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夫の親友に、略奪される。 の小説カバー

夫の親友に、略奪される。

神谷亜実と周防年彦は、学生時代から十年にわたり愛を育んできた誰もが羨む理想の夫婦だった。完璧な夫として亜実を宝物のように慈しむ年彦だったが、その裏では長年愛人を囲い続けていた。裏切りという残酷な真実を知った亜実は、未練を断ち切り離婚を決意する。「あなたに私の隣にいる資格はない」と告げ去り行く彼女を、暗闇で見つめる男がいた。年彦の親友、有馬理玖である。彼は十一年前から密かに、そして狂おしいほどに亜実を愛し続けていた。かつて二人の結婚式で付添人を務めた理玖は、親友の妻となった彼女への嫉妬に身を焦がし、いつか必ず奪い去ると心に誓っていたのだ。離婚後、亜実は司会者としての才能を開花させ、国際的な舞台で輝きを放ち始める。そんな彼女が親友の腕の中にいることを知った年彦は、理玖が離婚を唆したのではないかと詰め寄る。しかし、理玖は亜実を庇うように立ちはだかり、冷徹に告げた。「お前が彼女に相応しくなかっただけだ。最初から、彼女は俺のものになる運命だったんだ」
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「亜実さん、ここ数日はゆっくり休んでください。土曜のインタビューは私が代わりに受けますから」

神谷亜実はアシスタントの声にゆっくりと振り返り、淡々とした口調で答えた。「大丈夫よ。疲れてなんていないわ」

ふと視線を上げたそのとき、少し先にあるジュエリーショップの店内に、見覚えのある後ろ姿が目に入った。

先日、差出人不明の封筒が届いた。中に入っていたのは、見知らぬ女と肌を重ねる夫の生々しい写真――浮気の事実を否応なく突きつける一枚だった。すぐに私立探偵に依頼して相手の身元を調べさせたところ、小林詩乃という美容系インフルエンサーらしい。

