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夫の親友に、略奪される。 の小説カバー

夫の親友に、略奪される。

神谷亜実と周防年彦は、学生時代から十年にわたり愛を育んできた誰もが羨む理想の夫婦だった。完璧な夫として亜実を宝物のように慈しむ年彦だったが、その裏では長年愛人を囲い続けていた。裏切りという残酷な真実を知った亜実は、未練を断ち切り離婚を決意する。「あなたに私の隣にいる資格はない」と告げ去り行く彼女を、暗闇で見つめる男がいた。年彦の親友、有馬理玖である。彼は十一年前から密かに、そして狂おしいほどに亜実を愛し続けていた。かつて二人の結婚式で付添人を務めた理玖は、親友の妻となった彼女への嫉妬に身を焦がし、いつか必ず奪い去ると心に誓っていたのだ。離婚後、亜実は司会者としての才能を開花させ、国際的な舞台で輝きを放ち始める。そんな彼女が親友の腕の中にいることを知った年彦は、理玖が離婚を唆したのではないかと詰め寄る。しかし、理玖は亜実を庇うように立ちはだかり、冷徹に告げた。「お前が彼女に相応しくなかっただけだ。最初から、彼女は俺のものになる運命だったんだ」
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「あなたが一番望んでいることじゃないの?」

学生時代、彼ら三人は友人同士だった。しかし、彼女が年彦と付き合い始めてからというもの、理玖の態度は一変した。

彼女が年彦と結婚した際には、さらに多くの皮肉を浴びせられたものだ。

「最初から合わないって言っただろ。お前が勝手に痛い目を見に行ったんだ」

「人生まだまだこれからだってのに、年彦がなんでよりによって、お前みたいなひねくれた女に執着しなきゃいけないんだ?」

この数年、彼のトゲのある物言いには随分と慣れているつもりだったが、まさかここへ来てさらに記録を更新してくるとは思わなかった。

亜実は彼を睨みつけた。「誰がひねくれた女よ」

理玖は口角を上げて笑い、それ以上は何も言わなかった。

なぜか急に、彼のご機嫌が良くなったようだ。

キャビン内が沈黙に包まれる。微かな無重力感に、亜実は思わず拳を握りしめ、掌にはじわりと汗が滲んできた。

ヘリコプターは急上昇と急降下を繰り返し、ジェットコースター以上のスリルがある。

亜実はとうとう耐えきれずに悲鳴を上げ、その合間に彼への悪態をいくつか挟んだ。

「理玖、わざとやってるでしょ!」

男は速度を落とし、少ししゃがれた声で言った。

「もう離婚を切り出したのか?」

亜実は唇を固く結び、答える気配を見せなかった。

何しろ彼と年彦は親友同士だ。裏で告げ口されないとも限らない。

再びキャビンに沈黙が落ちたかと思うと、ヘリが急加速し、彼女は思わず声を上げた。

「切り出したのか?」

悪戯が成功して満足げな隣の男を恨めしそうに睨みつけ、彼女は仕方なく口を開いた。

「彼にはまだ言ってないわ」

その言葉を聞いて、男の表情がわずかに冷たくなったように感じた。

「でも、離婚協議書にはもうサインした」 亜実は落ち着いた声で言った。

その声が波紋を広げ、男の瞳の奥に一瞬だけ喜びの光が閃いたが、それはすぐに消え去った。

「亜実、お前は俺が思っていたよりずっと決断力があるな」

それは貶しているようでもあり、褒めているようでもあった。

亜実は乾いた笑いを漏らし、質問には答えずにはぐらかした。「少し速度を落として。景色が見たいの」

空からの景色は想像以上に美しく、慣れてくると無重力感も消えていった。

「そいつの浮気相手の名前は?」

理玖がふいに口を開き、静寂を破った。

亜実は眉をひそめた。「なんでそんなこと聞くの?横取りでもする気?」

「考えすぎだ。年彦がそこまで骨抜きにされるなんて、お前よりよっぽどいい女なのか見てみたいだけさ」 彼は皮肉たっぷりに言いながらも、その視線はどこか熱を帯びて彼女に注がれている。

亜実は思わず彼に冷ややかな一瞥を投げ、心の中で毒づいた。

理玖は、彼女が年彦と付き合い始めた頃からずっとこうだった。事情を知らない人が見たら、親友を奪われて拗ねているかのように見えるだろう。

彼女の知る限り、彼はゲイではないはずだ。それなのに、どうして二人の関係のこととなると、いつもこんなにトゲがあるのだろう?

「黙ってないと死ぬ病気なの?」

「私がブスだって言いたいわけ?」

「理玖、もし目を治すお金がないなら言いなさいよ。元同級生で、今はかろうじて友達ってよしみで、援助してあげるから」

その言葉に理玖は吹き出し、首をこちらに向けて面白そうに彼女を見つめた。

「年彦は、お前が他人の前でこんなに強気だって知ってるのか? どうしてお前は、俺の前と年彦の前でこうも違うんだ?」

この何年もの間、亜実は年彦の前でずっと優しくて善良で、気が利く妻を演じてきた。だからこそ、彼はあんなにも安心して外でその辺の女を囲っていられるのだ。

彼女を馬鹿にして、手のひらの上で転がしているつもりなのだろう。

「あなただって同じでしょ。他人の前ではクールでストイックなフリをしてるじゃない」

亜実はそう言って唇を軽く噛んだが、頭の中にはまだ彼の言葉が響いている。

そうだ。もし年彦が彼女の本来の性格を知っていたら、あんなに愛してくれただろうか?

彼が愛していたのは、ただの扱いやすい都合のいい女に過ぎなかったのだ。

「弁護士は見つけたのか?」

「離婚訴訟に強い弁護士を知ってる。紹介しようか?」

理玖の静かな声が耳元で響いた。どこか探りを入れるような響きが混じっている。

「年彦にバラされても怖くないの?」亜実は横目で彼を見て聞いた。

「せっかく助けてやろうってのに。いらないならいいさ」

理玖の声は淡々としていて、何の感情も読み取れなかった。

突然の親切な申し出に、亜実は少し戸惑った。

「理玖、時々本当に分からなくなるわ。あなた、本当に年彦のこと親友だと思ってる?」

親友の結婚をこれほど必死になって壊そうとする人間を、彼女は初めて見た。

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