フォローする
共有
夫の親友に、略奪される。 の小説カバー

夫の親友に、略奪される。

神谷亜実と周防年彦は、学生時代から十年にわたり愛を育んできた誰もが羨む理想の夫婦だった。完璧な夫として亜実を宝物のように慈しむ年彦だったが、その裏では長年愛人を囲い続けていた。裏切りという残酷な真実を知った亜実は、未練を断ち切り離婚を決意する。「あなたに私の隣にいる資格はない」と告げ去り行く彼女を、暗闇で見つめる男がいた。年彦の親友、有馬理玖である。彼は十一年前から密かに、そして狂おしいほどに亜実を愛し続けていた。かつて二人の結婚式で付添人を務めた理玖は、親友の妻となった彼女への嫉妬に身を焦がし、いつか必ず奪い去ると心に誓っていたのだ。離婚後、亜実は司会者としての才能を開花させ、国際的な舞台で輝きを放ち始める。そんな彼女が親友の腕の中にいることを知った年彦は、理玖が離婚を唆したのではないかと詰め寄る。しかし、理玖は亜実を庇うように立ちはだかり、冷徹に告げた。「お前が彼女に相応しくなかっただけだ。最初から、彼女は俺のものになる運命だったんだ」
共有

2

電話を切ると、亜実のもとに私立探偵からメッセージが届いた。

添付された写真には、車の陰で貪り合う二人の姿が鮮明に写っていた。女の白く滑らかな手が男の首に絡みつき、月光の下でその白さが異様なほど際立っている。

亜実は胸の奥から込み上げる酸っぱいものを飲み込み、震える指で画像をスワイプし続けた。

詩乃は親しげに年彦の腕にすがりついており、その親密さは、まるで彼らこそが長年連れ添った夫婦であるかのようだった。

これまでの様々の出来事が走馬灯のように脳裏をよぎり、耳の奥では不快な耳鳴りが止まらない。息をするたびに、肺の奥に鋭いガラス片が刺さるような鈍痛が走った。

しばらくして、彼女は親友の柏木寧々に電話をかけた。

「寧々、明日、例のフライトクラブに行く時間は取れる?」

「えっ?あんた、あんなに高所恐怖症だって嫌がってたじゃない」

亜実は自嘲気味に口角を上げた。「……お祝いしたいことがあってね。ちょっと、挑戦してみたくなったの」

「……分かったわ。じゃあ、明日の朝、現地でね」

電話を切ると、彼女はあえて年彦にメッセージを送った。

「あと一週間で私たちの結婚記念日ね。特別なプレゼントを用意しているわ」

その直後。

テーブルに置かれた年彦のタブレットが「ピコン」と音を立てた。

まるで魔が差したかのように近づいてみると、そこには年彦のLINEがログインされたままになっている。

「年彦さん、ホテルの予約は済ませておきました。安心して行ってきてください。結婚記念日の日は、俺がうまくごまかしておきますから」

亜実は痛む口元をわずかに引きつらせた。指先はかすかに震えている。

なるほど。彼は、自分と記念日を過ごすつもりなど最初からなかったのだ。

自分を徹底的に欺こうと必死になっていたのだ。――本当に、ご苦労なことだわ。

亜実は画面を消し、タブレットを無造作に放り投げると、バスルームへ向かった。

翌朝。

寝返りを打った瞬間、隣から伝わる温もりに触れ、彼女ははっと目を覚ました。

年彦はまだ半分眠ったまま彼女を抱き寄せ、かすれた声で言った。「亜実、まだ早いよ。もう少し寝よう」

彼女は鼻で小さく笑い、すっとベッドから抜け出す。

「昨夜は、いつ帰ってきたの?」

「……ん?昨夜の十一時には戻ったよ。君がぐっすり眠っていたから、起こさなかった」

彼の嘘は彼女の心にさざ波を立てたが、すぐにまた凪のように静まった。

心は、とうに痛みに麻痺している。

昨夜、彼女は午前三時まで眠れなかった。もし彼が帰ってきていたなら、気づかないはずがない。

「今日は用事があるから、先に出るわ」

彼女は冷ややかに言い放った。

フライトクラブに到着すると、寧々が満面の笑みで迎えてくれた。

「亜実、何かいいことでもあったの?」

亜実はふっと笑い、落ち着いた様子で言った。「離婚することにしたの」

寧々は雷に打たれたかのように、その場に立ち尽くした。

離婚?

