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裏切りの指輪、名前を捨てて の小説カバー

裏切りの指輪、名前を捨てて

結婚生活7年目、デザイン事務所の代表を務める夫・晴哉と浜本心葉は、周囲から理想の夫婦と目されていた。しかし、一通のメールがその平穏を無慈悲に破壊する。そこに写っていたのは、夫とアシスタントの坂田蓮夏が密着する姿だった。さらに蓮夏の指には、心葉のものと全く同じデザインの指輪が嵌められ、内側には二人の愛を誓う刻印まで刻まれていた。メディアで妻への愛を語る夫の言葉はすべて虚飾であり、心葉が心血を注いだデザインさえも蓮夏の手柄として奪われていたのだ。蓮夏からは、夫との愛を誇示し、心葉の身ごもった子供を否定する残酷な言葉が執拗に届く。愛も才能も、そして宿った命さえも裏切られた心葉の精神は限界を迎えた。夫を問い詰めたところで、返ってくるのは空虚な嘘に過ぎない。もはや修復不能な絶望の淵で、彼女はある決断を下す。それは、戸籍や財産、過去のすべてを清算し「浜本心葉」という存在をこの世から抹消すること。名前を捨て、自らの死にも等しい失踪を遂げることこそが、裏切り続けた夫への最大の復讐となる。音も立てずに崩壊していく、愛と執着の物語。
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浜本心葉 POV:

「心葉! ? 大丈夫か! ? 」晴哉が, 慌てて私のもとに駆け寄ってきた. 彼の顔には, 焦りと, ほんの少しの恐怖が浮かんでいた.

しばらくして, 胃の不快感が落ち着き, 私はゆっくりと立ち上がった. 全身に力が入らず, まるで抜け殻のようだった.

なぜ, 彼は私を裏切ったのだろう. 私に, 何が足りなかったのだろう. 私の心は, 問いと, 痛みで溢れていた.

もしかしたら, 蓮夏の若さや, 私にはない奔放さに惹かれたのだろうか. それとも, 私の才能に嫉妬し, 私を支配したかったのだろうか. 彼の真意は, 私にはもうどうでもよかった.

ゆっくりと呼吸を整え, 私は冷静さを取り戻した. 感情に流されてはいけない. これは, 私の計画の一部なのだ.

「心葉, 病院に行くぞ. こんな状態じゃ, 心配だ」晴哉は, 私の腕を掴もうとした. その手つきは, 私には不快でしかなかった.

「大丈夫よ. ただ, 少し神経性胃炎になっただけ. 最近, 仕事で疲れていたから」私は, 作り笑いを浮かべた. 彼の目には, 私の苦痛など映っていないだろう.

「そうか…無理をさせてしまって, ごめん. でも, 明日, 俺と一緒に事務所に来ないか? 最近, 心葉に会えてなくて, 寂しいんだ」晴哉の声は, 甘く, 私を誘うようだった.

私の心には, 嘲笑が湧き上がった. 寂しい? 彼の隣には, いつも蓮夏がいたはずだ. しかし, これは利用できる.

「いいわ. でも, ただ行って戻るだけじゃつまらない. あの, 先日晴哉が発表した新しいショッピングモールのデザイン. あれについて, いくつか確認しておきたいことがあるの」私は, 彼の提案に乗った.

晴哉の顔に, 一瞬の戸惑いが浮かんだ. 彼は, 私の質問が何を意味するのか, 分かっているはずだ.

「えっと, それは…急に言われても, 資料がないと…」彼は, 言い訳を探すように視線を泳がせた.

「あら, そう? でも, 私はあなたと一緒にデザインしたから, 大体のことは覚えているわ. あなたが私のデザインを盗んで, 蓮夏の手柄にしたこと以外はね」私は, 彼の目を真っ直ぐに見つめて言った.

晴哉は, ごくりと唾を飲み込んだ. 「わ, 分かった. 心葉がそこまで言うなら, 付き合うよ. でも, 無理はするなよ」彼は, 不承不承といった様子で頷いた.

家に戻ると, 晴哉はすぐにシャワーを浴びに行き, その後, 携帯を片手にどこかへ電話をかけ始めた. 彼の焦った様子が, 私の目にははっきりと映った.

私は, 彼の携帯が置いてあったテーブルに近づいた. やはり, 蓮夏に電話をかけていた. メッセージ履歴を見ると, 「明日, 心葉が事務所に来る. 準備しておけ」とあった. 彼らは, 私を欺く準備をしているのだ.

私は, 何も言わずにそのメッセージを閉じた. 私の心は, もう波立つこともなかった. ただ, 証拠が一つ増えただけだ.

晴哉は, シャワーから上がると, なぜか洗い物を始めた. 「心葉, 具合が悪いんだろ? 俺が洗い物をするよ」彼の声は, これ見よがしに優しかった.

「いいわ. 私がやるから, あなたは休んでいて」私は, 彼の厚意を冷たく断った. 彼の触れたものなど, もう触りたくなかった.