亜実ははっと我に返った。「先に帰って。私は一人で少し見て回るから」

アシスタントを帰らせ、彼女は再び、少し離れた場所にあるジュエリーショップに視線を向けた。

パリッとスーツを着こなした男が、女の腰を引き寄せ、甘く蕩けるような笑みを浮かべていた。

女はわずかに首を仰ぎ、彼がエメラルドのネックレスを首に掛けるのを、素直に受け入れている。

二人は楽しげに言葉を交わし、まるで恋人同士のように寄り添っていた。

亜実は数秒間その光景を見つめ、やがてゆっくりと目を逸らした。

スーツ姿の男は、夫の周防年彦。そして、あの女は――。

見覚えのない顔だった。

けれど、探偵から聞かされた名前が、ふと脳裏に浮かぶ。小林詩乃。

亜実の目頭が熱くなり、心臓がぎゅっと締め付けられるように痛んだ。そっと視線を落とし、唇を噛みしめたまま、その場に立ち尽くす。

十年……十年間、愛し続けてきた男だ。

それなのに今、亜実はまるで部外者のようにそこに立ち、あの二人の幸せをただ盗み見ているだけだった。

傍から見れば、今をときめく美容系インフルエンサー。 仕事も順調で、隣には惜しみなく愛情を注いでくれる男がいる。

誰が見ても、これ以上ないほどお似合いの二人だった。

そう思った瞬間、胸の奥の痛みがじわじわと広がり、骨の髄まで染み込んでいくようだった。

詩乃はごく普通の出身で、亜実ほどの上品さがあるわけでもない。せいぜい可憐で清楚な印象の女に過ぎない。

ただ――その瞳だけは、驚くほど美しかった。感情をまっすぐに映し出す、澄んだ瞳。

一体どうやって、あの優しかった夫の心を変えたのか。

亜実は今すぐ彼女の前に駆け寄り、そう問いただしたくてたまらなかった。

十年の絆を捨て去り、かつての誓いを裏切らせてまで、突然バズったインフルエンサーに夢中にさせた、その方法を。

気づけば、亜実の目尻から静かに涙が滲んでいた。

亜実が帰宅した頃には、すでに夜九時を回っていた。外では激しい雨が降り続いている。

ドアを開けた途端、玄関で待っていた男が慌てたように立ち上がった。

大きく力強い手が、やや強引に彼女の細い腰を引き寄せる。

年彦は雨に濡れた彼女の髪を見つめ、眉をひそめた。

「亜実、どこに行っていたんだ?こんな時間まで帰らないなんて」

「そうですよ、奥様。旦那様はあまりにご心配で、警察に連絡しようかとおっしゃるほどで……十回以上もお電話をかけていらしたんですよ」 使用人の佐藤富美が歩み寄りながら言った。

年彦は富美からタオルを受け取り、優しい手つきで亜実の髪を拭くと、そのまま冷えきった彼女の手を自分の手で包み込んだ。

「次はちゃんと電話に出てくれ。本当に心配したんだ」

彼に近づいたその瞬間、亜実は彼の体から漂う女性物の香水の匂いに気づいた。甘く、柔らかな香りだった。

彼女は一瞬で現実に引き戻された。

年彦のこの振る舞いは、すべて見せかけに過ぎない。彼はもう、彼女を愛してはいないのだ。

実のところ、写真が送られてきたとき、彼女はまだそれを信じようとはしなかった。

しかし、ショーウィンドウのガラス越しに、二人が並んで立ち、あんなにも楽しそうに笑い合っている姿を目の当たりにしたとき、彼女は自分がまるで、冷たい夜の闇の中から他人の幸せを覗き見ているだけの存在のように思えた。