彼女の印象では、亜実は年彦に対してとても寛容で、まるで彼にすべてを捧げているかのように見えていた。

それなのに、突然離婚だなんて――。

「亜実、彼に……何かされたの?」

亜実はソファに腰を下ろし、コーヒーをぐいっと一口飲んだ。

「ううん」

その言葉に、寧々はほっと胸をなで下ろした。

「浮気されただけよ」 亜実は続けて付け加えた。

「浮気?」

寧々は怒りで声を荒らげ、顔いっぱいに憤りを浮かべた。「あんなに尽くしてきたのに、浮気するなんて!最低のクズじゃない!」

亜実の寂しげな表情を見て、寧々はすぐに話題を変え、優しく慰めた。「亜実、落ち込まないで。そんな男、別れて正解よ」

「若くて綺麗で、仕事だって成功してるんだから。男なんていくらでも見つかるわ」

亜実の心がどれほど傷ついているか、寧々には痛いほど分かっていた。なにしろ彼は、彼女が少女の頃からずっと憧れてきた相手だったのだから。

しばらくして、亜実は顔を上げ、ふっと笑った。「悲しくなんかないわ。子供ができる前に、あんなクズの本性が分かって本当によかった!」

そう言うと、彼女はどこか不自然にまばたきをした。誰かに見られているような、そんな熱い視線を感じた気がしたのだ。

視線の先をたどると、漆黒の瞳とぶつかった。

その瞳の持ち主はソファに気怠げに腰掛けており、黒のレザージャケットが彼の大人の色気を引き立てている。

亜実は何度も深呼吸をし、ようやく我に返った。

有馬理玖!

どうして彼がここに?

さっきの寧々との会話……聞かれてないわよね?

