軽に触れてくる春待の手のひらには、温かさなんて欠片もなかった。

 ――ほんと、ろくなことじゃないと思ったんだ。

続けて視聴する!
物語はいよいよ佳境へ!アプリに切り替えて続きを読む
全エピソードをロック解除
公式サイトを開く

おすすめの作品

蹂躙された七年婚〜私を戦場に置き去りにした男〜 の小説カバー
9.6
結婚七周年を迎えたその日、平穏な日常は一瞬にして崩れ去った。大使館から届いたのは、滞在先のA国で武力衝突が始まるという緊急の退避勧告。パニックに陥る街で、私は夫からの「階下で待て」という指示を信じ、救急キットを手に必死の思いで駆け出した。しかし、約束の時間を過ぎても夫は現れない。戦火が迫る恐怖の中でようやく繋がった電話の向こうから聞こえてきたのは、あまりに無慈悲な言葉だった。「機密書類で車が一杯だ。それに、戦争を怖がるあの子を優先して避難させる」。愛するはずの夫は、私を戦場へ置き去りにすることを選んだのだ。大使館のバスに乗れと冷たく言い放つ彼の声に、七年間積み上げてきた愛情は粉々に砕け散った。絶望の淵に立たされた私は、もはや彼に縋ることをやめる。轟音と火の海に包まれる街で、私はただ一人、生き延びるために救急キットを背負い直した。裏切りという名の消えない傷を胸に刻み、赤く染まった戦地の中を、私は自らの足で歩き始める。
婚約破棄されたら、チート属性全部盛りの私が財界の神に捕獲されました。 の小説カバー
8.6
名家とは名ばかりの富豪一家から一方的に婚約を破棄され、世間の冷笑を浴びた雲居美月。しかし、彼女は悲嘆に暮れるどころか、首都最強の権力を持つ美貌の財界人と電撃入籍を果たし、周囲を驚愕させる。当初、夫となった男は「二年後には関係を断つ」と冷徹に契約結婚を宣言していた。だが、いざ生活が始まると彼は美月に執着し、片時も離そうとしないほど彼女を深く溺愛し始める。周囲がその変貌に困惑する中、美月の隠された素顔が次々と露見していく。世界最高峰のハッカー、伝統絵画の巨匠、そして先端企業の黒幕。各界の重鎮を友人に持つ彼女の正体は、誰もがひれ伏すチート級の才能の塊だったのだ。さらに、世界的な宝飾グループが「本物の令嬢」の発見を公表すると、その正体が他ならぬ美月であることが判明する。かつて彼女を嘲笑った人々は、あまりに規格外な彼女の真実に震撼することになる。冷徹な神に捕らわれた美しき天才令嬢が、その圧倒的な実力で運命を切り拓いていく極上のシンデレラストーリー。
偽令嬢?いいえ、私が世界のルールですが何か。 の小説カバー
8.9
江川朱里は20年間、名家の一員として育てられてきたが、実の娘が帰還したことで「偽物の令嬢」として家を追われてしまう。婚約者からも冷酷な言葉で突き放され、すべてを失ったかに見えた彼女。しかし、朱里の正体は世界最高峰の権威を誇る伊藤家の真の令嬢だった。隠されていた彼女の多才な素顔が次々と露わになり、周囲を驚愕させていく。神業とも言える医術、天才的なハッキング能力、さらには世界的人気ブランドのデザイン権までをも掌握する彼女は、まさに世界のルールそのものだった。かつての家族が恩を盾に金を要求し、後悔に震える元婚約者が復縁を迫るも、朱里は冷徹に彼らを切り捨てる。そんな彼女の前に現れたのは、禁欲的で孤高のカリスマと恐れられる御曹司。誰もが跪く高貴な男は、朱里の魅力に抗えず、執着心にも似た深い愛を注ぐようになる。毒舌で冷静沈着な令嬢と、彼女を溺愛するあまり甘い誘惑を繰り返す御曹司。二人が織りなす、華麗なる逆転劇と究極のロマンスが今幕を開ける。