「そういえば, あのプレゼント, 開けてくれないのか? もしかして, 気に入らなかった? 」晴哉が, 不満そうに尋ねた. 彼は, まだあのプレゼントが私を喜ばせるものだと思っている.

「いいえ. 開けるのは, 明日, 事務所でね. みんなの前で開けたいの」私は, 冷たい声で言った. それは, 彼にとって, 公衆の面前での恥辱となるだろう.

「ん? なんでまた, そんなところで? 」晴哉は, 不思議そうに首を傾げた. 彼は, 私の意図を全く理解していない.

私の心の中では, 彼の裏切りが, 一つ残らず暴露される日が, 刻一刻と近づいていた. そのプレゼントは, 彼が私にしたことの, 象徴なのだ.

「なんとなく, そういう気分なのよ. サプライズは, みんなで分かち合うものだもの」私は, 曖昧に答えた. 彼の顔は, 混乱と期待が入り混じっていた.

晴哉は, それ以上何も言わずに, 私の言葉を受け入れた. 彼は, 私が彼に害をなすなど, 夢にも思っていないだろう.

翌朝, まだ夜明け前の薄暗い中, 携帯の着信音が鳴り響いた. 晴哉の携帯だ.

晴哉は, 最初は無視しようとしたが, 着信音は執拗に鳴り続けた. 彼は, 仕方なく携帯を手に取った.

私は, 眠ったふりをして, 彼の様子を伺った. 彼の, 微かな動揺が伝わってきた.

彼は, 電話をかけ直すためにベランダへ出て行った. そして, 数分後, 小さな包みを抱えて戻ってきた. それは, 彼が今朝受け取ったばかりの, 新しいサンプルのようだった.

「誰からだったの? 」私は, 起き上がって, 何気ないふりをして尋ねた.

「ああ, 取引先からだ. 急ぎの確認事項だってさ. 心配するな, もう大丈夫だ」晴哉は, 私に背を向けたまま, 曖昧に答えた. 彼の声には, 隠しきれない焦りがあった.

晴哉は, いつもより早く起きて, 私に豪華な朝食を作ってくれた. 食卓には, 私の好きなパンケーキが並べられていた.

「どうだ, 心葉. 最近, 疲れているみたいだから, 家事を手伝ってくれる人を雇おうと思うんだが, どうかな? 」晴哉は, 私の顔色を伺うように言った.

「いいえ, 必要ないわ. 自分のことは, 自分でできるから」私は, 彼の提案を断った. 彼の施しは, もう受けたくなかった.

「なんだよ, 頑固だな. お前はいつもそうだ」晴哉は, 冗談めかして言ったが, その声には, どこか本気の色が混じっていた.

「晴哉, あなた, 私を裏切ったでしょう? 蓮夏と, 何かあったの? 」私は, 彼の目を真っ直ぐに見つめて, 核心を突いた.

晴哉の顔から, 血の気が引いた. 彼は, 必死に首を横に振った. 「何を言ってるんだ! ? 心葉, 俺は, お前だけを愛してる! 誓って, 蓮夏とは何もない! 」

「本当に? 私の目を, 見て言ってごらんなさい」私は, さらに彼の顔に近づいた.

晴哉は, 私の視線から逃げるように, 顔を背けた. 「心葉, 信じてくれ! 俺は, お前しかいないんだ! 」彼は, 大げさな身振り手振りで, 私の手を掴もうとした.

私の心は, 彼の芝居にこれ以上付き合うことに疲弊していた. 彼の言葉は, もはや私の耳には届かなかった.

私は, 彼の掴もうとする手を振り払い, 静かに立ち上がった. 彼の顔には, 驚きと, ほんの少しの傷つきが浮かんでいた.

「心葉, どうして俺を信じてくれないんだ? 俺は, お前を心から愛しているんだぞ! 」晴哉は, 必死に訴えかけた.

私の心の中では, 彼の愛が, 私をどれだけ傷つけたか, 計算するような冷たい自分がいた.

「そろそろ, 事務所に行く時間じゃないかしら? 大事な会議があるのでしょう? 」私は, 彼の言葉を遮り, 冷静に言った.

晴哉は, ハッとしたように時計を見た. 「ああ, そうだった! 危ない危ない. 心葉, 本当にごめん. 早く準備するよ! 」彼は, 安堵したように言った.

「本当に, 蓮夏は使えないな. あの簡単な資料一つ, 作れないなんて」晴哉は, 準備をしながら, 蓮夏の悪口を言った.

「あら, そう? でも, 彼女は才能があるって, あなたが言っていたじゃない」私は, わざとらしく言った.

晴哉は, 私の問いかけに, 一瞬言葉を詰まらせた. 「そりゃ, 才能はあるさ. でも, やっぱり心葉には敵わないよ. お前が, 俺の唯一の宝物だからな」彼の言葉は, 私にはもう響かなかった.

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