しばらくして、亜実はようやく重い口を開いた。「買い物に出ていたの。スマホの充電が切れちゃって」

年彦は優しく口元を緩め、振り返って富美に言った。「生姜湯を淹れてくれないか。黒糖を多めにして」

「それから、亜実の好きなものもいくつか用意してくれ。塩分と油は控えめで。最近ダイエット中なんだ」

富美が頷いてその場を離れると、広々としたリビングには二人だけが残された。

年彦は親しげに彼女の肩を抱き、優しい声で言った。「ごめん、怒らないでくれ。さっきは俺が焦りすぎた」

「俺が悪かった。この数日、本当に仕事が忙しくてさ。落ち着いたら、気分転換に旅行でも連れて行くよ」

亜実は顔を上げ、男の底知れぬ漆黒の瞳と視線を合わせた。まるで何かを見透かそうとしているかのようだった。

だが、見つめれば見つめるほど、目の前の男が見知らぬ他人のように思えてくる。

この男を、彼女は嘘偽りのない真心で十年間愛し続けてきた。しかし今日、彼女は思い知らされた――自分は彼のことを何一つ理解していなかったのだと。

「別に怒ってないよ。ただ家にこもりきりで退屈してただけ。気にしないで」

「じゃあ、明日は俺が一緒に買い物に行こう。バッグでも買ってやるよ」 年彦の言葉を聞いた瞬間、亜実は呼吸すら苦しくなり、痛む口元を無理やり引き上げた。

年彦は不思議そうに尋ねた。 「何を笑っているんだ?」

「こんなに優しい旦那様がいるんだもの。寝ていても笑って起きちゃうわ」

「もし何かあるなら、一人で抱え込まずに俺に話してくれ」 亜実は男の目を見つめ、静かに口を開いた。

「ええ、もちろん。私はあなたに隠し事なんてしないもの」

男は彼女の唇の端に軽くキスを落とし、口元の笑みをさらに深めた。

その笑顔は鋭い矢のように、すでに傷だらけの彼女の心を何度も射抜いた。

彼が視線を逸らした隙に、亜実はそっと指先で口元を拭った。そしてバッグから書類を取り出し、彼に差し出す。

「最近、郊外にいい土地を見つけたの。私にプレゼントしてくれない?贈与契約書にサインするだけでいいから」

年彦はそれを受け取ると、何も言わず余白にさっと署名を書き込んだ。そして書類を無造作にテーブルへ置き、どこか焦ったような様子で彼女の首筋にキスをしようとした。

亜実は二歩後ろへ下がり、思わず尋ねた。「中身、見ないの?」

「君が欲しいものなら何でもいい。わざわざ確認する必要なんてないさ」

彼女は書類に視線を落としたまま、自嘲気味に唇を歪めた。

そのとき、突然年彦のスマートフォンが鳴り響き、静寂を破った。

着信の名前を見た瞬間、彼の顔色が変わる。「亜実、仕事の電話だ。ちょっと出てくる」

亜実は黙って頷いた。

足早にベランダへ向かう彼の後ろ姿を、彼女はただ見送った。冴えわたる月光が、その肩に静かに降り注いでいた。

横から見える彼の口元には、わずかに弧を描く笑みが浮かび、その瞳には水のように柔らかな情が宿っている。

亜実は数秒間それを見つめたあと、テーブルの上の離婚協議書を手に取り、静かに二階へ上がった。

それは、年彦の浮気に気づいたときに用意したものだった。当初はまだ迷いもあった。

夜の静けさの中でふと、もし彼が正直に打ち明けてくれたなら、許してしまおうかとさえ思ったこともある。

だが今日――あの甘く優しい光景が、彼女の心の堰を完全に打ち砕いた。

自分を愛してもいない男が、偽善的な優しさを装って隣で眠る。そんな日々を、もう受け入れることはできなかった。

彼女は美しいギフトボックスを取り出し、その中に書類を収め、丁寧に蝶結びを作った。

これから贈る、最高のプレゼントだ。

「亜実、ちょっと急用ができて出かけないといけなくなった。夕食は一緒に食べられない」

申し訳なさそうな声を聞き、彼女はゆっくり振り返る。

彼女の視線は、彼のスマートフォンに釘付けになった。画面には、まだ通話中であることが表示されている。

このわずかな時間さえ、電話を切るのが惜しいというの?

亜実は皮肉げに唇を歪め、彼を見上げた。

彼女の声には、どこまでも優しい響きが滲んでいる。「大丈夫よ。お仕事なら行ってきて。私のことは気にしないで」

年彦は彼女の物分かりのよさに胸を打たれたのか、わずかな罪悪感を滲ませながらスマートフォンをタップし、電話を切った。

「亜実、本当にごめん。帰りにプレゼントを買ってくるよ」

年彦は数歩近づき、手を伸ばして彼女を抱き寄せようとしたが、腕は空を切った。

亜実は身を翻してドレッサーへ向かい、何事もない顔でピアスを外した。

「早く行って。待たせたら悪いわ」

男はそれ以上何も言わず、足早に背を向けて立ち去った。

亜実は鏡越しに彼の口元の笑みを見つめ、胸の奥にチクチクとした痛みを感じた。

あれほど綻びだらけだったのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。

鏡の中の自分を見つめる。血の気を失った白い顔には、どんな感情の揺れも浮かんでいない。

離婚協議書には、すでに署名がある。あとは離婚届に署名させるだけだ。

しかし年彦のあの様子では、両方を手に入れ、このまま関係を続けようとしているに違いない。あの男が自ら離婚届にサインするはずがなかった。

だが残念ながら、彼は自分を買いかぶり、彼女を見くびっていた。

彼を責めるつもりはない。男というものは、結局みな同じだ。

どれほど愛していようと、行き着く先は同じ。

年彦が二股をかけるというのなら、自分だって新しい世界を追い求めればいい。

男がいなければ生きていけないわけではないのだから。

亜実は静かに立ち上がり、荷物をまとめると弁護士に電話をかけた。

「井上先生、離婚協議書にサインをもらいました」

「神谷さん、周防社長が離婚届にもサインすると、確信を持てますか?」

亜実は冷たく笑った。「その心配はいりません。私に考えがあります」

年彦には弱点がある。だからこそ、扱いやすい。

「承知いたしました。 神谷さん、少し早いですが、自由の身になられることをお祝い申し上げます」

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