旦那様、もう降参を。奥様は“表も裏も”すべての顔を持つ女です の小説カバー
9.7
国際的な最強武器商人として恐れられる黒崎零時が、世間で「無能な令嬢」と蔑まれる森田柊音に心を奪われた。彼女は婚約者に嫌われ破棄された過去を持ち、周囲は零時の選択を「外見だけの女に騙された」と冷ややかに見ていた。柊音の周囲に大物たちが集まり始めると、世間は零時の威光を利用した売名行為だと彼女を激しく非難し、その正体を暴こうと躍起になる。しかし、調査が進むにつれて驚愕の事実が次々と判明する。彼女の真の姿は、世界が驚嘆する天才科学者であり、医学界の頂点に立つ異才でもあったのだ。さらに、裏社会で最も恐れられる組織「ブラック・カタストロフ」の次期継承者という、冷酷な女王としての顔までもが露わになる。ネット上や名門家がこの衝撃に揺れる中、最強の夫であるはずの零時は、ある悩みに直面していた。自分の正体を隠し、敵を警戒するように冷たい視線を向けてくる愛妻をどう攻略すべきか。かつてない最強夫婦が繰り広げる、裏と表が交錯する波乱のロマンスが幕を開ける。
異世界移転した僕たちだけど僕のスキルだけファンタジー感が足りない気がする の小説カバー
8.3
平凡な中学生だった宇美矢晴兎は、ある日突然、クラスメイトたちと共に未知の異世界へと召喚される事態に見舞われる。周囲の仲間たちが勇者や聖女、賢者といった、まさにファンタジーの王道とも言える強力な希少職や伝説級の能力を次々と発現させていく中、晴兎に授けられた力はそれらとは一線を画す異質なものだった。ファンタジーの世界観にはおよそ似つかわしくない、あまりにも現実的で場違いなその能力に、彼は困惑を隠せない。剣と魔法が支配する過酷な新天地において、華やかなスキルを持つ友人たちと対照的に、地味で特殊な力を手にした晴兎の運命はどう転んでいくのか。異世界召喚という非日常の渦中で、一人だけ毛色の違う能力を与えられた少年の葛藤と、その独自の力を駆使して切り拓く冒険の幕が上がる。定番の英雄譚とは一味違う、異色の異世界サバイバルが今ここに始まる。果たして彼は、ファンタジー感の欠如したそのスキルを武器に、この世界の荒波を生き抜くことができるのだろうか。
伝説の魔導師 の小説カバー
8.0
かつて実の兄弟も同然の深い絆で結ばれていた二人の男、リキとネイト。分かちがたい友情を育んでいたはずの彼らの関係は、時の流れとともに無残にも崩れ去ってしまった。かつては若き天才マスターとして周囲から嘱望されていたリキだったが、今やその面影はなく、荒々しく乱暴な男へと変貌を遂げている。彼をここまで追い込み、変えさせてしまった元凶は、かつての友であるネイトに他ならなかった。ナン家の正当な後継者として育てられ、権力を手にしたネイトは、あろうことかリキを赤の他人のように冷遇し、突き放したのである。裏切りと絶望の淵に立たされたリキの心に宿るのは、燃え盛るような復讐の炎だけだった。「父上、必ずやあなたの仇を討ち、奪われた私たちのすべてを奪還してみせます」。失われた誇りと正義を取り戻すため、リキはかつての友を討つべく過酷な戦いへと身を投じていく。血よりも濃い絆が憎しみへと変わったとき、運命の歯車が大きく動き出す。家族の絆や宗族への愛を「馬鹿げている」と切り捨てる彼らの行き着く先にあるのは、栄光か、それとも破滅か。復讐にすべてを賭けた男の壮絶な物語が幕を開ける。