彼女は気まずくなり、顔を手で隠しながら小声で寧々に言った。「寧々、行きましょう。別のクラブにするわ」

寧々は事情が分からず、不思議そうに首をかしげる。「え?ここのクラブ、すごくいいのよ。オーナー自身がパイロットで、しかもすっごくイケメンらしいわ!」

今この瞬間、亜実は穴があったら入りたい気分だった。

指の隙間から恐る恐る覗いてみると、ソファに男の姿はすでになかった。

周囲を見回し、振り向いた瞬間――男の胸にぶつかり、思わず痛みに息を呑む。

「俺を探してるのか?」

亜実ははっとして、気まずそうに笑った。「どうしてここに?」

「俺のクラブだぞ。俺がいて何かおかしいか?」

「高所恐怖症のくせに遊びに来るなんて。空の上で恥でもかきたいのか?」

亜実は言葉に詰まった。そういえば以前、彼がフライトクラブを開いたと言っていたのを思い出した。

ただ、彼女はこの分野に興味がなく、深く聞かなかっただけだ。

まさか今日、こんな形で出くわすことになるとは思ってもみなかった。

彼女は少し苛立った口調で言う。「あなたには関係ないでしょ。私はお金を払って遊びに来たの。まさか客を追い返すつもり?」

「もちろん歓迎するさ。今日は俺が乗せてやるよ」

理玖は彼女に断る隙も与えず、それだけ言うと背を向けた。

「亜実、あの人、どうしてあんなにキツい言い方するの? 前に見た時は誰に対しても冷たくて、ほとんど喋らなかったのに」

「変な人なのよ。放っておいて」

二人はクラブのフライトスーツに着替え、それぞれ別のヘリコプターに乗り込んだ。

理玖は頬杖をつき、余裕たっぷりの表情で彼女を見る。「怖くないのか?」

「ビビってお漏らしでもしたら、ヘリ一台弁償してもらう。それか……君自身をくれ?」

「くだらないこと言ってないで、さっさと飛ばして」 亜実は呆れたように唇を尖らせた。

「年彦と喧嘩でもしたのか?」

男はドアを閉め、不意にそう尋ねた。

何気ない素振りを装ってはいるが、視線の端はしっかり彼女を捉えている。知らぬ間に両手を強く握りしめながら、彼女が肯定する言葉を密かに待っていた。

おすすめの作品

捨てられ令嬢は、世界一のスパダリ富豪に強引に娶られる の小説カバー
8.0
松浦苑実が秋葉健人に捧げた献身は、周囲が狂気と呼ぶほどに徹底していた。彼の望むまま肌に墨を刻み、従順に尽くし続けてきた彼女を待っていたのは、あまりに無慈悲な裏切りだった。冤罪をかけられ罵倒を浴びた末、健人は大衆の前で彼女に「幼馴染へ土下座しろ」と冷酷に命じる。その瞬間、苑実の心に宿っていた愛は完全に潰えた。婚約破棄を経てボロボロになった彼女が、再出発の相手に選んだのは千億の資産を継承する富豪・藤原晴樹だった。二人の電撃結婚は瞬く間にSNSを席巻し、世界中に衝撃を与える。かつての余裕を失い、焦燥に駆られた健人は「彼女は俺への復讐のために藤原家の力を利用しているだけだ」と吠えるが、晴樹は動じない。愛妻を優しく抱き寄せ、退屈そうに告げる。「それが何だという。あいにく、私には使い切れないほどの金と権力があるのだから」と。どん底に突き落とされた令嬢が、世界一のスパダリに強引に奪われ、極上の愛で塗り替えられていく逆転劇が今始まる。
臨月のサレ妻~夫が庇ったのは、私ではなく愛人の下着でした~ の小説カバー
9.4
結婚三周年の記念日、妊娠三十六週という臨月を迎えた私の幸せは、一本の電話で打ち砕かれました。警察から告げられたのは、夫が女性用下着を盗み現行犯逮捕されたという衝撃の事実。急いで駆けつけると、そこには汚れにまみれた夫と、彼を必死に守ろうとする薄着の女性インターンの姿がありました。彼女は警察官に対し、その下着は自分が社長のために用意した物だと叫び、夫は動揺しながらも彼女を背後に庇います。夫の手には未だに黒いレースの下着が握られていました。信じていた伴侶の裏切りと、目の前の吐き気を催すような光景。私は弁解しようとする夫の頬を迷わず叩き、冷徹に言い放ちました。愛する人への信頼が、最悪の形で崩れ去った瞬間でした。
契約妻は捨てられた の小説カバー
9.5
