
愛を乞う女をやめたら、私は誰よりも輝いていた
章 3
三年後、波津市、黒川家。
広大な宴会場には光がきらめき、華やかな衣装の香りが漂い、賑わいに満ちていた。
黒川家は波津市八大家族の第四位。その地位は極めて重要。
今夜、黒川家当主の義娘が帰国したため、歓迎晩餐会が催されていた。
波津市上流社会の家族がほぼ揃っていた。
「徹、高崎星織も今日帰国したとか?」 隅の方で藤波景和が榊原徹に声をかけた。
それを聞き、榊原徹はワイングラスを持つ手を微かに止めた。二秒後、杯の赤い液体を一口含み「ああ」と喉を鳴らした。
彼は今日、肌に密着する濃紺のスーツを着込んでいた。髪型から服装まで、厳格で禁欲的なオーラを放っていた。
「ようやくか!あの醜女はとっくに席を譲るべきだった」 そう言いながら藤波景和は、榊原徹の隣に立つ滝沢幸汐を見た。
「おめでとう幸汐。もうすぐ君を『榊原若奥様』と呼べるな」
滝沢幸汐は上品に微笑んだ。「私にとっては徹のそばにいられるだけで十分。肩書きなんてどうでもいいの」
そう言いながらも、彼女の期待に満ちた視線は榊原徹から離れず、誰の目にも明らかだった。
榊原徹はうつむき、骨張った指でグラスを軽く叩き続け、沈黙を守った。
滝沢幸汐が視線を送ると、藤波景和は即座に応じた。「徹はお前をこんなにも愛してるんだ。高崎と離婚すればすぐに君を娶るさ」 「言うまでもないだろ?な、徹?」
榊原徹は彼らの言葉を完全に無視し、まぶたすら動かさなかった。
滝沢幸汐が唇を噛み締めようとした時、場内にざわめきが起こった。
彼らも顔を上げた。
最初に響いたのは、ハイヒールが大理石を打つ音だった。
「カツ、カツ…」そのリズムが観客の胸奥に刻まれるようだった。
すると、炎のような赤が視界に飛び込んだ。
現れた女性は深Vネックの真紅のドレスを纏い、輝くラメが鱗のように散りばめられていた。マーメイドスカートが歩みと共に優雅に揺れた。
そのくびれたウエストと妖艶な肢体は、全ての視線を釘付けにした。
小さな顔には彫りの深い五官。切れ長の狐目がアイラインで強調され、一層妖しい魅力を放っていた。
これは紛れもなく──誰もが自らの醜さを恥じるほどの美女だった!
「まいったな!この美女は何者だ?」 「波津市にこんな絶世の美女がいたなんて!」 藤波景和が驚嘆の声をあげた。
「ええ、本当に美しいわ」 滝沢幸汐も笑みを浮かべて同調した。
榊原徹が睡そうに目を上げたが、その女性を見た瞬間、瞳孔が鋭く縮んだ。
「彼女を狙う!今すぐ電話番号を聞く!俺の勝利を待てろよ!」 そう叫ぶと藤波景和は大股で進み出た。
女性の前に立つと、得意げな笑みを浮かべた。「やあお嬢さん!ご紹介を。藤波景和。父は藤波グループの社長だ」 「君のような美しい女性とお友達になれる栄光を頂けまいか?」
孔雀のように気取った男を見て、高崎星織はふと唇端を上げた。
かつて榊原徹の友人の中で、最も彼女を蔑んだ男がこの人物だった。
「臭ブス」「デブ豚」「醜女」…あらゆる罵声が浴びせられていた。
今その男が、発情した犬のように垂涎の眼差しを向けている。
考えてみれば…実に滑稽この上ない!
その妖艶な笑みに藤波景和が喉を鳴らした。「お嬢様のお名前は?」
高崎星織が紅唇を開こうとした時、低い男声が響いた。「星織…」
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