実家の会社を倒産の危機から救うため、私はある条件を飲みました。それは、心を閉ざした建築家の夫と彼の幼い息子を支える「契約妻」としての五年間の生活。愛のない結婚だと分かっていても、私は家族として彼らに献身的な愛を注ぎ続けてきました。しかし、夫の心にはかつて彼を捨てた元恋人の影が常にあり、彼女の帰還によって私の居場所は無慈悲に奪われてしまいます。実の子のように育てた息子からは拒絶され、夫からは家政婦同然の扱いを受ける日々。決定的な絶望が訪れたのは、ある事故の瞬間でした。暴走する車を前に、夫が迷わず守ったのは元恋人と息子だけで、私はその場に置き去りにされたのです。地面に倒れ、遠ざかる三人の背中を見つめながら、私の五年間に及ぶ献身が無価値だったことを痛感しました。契約終了の書類に署名をし、私は静かに決意します。これまでの情愛をすべて捨て、二度と彼らの人生に関わることはないと。捨てられた契約妻の、新たな人生への歩みがここから始まります。
死んだはずの妻、愛を奪い返しに来た の小説カバー
8.3
かつて命を奪われ、すべてを失った悲劇の女性が、三つ子の母親として奇跡の帰還を果たす。血に染まる手術台の上で「子供は置いていけ」と冷酷に告げたあの男が、再び彼女の平穏な日々を壊そうと姿を現す。運命の歯車が動き出したのは、彼女が他人の花嫁として新たな人生の誓いを立てようとした結婚式の日だった。かつての夫は、三人の幼い子供たちを連れて式場を占拠し、彼女の前に立ちはだかる。死の淵から蘇った女の魂は、激しい怒りとともに復讐の炎を燃やす。「今度こそ、あなたのすべてを壊してやる」――。失われた愛と執着、そして深い憎悪が複雑に絡み合うなか、 billionaireの世界を舞台にした壮絶なリベンジ・ロマンスが幕を開ける。裏切りへの報復を誓う彼女と、過去に縛られた男。一度は死んだはずの妻が仕掛ける、命懸けの愛の奪還劇がいま始まる。二人の間に横たわる深い溝は、果たして何によって埋められるのか。愛憎の果てに待ち受ける衝撃の結末から目が離せない。
元妻の究極の復讐 の小説カバー
8.7
二十年連れ添った夫・神宮寺朔也が自ら命を絶ち、遺した言葉は妻の私ではなく、義妹の鈴原凛に向けられたものだった。夫は最期に、私が心血を注いだIT帝国の全てを、かつて我が子を間接的に死に追いやった憎き凛へと譲り渡したのだ。絶望の淵で人生を終えたはずの私は、気づけば十代の頃、神宮寺家の養子に選ばれる運命の日へと回帰していた。児童養護施設の喧騒の中、私はかつての夫である朔也と再会する。しかし、目の前の彼は驚愕に顔を歪め、私の名を呼んだ。彼もまた、あの凄惨な結末の記憶を抱えたまま過去に戻っていたのだ。「今度こそ君を救う」と、罪悪感に満ちた瞳で誓う朔也。だが、その言葉は空虚に響く。前世で彼の「救済」を信じた結果、私は愛する息子を失い、人生の全てを奪われたのだから。裏切りと後悔に彩られた過去を背負い、二人の二度目の人生が幕を開ける。これは、愛憎の果てに全てを失った女が、運命の歯車を狂わせる男と対峙し、己の矜持を取り戻すための物語である。復讐か、それとも決別か。交錯する記憶の中で、真実の愛の形を問うサスペンス・ロマンス。
尽くすのをやめた妻に、夫は狂う の小説カバー
8.4
結婚以来、彼女は「完璧な妻」として献身的に振る舞い続けてきた。夫には他に心から愛する女性がおり、自分に対して冷淡な態度を貫いていると知りながらも、彼女はその孤独を静かに受け入れていたのだ。周囲の人々は彼女の尽くしぶりを認めつつも、夫の想い人が帰国すれば、彼女の立場は崩れ去るだろうと冷ややかな視線を送っていた。しかし、いざその時が訪れると、彼女は未練を見せることなく離婚届に署名し、潔く夫のもとを去る決断を下す。予期せぬ拒絶に動揺し、目を血走らせて執着を露わにする夫。「一体何のつもりだ」と問い詰める彼に対し、彼女は新たな婚約指輪を輝かせ、穏やかな笑みを浮かべて告げた。自分はもう別の相手と結婚するのだと。誰もが、彼女は夫を深く愛し、彼のためならどんな苦難も厭わないと信じて疑わなかった。だが、彼女がその瞳に映していたのは、夫自身ではなかった。彼女が見つめていたのは、夫の背後に重ね合わせた、別の誰かとの「長い歳月」の記憶だったのである。